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第6話

 私が、魔法を使える?

 色々聞きたかったのにあまりに衝撃的なドラゴンの言葉は私の頭を埋め尽くした。人間はカードを使わなければ魔法を使うことができない。なのに使える?

 理解が追い付かずまた混乱に陥っているとドラゴンは静かに、少し憐れむような声で続けた。


「知らぬのか?お主は何も知らぬのだな…いや、知ることも出来なかったのか。よし、我がお主に教えてやろう」


 ドラゴンはそう言うと大きな頭を私の頭にゆっくりと当てた。すると沢山の知識が頭の中に流れ込んでくる。激痛を伴いながら流れ込んでくる知識たちは、私の常識を軽く打ち破るようなものばかりだった。


 まず一つ目の驚きは、私たち人間が『忌み子』と呼ぶ子は魔力を持って生まれてくることだった。私が教師から教えられた知識や本から学んだ知識には、人間が魔力を持って生まれてくるというような情報はなかったはずだ。だからこそカードを使用して魔法を使うのだ。

 しかし流れ込んでくる情報によると、人間は『忌み子』のみ魔法を使用できるというのだ。双子が生まれるのは母親と父親に魔力を持つ素質があり、その夫婦が子供を産んだ場合のみでそれ以外では双子は生まれない。そして魔力を持つ素質を持つ両親から双子が生まれるのは一度のみ。

 双子はどちらも母親の胎内にいる間は魔力を持つ素質を持っているのだが、先に胎内を出た方が魔力を持つことができる。外の空気に触れた瞬間に魔力を纏わせ、そのときにまだ胎内にいる子の力も吸収してドラゴンのいう『愛し子』となる。その為後の子は魔力を持たない普通の人間として生まれてくる。

 魔法というのは魔力を使って操ることのできる力だ。故に通常人間は魔力を持たないので魔法を使うことが出来ないが、『忌み子』のみは魔力を持って生まれてくる為魔法を使うことができるというものだった。


 二つ目の驚きは、条約の内容が私の知る物と違うということだった。私が知っている条約の内容は、精霊側が人間が魔法を使えるよう助力するかわりに精霊たちの領土に人間側が踏み込まないというものだ。

 しかし本当の条約内容は、精霊が魔力を貸す代わりに(カードを送ることらしい)に『忌み子』が生まれたら精霊に『忌み子』を渡すというものだった。

 『忌み子』(ドラゴンや精霊たちにとっては『愛し子』)の持つ魔力というのは他種族と一部の人間(『愛し子』のこと)にとっては甘い匂いがし、非常に魅力的らしい。だから精霊たちも『忌み子』を手に入れたいらしく、人間に助力する代わりに『忌み子』を渡すよう条約を結んだようだった。領土に人間側が立ち入らないというのは王国によって改竄された情報らしく、正しい情報ではない。精霊たちの間では人間の知っている条約の内容ではない正しい条約の内容の方が認識されているらしい。本来の条約の内容を知らないのは、王国の一部を除く民だけだったようだ。


 ドラゴンから流し込まれた知識は驚きの連続だった。教えられてきた真実が、真実ではなかったことにショックを隠せない。

 フィーデン王国は沢山の情報を隠蔽している。神殿に『忌み子』が献上される理由も、『忌み子』の持つ力についても、私たち国民は何も知らなかった。何故隠しているのか、隠すことにどんな意味があるのか。知りたいことがまた増え、戸惑いが大きくなる。

 くっつけていた頭をそっと離したドラゴンは、私の不安を感じ取ったのか優しい声音で語りかけてくる。


「ここで暮らせば自ずと疑問は解消されよう。愛し子よ、どうするのだ?我はそろそろ答えが欲しい」

「は、はい…」


 この優しいドラゴンに甘んじてここで暮らしても許されるのだろうか。

 少しの躊躇はあったものの、行くところもないし疑問の答えも知りたかったので一緒に暮らす心を決めた。それに何より、この蒼いドラゴンと一緒にいられることが堪らなく嬉しかったから。


