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第20話

 急すぎて何が起きているのか上手く呑み込めない。

 え、待って。今ソーファさんは何と言った?


「姉さん、流石にそれは駄目だよ。スイリュウ様はそこまでは許可してくれていない」

「大丈夫よ!私とスイリュウ様の仲よ、きっと許してくれるわ!」

「いや、無理だと思うけど…」


 色々状況が飲み込めないが、今聞き捨てならない言葉が聞こえた。


『私とスイリュウ様の仲よ』


 ソーファさんは、スイリュウ様と凄く仲がいいの…?

 確かに、この集落の中ではスイリュウ様と一番親し気にしていた。だけど、そこまで仲が良かったなんて。

 そこまで考えて、自分で自分に驚いた。この感情は、なんだろうか。

 モヤモヤとした、黒い感情。これは…。


 嫉妬だ。


 アリスに抱いていた感情と、同じ。

 私を大切にしてくれているソーファさんに、私はなんてものを抱いてしまったのだ。自分の顔から血の気が引き、身体が震えた。

 最低だ、私は最低だ。なんで嫉妬なんて。


 そこで、気付いた。

 私はスイリュウ様が、好きなのだ。


 最初は確かに魔力に惹かれた。魔力に惹かれて、スイリュウ様の元に運良く辿り着いて、一緒に暮らすようになった。

 その間に私は魔力だけでなく、スイリュウ様自体にもいつの間にか惹かれていたのだ。

 なんということだろう。私みたいな人間がスイリュウ様を好きになるなんて、烏滸がましいにも程がある。ましてや嫉妬などと。


 様子のおかしい私に気付いたスイファさんが心配して駆け寄ってきた。


「ジェシカさん!?大丈夫ですか!?」


 背を(さす)ってくれるが、震えは止まらない。

 こんな感情を抱くのは、許されていいはずがない。相手は竜族、私は人族。

 なんて罪深いのか。


「ごめんなさい、ちょっと体調が優れなくて…」


 なんとか言葉を絞り出したが、声は震えて力ないものだった。

 その後は私が体調を崩してしまったということで大騒ぎになった。スイリュウ様は私が体調を崩したことで、ソーファさんたちにいつもは見せない怒りを含んだ目で睨みつけ、セイファさん夫婦が平謝りし、ソーファさんとスイファさんは顔を青ざめて震えていた。

 大事になってしまった。せっかくの楽しい食事だったのに、私のせいで台無しにしてしまって申し訳ない。

 スイリュウ様に「大丈夫です、ちょっと調子を崩してしまっただけだから」というと、少し怒りを抑えてくれたが、やはりまだ怒っている。

 周りを見渡すと、いつもは嬉しそうに駆け寄ってきてくれる精霊たちが皆怯えて建物の陰に隠れてしまっている。私のせいで、迷惑をかけてしまっている事実に耐えられなくて、スイリュウ様に頼んでその日は早々に洞窟に帰った。







◇ ◇ ◇







 洞窟に帰ってきたら、スイリュウ様は少し落ち着いたようで、いつもの冷静さを取り戻して私を凄く心配してくれた。

 だけど自分の気持ちに気付いてしまった今、私にはそれすら恐ろしくて早々と部屋に戻った。

 心配してもらえるような、人間じゃないのに。

 自分の感情に気付いて、動揺して、そのせいで皆に迷惑をかけて。最低だ、私。

 勝手に私が体調を崩してしまっただけなのに、スイリュウ様は精霊たちのせいで私が体調を崩したと思っている。それだけは早く誤解を解かなければ。

 勇気を出し、部屋を出てスイリュウ様に声を掛ける。


「あの、スイリュウ様…」

「どうした、ジェシカ。まだ体調が悪いのか?」

「いえ、体調はだいぶ良くなりました」

「そうか…」


 心底安堵した様子のスイリュウ様に、不覚にも嬉しさが込み上げてきてしまった。そんなことを思ってもいい人間じゃないのに、でもやっぱり好きな方に心配してもらえるのは、とても嬉しい。


「スイリュウ様、誤解していらっしゃるようですが…私が勝手に体調が悪くなってしまっただけで、精霊の皆様は悪くありません。だからどうか、次に会ったときは精霊様たちを怒らないで下さい」

「…分かってはおる。ただ、ジェシカが体調を崩したと聞いたら奴らに当たり散らしてしまった。我もそれはすまぬことをしてしまったと思っておる。だから安心しろ、ジェシカ」


 良かった、誤解はなかったようだ。

 でもいつも落ち着いていて冷静なスイリュウ様が取り乱すほど私のことを心配してくれるなんて。嬉しくなって、私は口角を上げないように必死だった。


「セイファたちには悪いことをしてしまった。今度会ったときは何か頼みでも聞いてやるか」

「そうしてあげてください」


 精霊様たちに怒っていないことに安堵し、私は体を休める為に部屋に戻った。



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