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第21話

 体調を崩してしまった次の日、さっそく精霊様たちに謝りに行こうと思ったのだが、スイリュウ様が私が完全に回復していないと言って結局その日は洞窟に籠り、精霊様たちに謝りには行けなかった。

 私もまだ自己嫌悪に陥っていたので、丁度良かったのかもしれない。その日はゆっくりと休養を取り、身体も頭もしっかりと休ませた。


 次の日、スイリュウ様に頼み込んで精霊様たちに会いに行けることになった。最後までスイリュウ様は渋っていたが、結局行ってくれるのでやっぱりスイリュウ様は優しい。

 いつものように魔法を使い、水の精霊の集落へ向かった。


 集落へ着くと、いつものような勢いのある歓迎はなかったが、スイリュウ様の様子を精霊様たちがちらちらと窺いながらも恐る恐る歓迎してくれた。

 だけど、今日はソーファさんがいない。あの歓迎タックルがないのは少し寂しいものだと、いつの間にか私は自分でも気付かぬうちに思うようになっていた。


 ソーファさん宅に着くと、何故か家族全員で家の前で土下座して待っていた。


「「「「この度は、大変申し訳ありませんでした!!」」」」


 なにがどうしてこうなった。

 え、スイリュウ様そんなにソーファさんたちを責めたの?とスイリュウ様の方へ顔を向けると、すっと顔を逸らされた。な、なんということ!

 これはドラゴンを怒らせて、集落が滅ぼされる危機だとでもおもわれているのではないだろうか?

 だから皆して土下座を!?早くやめさせなくては!


「み、皆さん!土下座なんてやめて下さい!元はと言えば私の体調管理がなっていないからであって!」

「いや、ジェシカは元々身体がよわ」

「スイリュウ様はひとまず黙っててください」

「う、うむ…」


 なんだかドラゴンに対してとんでもないことを言った気がしたが、今は気にしている場合ではない。


「私が自己管理を怠っていた結果、皆様に迷惑をかけただけで、皆様は何も悪くありません。どうか頭を上げて下さい」


 そういうと、やっとソーファさんたちが顔を上げてくれた。

 だけど、顔色の悪そうなスイファさんが土下座は止めてくれたが謝罪は止めてくれなかった。


「いえ、そもそも愛し子であるジェシカさんの体調の変化に気付かなかった我々の落ち度もあります」

「そ、そんなことはないですよ!」

「いやしかし…」


 私もスイファさんも引かず、膠着(こうちゃく)状態が続いている中、欠伸をしていたスイリュウ様がそこに割って入ってきた。


「我もあの時はジェシカのことで気が立っておった。お主らには落ち度はあらぬよ。我が食事に行く前によくジェシカの様子を観察しておくべきだったのだ。だから二人とも、謝罪合戦はそのくらいにせよ」

「「はい…」」


 スイリュウ様の言葉で、私とスイファさんの言い合いは終わりを告げた。


「して、ソーファよ、我に願いがあるとかなんとかぬかしておったが、どういった願いだ?」


 急に別の話題に切り替わり過ぎて周りがついて行けてないにも関わらず、スイリュウ様はマイペースに自分を貫いている。

 突然話しかけられたソーファさんは戸惑いながらも問いに答えていた。


「は、はい…ジェシカちゃんはまだ他の『愛し子』にあったことがないので会わせてあげたいのです。神殿に献上された『愛し子』が、どのように暮らしているのか。それを知れば、ジェシカちゃんはより深く自分が必要とされていることに気が付くのだと思うのです。いかがでしょうか?」


 ソーファさんは最初は戸惑いがちではあったものの、今まで見たことがないくらいに真剣な表情でスイリュウ様に話しかけていた。

 私がより深く自分が必要とされていることに気付く?もう十分気付いているような気がするのだけど。

 スイリュウ様の方を見ると、目を細めて何かを考えていらっしゃるようだった。

 沈黙が流れる。そこにはとてつもない緊張感が充満していて、とても誰も口を開けそうなものは、スイリュウ様以外にいない。スイリュウ様は、なんてお答えになるのだろうか。

 しばらくの沈黙の後、鋭い牙が見え隠れするその口を、ゆっくりとスイリュウ様は開いた。


「…良い、許可しよう。ただし条件がある。『愛し子』に会うのは良いが、ジェシカがここ以外に行くのはならん。お主らが会わせたい『愛し子』を連れて参れ」

「分かりました!そしたら会わせてもいいんですね!?」

「構わん。わかったからそう騒ぐな、ソーファよ」

「あー!スイリュウ様ありがとうございます!土下座までした甲斐がありました!この御恩、ソーファは一生忘れません!」

「勝手にしろ」


 ちょっと不機嫌になってしまったスイリュウ様と、私を他の『愛し子』に合わせたくて仕方がないソーファさんとの決着は着いたようだ。色々と条件は付けられたみたいだが、ソーファさん的には問題ないらしい。

 私もちょっと他の『愛し子』に興味があるので嬉しくないと言えば、嘘になる。だけど、それと同じくらい不安もあった。私は献上された『愛し子』ではないから、知らないことばかりで、不出来な『愛し子』だ。ちょっとだけ期待しているが、友人に、なってくれるだろうか。

 不安が顔に出ていたのか、スイリュウ様が長い尻尾で器用に頭を撫でて下さる。


「大丈夫だ、ジェシカ。同じ人間といっても相手は『愛し子』。お前の知っている人間たちとは違う、本当の意味でのお前の仲間だ。安心して会いなさい」


 私の抱えていた不安とは違う不安の心配をされていたようだが、確かに相手は同じ人間だ。屋敷の使用人たちや、両親やアリスのような人がいてもおかしくない。

 そう思うと怖いけれど、スイリュウ様が大丈夫と言ってくれると、凄く安心できた。


 その後、物凄い勢いで何かと連絡をとっていたソーファさんから急に、


「明後日に連れてくるから、ジェシカちゃんも明後日にはここにきてね!」


 と言われた。ソーファさん、仕事早すぎではないだろうか。何者なんだろう。冒険小説などで読んだ影の暗躍者みたいな仕事の速さである。余程気合が入っているとみえる。

 私以上に楽しみにしてくれている彼女の為にも、私も楽しい気持ちで明後日に臨めるようにしようと思った。


 精霊様たちと別れて洞窟に帰り、温水の湧いている泉で身体を清めてベットにダイブした。

 色々と考えたいことはあるが、ともかく明後日がなんだかんだいって楽しみだ。

 初めて会う、自分以外の『愛し子』は、どんな人なのだろう。

 期待と不安を胸に、私はその日、眠りについた。


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