「私を、ここに住まわせていただけますか?」

「よいぞ、歓迎しよう。我一人では飽いていたところだ、丁度良い」

「これから宜しくお願い致します」

「うむ。よろしく頼むぞ愛し子よ」


 屋敷を出る前は、自分が歴史書の中でしか知らない生き物と一緒に暮らすことになるとは思わなかった。これではまるで娯楽小説のお話のようだ。

 人間ではない相手との生活に不安はあるけれど、この優しいドラゴンとならなんとかなりそうだという漠然とした思いもあった。惹かれているからというのもあるのかもしれない。

 可笑しな暮らしを送ることになることが楽しみだ。もうすぐ貰えるはずだった本に、もう悔いはない。どんな本よりも面白いことがこれからの暮らしに待っているのだから。


 屋敷を出てから、なんだか前向きになれている気がする。おかしくて笑うと、ドラゴンも小さく笑ったように聞こえた。


「何か面白かったのか?」

「いえ、これからが楽しみだなと思いまして。あなた様と暮らしていけることが嬉しいです」

「…ドラゴンと暮らすことが嬉しいなどどはな。面妖な娘よの」


 鋭い目を細めて柔らかい顔をしたドラゴンは、恐ろしいというよりはやっぱり優しい面持をしていた。


「…ところでお名前を聞いてもよろしいでしょうか」

「我は名前は教えられぬ。ふむ…スイリュウとでも呼ぶがよい」

「スイリュウ…ですか?」

「我は水を司る竜よ。だから水竜(スイリュウ)だ」


 名前を教えてもらえないことに、少しだけ寂しさを感じる。


「名前はどうして教えてはいただけないのでしょうか」

「我らは他種族には名前を教えぬ。気軽に力なき者たちに我らの名を呼ばれるのは気に入らぬのだ。契約時にのみ相手に名前を教える」


 また新しい単語が出てきた。情報が溢れすぎて頭が破裂しそうだが、新しい知識を蓄えるのは楽しくもあった。思わず声が弾んでしまう。


「契約というのはなんでしょうか?」

「命と力を共にする契りを交わすことよ。契約をすると契約した者の力と寿命を分け与えられる。寿命は契約者同志の寿命の丁度半分を生きることが出来るようになる。我と人間が仮に契約した場合は約2500年、精霊と人間が契約した場合は約200年を互いに生きる。ちなみに契約が行われるのは人間とのみだな」

「竜族と精霊族や妖精族が契約を結ぶことはないのですか?」

「人間と他種族でしか契約は結ぶことはせぬ。そもそも契約とは強く相手の魔力に惹かれてその相手を欲した場合に結ぶものだ。それこそ己の寿命を分け与えてでも欲しいと思った者にな。魔力を持つ者は『愛し子』に強く惹かれる。だから契約が結ばれるとしたらそれは『愛し子』である人間にのみなのだ」

「もしかして神殿に私たち『忌み子』が献上されているのは…」


 それ故なのだろうか。

 私たち人間が忌み嫌う『忌み子』とは、人間に助力してでも手に入れたい、そんな存在なのだろうか。


 名前を教えてくれないということは私はそこまでスイリュウ様に欲されるような存在ではないということ。それは酷く悲しい気がした。

 だけどそれでも、ここで一緒に暮らせるのならば構わない。心惹かれてやまない、優しいあなたと一緒なら。


「お主の思っている通りよ。賢い子よの」

「では本当に…私のような者は、愛されるような…そんな存在なのでしょうか」

「ああ、そうだとも。愛に飢えし哀れな娘子よ」


 自分は、誰にも必要とされない愛されない子だと思っていた。必要とされるのは、あくまで()()()としてで、私ではない。優しさも、愛も知らずに育ってきた。そんな私が、愛してもらえる人間であると、スイリュウは言った。

 初めて存在を認めてもらえた気がして、嬉しくてまた涙が出た。私は思いの外泣き虫なようだ。新しく知った自分の知らなかった一面は、とても愛しく思えた。


「…ジェシカです。私の名前はジェシカと申します」

「愛し子よ、お主も名を名乗る必要はないぞ」

「いいのです。私を見つけて下さったあなたに、知ってほしいから」

「…そうか。ならば呼ぼう、ジェシカ。これからよろしく頼むぞ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします、スイリュウ様」


 こうして私と一匹のドラゴンの可笑しな生活が始まった。



一部内容を付け加えていますが、ほぼ以前のままです。

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