第32話
スイファさんとは森の入り口で別れることになった。
なんでもお姉さんと二人で話したいことがあるらしく、私がそこにお邪魔する訳にはいかないので、スイリュウ様のところへ戻ることにした。
途中、精霊様たちが話しかけてくれたのでそれに応えつつ、頭の中はスイリュウ様のところに戻ることで一杯だった。
スイファさんに隠していた想いを暴かれてから、スイリュウ様を好きという自分の気持ちを抑えることが難しくなってしまって、早くスイリュウ様に会いたくてしょうがなかったのだ。
時間にすれば短いはずなのに、とても長く感じた会話を終え、なんとかスイリュウ様のところに辿り着く。
やっと会えたはずのスイリュウ様は、どこか落ち込んだ様子で胸が痛んだ。
「スイリュウ様、戻りました」
「おお、戻ったかジェシカ」
声にいつもの元気がない。どうしたのだろう。
「どうかなさいましたか?元気がないようですが…」
「いや、そんなことはない。…それより早く戻ろう。我は家が恋しい」
「は、はい」
突然家が恋しくなるスイリュウ様に対して沢山の疑問を抱きつつも、スイリュウ様の言葉に従い、家という名の洞窟へと戻ることとなった。
◇ ◇ ◇
いつものように魔法で洞窟に戻る。何度体験しても転移魔法の感覚は不思議で、ちょっと癖になりそう。
帰るやいなや、何故かそわそわとし始めるスイリュウ様。本当にどうしてしまったのだろう。
声をかけようかと迷っていると、スイリュウ様の方から声を掛けてきた。
「…ジェシカ。お前に会わせたい奴がおる」
「会わせたい方…ですか?」
「うむ。古くからの友なのだが…お前に会わせてやりたいと思ってな。最近は体調も問題なさげなのでどうかと思ったのだが…どうだ?」
友人に私を紹介してくれるということなのだろうか?
突然で驚いたが、なんだかとても嬉しい。
「はい!ぜひ紹介して下さい!」
「うむ。では明日、友のところへ向かうとしよう」
「はい!」
まさかの明日。驚きはしたが、最近の様子がおかしいことと、何か関係があるのかもしれない。
スイリュウ様の様子を気にかけながら明日は過ごそう。
そういえばひとつ、気になることがある。
スイリュウ様は友と言っていたけれど、その友とはもしかして、同じドラゴンなのだろうか。
聞いてもいいものかと悩んだが、思い切って尋ねてみることにした。
「スイリュウ様。あの…スイリュウ様のご友人は、もしかしてスイリュウ様と同じ、ドラゴンなのでしょうか?」
「いかにも。我の友は風を司り、皆にはフウリュウと呼ばれておる。めんどくさがり屋で巣から中々出てこぬやつ故、我がたまに遊びにいっていた友だ」
「そうなのですね。明日、会えるのが楽しみです」
「うむ。ではゆっくりおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
私はスイリュウ様の友人と会えることが楽しみで、なかなか寝付けないながらもその日はなんとか眠りについた。
翌日、目が覚めて朝支度を済ませ、スイリュウ様と一緒に朝食を食べる。
といっても、スイリュウ様は食事はしない。私が朝食を食べているのを、見守っているといった感じだ。
これはいつものことなのだが、今日はなんだか緊張してしまう。
スイリュウ様の友人を紹介してもらえるような、そんな関係になれたことが嬉しかった。
嬉しいけれど、スイリュウ様の友人に粗相をしないか心配だ。
こういう初めては緊張するんだと、また新しく学ぶことができた。
食事を終え、慣れてきた水の魔法で食器を綺麗に洗う。汚れた水を専用のバケツに流し、準備は完了だ。
ちなみにバケツに入っている汚れた水は、あとでスイリュウ様が消滅させてくれる。なんて便利な魔法をお持ちなのだろう。
私も使えたら良かったけれど、生憎人間には使えないような魔法なので潔く諦めた。
やっぱり竜族とは凄いんだなぁと、改めて感じる。だけど魔法の使い所が冒険小説に出てくるような、攻撃行為だったりしないのが、なんともほのぼのとする。
スイリュウ様は優しいから、きっと今後も攻撃魔法などは使わないだろう。
ちょっぴり見てみたい気もするけれど、見る機会など、ない方がきっといい。
「スイリュウ様。準備ができました」
緊張した面持ちをしたままスイリュウ様に話しかけると、そんな私の様子を見て目元を和らげ、優しく笑う。
「うむ…。我も数百年ぶりに会う友故、少し緊張しておる。だが、ジェシカの顔を見たら緊張感も吹き飛んでしまったようだ。我の友に会うだけなのに、そんなに緊張するものかのう?」
「緊張します!だって、スイリュウ様自らお友達を紹介していただくのは初めてですから…。私はあまり他者と関わることなく育ってきたので、こういうことには慣れていなくて」
「そうかそうか。ジェシカはもう自由よ。だからこれからは、少しずつこういうことにも慣れてゆくがよい。今後もこういう機会が多々、あるだろうからな」
「はい!」
今後も機会があるということは、これからもスイリュウ様と一緒にいられることを確約されたようでとても嬉しい。
尚更のこと、今回の機会を無駄にしないよう、頑張らなくては!
いつものようにスイリュウ様にくっつき、魔法に包まれてスイリュウ様の友のところへと向かった。