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第25話 スイリュウ(6)

 我は最近、ジェシカを水の精霊たちへ近づけたくはない。

 というのも、ジェシカが集落へ行くたびにとても楽しそうにしているからだ。いや、それでいいのだ。ジェシカが楽しそうなのは我も嬉しい。

 だが、最近何だかそれが面白くないのである。我以外と楽しそうにしているのは、少し気に食わぬ。

 前はこんな風に思うことはなかったと思うのだが。これでは子離れができない親のようではないか。


 それともう一つ理由がある。

 ソーファが何か企んでいる様子なのだ。あやつはいつも何を仕出かすか分からぬ奴だ。今度も何を企んでいるのやら。しかもそれが我にとって良くないことであるという予感がするのだ。

 こないだ、ジェシカにソーファとの仲を訊かれた。まあソーファが我によく話しかけてくるのでそれなりに交流がある。だから仲はいいであろうと思ってそう伝えると、ジェシカはしゅんとしていた。

 何か嫌な勘違いをされそうな気がしたので、思わず真顔で恋情や愛情は一切ないと伝えた。まあ多少の情はあるが、それ以外はないのは確かだ。

 それを聞いてジェシカは少しほっとした様子だった。我はジェシカに対してしか愛情を持っておらんのに、何を心配しておるのだろうか。

 自分が捨てられてしまうとでも思ったのだろうか?

 我の方から一緒に暮らすことを提案したのだ、捨てるなんてことする訳がないのだが。我は我が思っている以上にジェシカに信用されていないのであろうか。少し落ち込んだ。


 そんな訳で我はジェシカを集落へ連れて行くのを渋っていた。

 ジェシカは集落へ行けないことに少し落ち込んだ様子だったが、諦めて魔法の練習をすることにしたらしい。我に色々と魔法のことについて訊いてきた。

 ジェシカに頼られるのは、我は何よりも嬉しい。子が親に頼るのは当たり前だが、ジェシカは少し遠慮がちな所がある。それが最近、少し薄まってきた。

 我とジェシカの間に見えぬ信頼関係が築かれているような気がして、我は機嫌が良くなった。


 たまに人間がこちら側にジェシカを探しに来ていないか偵察にいった。まだ人間たちはこの森へは訪れていない。だがジェシカの住んでいたあの国は何を考えているのか分からん。警戒するに越したことはない。

 偵察から戻ると、ジェシカは風魔法の練習をこっそりとしていた。

 以前、背に乗せたり下ろしたりするときに自分でできるようになりたいと言っていたのを我が拒んだことがあった。我はジェシカの為ならなんでもやってやりたい。だから覚える必要などないと言ったのだが。

 ジェシカは諦めていないらしい。何か不満なのだろうか。

 ともかく危なっかしいからやめさせたい。…だが、一生懸命魔法を練習している姿をみていると、とめるのもとまどわれた。

 子が頑張っているのを、あまり邪魔してはいけないような気がしたのだ。どうしたものか。


 あまりにジェシカが集落へ行きたそうなので、我はジェシカを連れて行ってやることにした。

 連れて行く途中、結局ジェシカに風魔法を教えることにした。このまま我に秘密で続けて怪我をされるよりは我が教えた方が安心できる。

 一安心していると、ジェシカが不安そうな声で我に話しかけてきた。


「…スイリュウ様」

「なんだ、ジェシカ」

「スイリュウ様は契約などは、してはいらっしゃらないのですか?」

「急に何を…そういえば他の愛し子と会っていたときにそんな話をしていたな」


 火の精霊と一緒にいた愛し子が、そんな話をしていた。

 契約が婚姻のようなものだと知り、我が契約していたら自分がいてはまずいとでも思っておるのだろうか。この娘は時々阿呆なことを考える。

 我がジェシカを手放すなど、ありえぬ。


「契約などしておらぬよ。しておったらジェシカではない愛し子と一緒に我は暮らしておったであろうよ」

「…確かに、そうですよね」


 この際、ジェシカに直接聞いてみるか。


「ジェシカ。ジェシカは我と離れるのが…嫌なのか?」

「い、嫌です!ずっとスイリュウ様と暮らしていたいです!」

「そうかそうか」


 我だけではなく、ジェシカも我と離れるのは嫌だと思っているらしい。

 愛い奴め。我は親離れなどしてほしくはない。それでよい。


 集落へ着くと、ジェシカはいつもの精霊たちの歓迎を受けていた。一度我が怒った後は少し怯えていたが、もう今はその様子もない。完全に元に戻ったようだ。ちょっとだけ、気に食わぬ。

 今日は特に用事はなかったのでジェシカは精霊たちと食料を集めに行くようだった。

 我もついて行こうとしたのだが、我は大きすぎて木々をなぎ倒してしまうと精霊たちについて行くのを反対された。うむ、確かにそれは申し訳がない。

 だが、ジェシカを森に向かわせるには不安がある。どうしたものかと思っているとジェシカが我に抱き着いてきた。どうやら我が不満に思っていると思ったらしい。

 まあ不満と言えば不満なのだが、我も流石に精霊たちの住環境を壊すつもりはない。大人しく待っていることにした。ジェシカが触れると、やはり心地が良い。

 心配なので防御魔法などを色々とかけてやることにした。精霊たちがいるといっても、我がついていないのは不安なのだ。


 森へは2、3人組で向かうらしい。ジェシカはソーファと二人で森へ入って行くようだった。

 ソーファならば魔力も強いし、大丈夫であろう。スイファの方が一緒にいて安全だとは思うが、それは我が気に食わぬ。スイファとジェシカを二人にはしたくはない。

 あやつはジェシカを気に入っておる。我からジェシカを連れていってしまうかもしれぬ。

 スイファは、ジェシカを番のように思っておる。もしかしたら契約をもちかけるかもしれん。そしたらジェシカは、我の元を去っていってしまう。

 そんなことは、許せぬ。それならば我が契約を…。

 我は一体、何を考えているのだろうか。離れたくないという一心で契約など持ち掛けるべきではない。もとより我は誰とも契約するつもりなどない。

 ないのだが…。


 ジェシカは我が契約を持ちかけたら、なんと答えるだろうか。

 我から離れたくないと言っておった。ならば、契約を持ちかけたら、了承するのだろうか。

 自分の気持ちが分からず、我は戸惑いながらひたすら森を見つめていた。



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