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第5話

 なかなかドラゴンの言ったことを飲み込めずにいると、ドラゴンはゆっくりと口を開いた。


「呆けておるの。我の言っていることが分からぬか?」

「い、いえ!ですが良いのですか?私はあなた様の住処に勝手に入り込んでしまうような不届き者です…」


 あの歴史書によれば人間が勝手にドラゴンの住処に入り込むとドラゴンの怒りに触れると書かれていた。ならば今のこの状況はどういうことなのか?

 疑問符が沢山頭に浮かぶ。けれどドラゴンは特に気にした様子もなく言葉を続ける。


「ああ、緑竜のあの話のことを思い出して言っておるのか?ならば問題はない。最初は確かにお主が我の住む領域にいたことに苛立ちはしたが、お主は『愛し子』だった。お主が我の魔力に惹かれたように、我もお主の美しい魔力に惹かれた。故に衰弱して死にかけておったお主を死なぬよう、ある程度回復させてここに運んだのも我よ。だからそのようなことは気にすることはない」

「え!?」


 色々と理解が追い付かない。沢山の情報が一気に頭に流れ込んでくる。

 混乱に陥っているとドラゴンは呆れたように言った。


「そそっかしいだけでなく、随分と騒がしい愉快な娘よの。まあよい、返事は急がぬから今一度休め。お主はまだ混乱しているようだし、何より衰弱しておる。話はそれからだ」


 ドラゴンが小さく何かを呟いたかと思うと私の周りを温かな光が包んだ。

 急に眠気が襲う。色々と考えたいことがある。知りたいこともある。だけど考えることも知ることもできぬまま私は眠りの中に落ちていった。





 ◇ ◇ ◇





 夢を見た。両親にも妹にも愛されている、皆が私に優しいとても幸せな夢。

 アリスがいつも語っていたように、私は沢山のドレスや宝石を両親からプレゼントされていた。そして両親は「愛しているよ、可愛い可愛いジェシカ」と言う。アリスも「お姉様大好きよ」って言っている。使用人も皆優しくてニコニコしている。優しい優しい、いつか夢見た焦がれた光景。


 そう、これは夢だ。現実には絶対に起こりえないのだ、これは現実ではなく幻想だ。分かっていても、あまりに幸せな夢で私はその光景から目を逸らせなかった。もしかしたらあったかもしれない未来。双子の姉にさえ生まれなければ、普通の姉妹として生まれていれば訪れていたかもしれない未来。

 叶わぬ夢を夢見ていた愚かな私が、こんなにも幸せな夢を見てしまっているのは、憧れを完全には捨てきれないからなのだろうか。決して叶うことのない憧れを見せるこの夢は、酷く残酷だ。悲しくて苦しくて、心が痛い。

 どうしてこんな夢を見てしまうの。偽りの幸福など、見たくない。

 歯をきつく食いしばり、喉を自分の手で絞めた。この夢から逃れる為なら、夢の中で自分を絞め殺しても構わない。


 そんな風に思っていると、どこからか声が掛けられた。それは私を案じてくれる、優しい声。最近この声をどこかで聞いた気がすると思いながら、その声を探して周りを見てみるが、声の主はどこにもいない。この声の主に会いたい、早く会いたい。

 そう熱心に願っていると、そこで残酷な優しさを持つ幸せな夢は終わりを迎えた。



 肌寒さで目が覚めると、ひんやりと冷たい空気が肌に触れる。最近似たようなことがあった気がするが、まだ眠くて活動を拒んでいる私の頭はそれをなかなか思い出せない。

 冷たいはずの空気は心地良く、体に馴染むような不思議な感覚を覚えた。そのことを不思議に思いながら横になっていた体を起こすと、目の前に蒼いドラゴンがいた。


「目を覚ましたか。身体の方はどうだ?」


 急速に記憶を取り戻す。そういえばドラゴンと出逢い、話している間にいつの間にか眠ってしまったのだ。恥ずかしさと情けなさに苛まれながら自分の体調を確認し、返事をする。


「はい…とても調子が良いようです」


 あちこちが痛んで悲鳴を上げていたはずの私の身体は、どこも痛みを感じなくなっていた。それどころか疲労で重かった体は軽く、なんだかとても調子が良い。今なら洞窟内を駆けまわれそうだ。


「ならば良かった。治癒魔法など初めて使ったが、この様子ならば上手く効いたようだな」

「魔法…ですか?」


 驚いて目を見開く。精霊や妖精は魔法が使えると本で読んだので知っていたが、ドラゴンも使うことが出来るとは。

 私はやはり籠の中の鳥で、知らないことが沢山あるのだと改めて思わせられた。だからこうして色々知れる、教えてもらえる機会が生まれたことに心から神に感謝した。


「我ら竜族は精霊たちほどではないが、魔法の扱いに長けておる。だが魔法など使わずとも済んでしまうことが多い故、一生のうちに使わぬまま終わる魔法も沢山あるのだ。治癒魔法もお主と会わなければ使わずに終わったかもしれぬな」

「そうなのですね。私たち人間は精霊様たちの力を借りなければ魔法が使えませんので少し羨ましく思います。私も魔法を使ってみたかった」


 フィーデン王国では精霊たちと条約を結んでいる。条約の内容は、精霊側が人間が魔法を使えるよう助力するかわりに精霊たちの領土に人間側が踏み込まないというもの。この条約によって私たち人間は魔法を使えるようになった。

 人間が魔法を使うには条件がある。まず第一に精霊がくれた魔法陣が描かれたカードを使用しなければならない。魔法陣を媒介とし、精霊に魔力を借りなければ使えないからだ。そして第二にカードは使用できる回数が決まっている。10回程度使うとカードが塵となり消え去る。なので永久的に使うことは出来ない。これらの条件の元、人間はその不可思議な力を得た。

 そしてそのカードは年に一度精霊たちから送られてくる。条約が結ばれてから500年近く経つが、数は毎年5000枚と決まっているらしい。故に非常に貴重なものであり、軍事的に利用されることが多く一般には出回っていない。王国騎士団にはこのカードを使って魔法を使う部隊があり、そこで使用されるのが一番多いと言われている。

 だから一般人は魔法を使う機会はない。なので私も当然使ったことはないし、見たこともなかった。


 魔法は民衆の憧れであり、小説などでもよく出てくる。私の持っていた8冊の娯楽小説のうち6冊で魔法を使うキャラクターが出ていた。火や水を自在に操り魔物を退治するお話は、ワクワクして何度も読み返したのを覚えている。

 だから私も魔法というものに昔は憧れていた。アリスと出会ってからは、すっかり忘れてしまっていたが。

 私が過去の憧れに浸っていたら、ドラゴンが不思議そうな顔をして私を見ていた。


「何を言っておるのだ。愛し子であるお主も魔法が使えるであろう」


 私は間抜けに口をぽかんと開けて、目をただただ見開いた。



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