紋白蝶
初回作
めちゃ下手 OKなら是非読んでください。
ここは赤川病院 寂れた病院だ
そこに揃って入院している夫婦がいた
彼は西園 春雄さん 今年で63歳になる
彼は昔 仕事の事故により視力をなくしてまった
それを隣で支え続けたのが妻の奈津代さんだ。彼女は癌を患っている。
早期発見だったので、不幸中の幸いと西園夫婦は言っていた。
私はこの夫婦の主治医を務めた、ただの医者だ。
暖かい春の日
春雄さんの視力回復手術が明日に控えていた。
「やぁ 先生おはよう」
春雄さんは明るく言った。
奈津代さんも続いて
おはようございますと言った。
私も笑顔で
「おはようございます。お二人とも体調はいかがですか?」
と尋ねた。
「目以外は元気ですよ。なはは」
冗談交じりに春雄さんは返した。
「そうですか。それは何よりです」
いつもと変わらないやり取りを交わした。
「あら、貴方 蝶々が飛んでるわ
モンシロ蝶ね…
綺麗。」
「そうか。まぁ 虫だがな。」
「私は好きよ。モンシロ蝶は特に
生まれ変わったら、モンシロ蝶になりた
いくらいよ」
「虫だぞ?いいのかよ。
ワシは生まれ変わっても人間で居たいも
んじゃ」
「あら、それじゃ つまらないじゃない」
「まぁ でも、君が蝶ならワシも蝶になろう
かな」
「まぁ 貴方ったら。」
相変わらず老夫婦のくせにラブラブだなと思ったが、毎日ラブラブなので流石に慣れる。
会話を割って入るのは好きではないが仕事なので仕方ない
「春雄さん、明日は手術を控えてますから
今日は、早めにおやすみになってくださ
いね」
「はい。わかりました」
春雄さんは笑顔で返した。
それでは また。と部屋を後にした。
暖かい春の日差しが差し込む病室で
西園夫婦のごくごく普通の会話が交わされる。
「あなた手術成功すればいいですね。」
「きっとするさ。なにせあの人は凄腕だからなー」
「私も早く治せるように頑張らなきゃね」
「ワシが見えるようになって、君が元気に
なれば、色んなものを2人で見よう。
君が好きな映画も、昔みた日本海も、桜
も、モンシロ蝶も…」
「そうね。きっと何もかもが懐かしいはず
よ。暮らし続けてきた我が家も写真
も。」
「これから楽しいことがいっぱいあるな。
幸せじゃわ」
「手術成功するように祈ってるわ」
「あぁ」
老い先は決して長いとは言えない2人の
残りの人生の歩み方、夢、これまでの思い出、それは夜まで語り尽きることは無かった。
そして明日の手術への不安、希望を抱きながら2人は眠りについた。
そして翌日、朝から行われる手術は緊張を極めた。バタバタと手術の準備が整い終わるまで夫婦は互いに手を握りしめていた。病室から運び出される春雄さんを元気に でも、少し不安げに見送る奈津代さんを最後まで笑顔で応えた春雄さん。
その笑顔はまるで「大丈夫じゃ!」と言っているようだった。
そして16時間におよぶ大手術は成功をおさめた。しかし…
「あ…」
麻酔が切れ目を覚ます春雄さん。
「お目覚めですか。お身体の具合はどうで
すか」と私は尋ねた。
「身体はなんとも。これで目は見えるよう
になったんですか」
まだ包帯は目を覆い 視界は真っ暗だった。
「はい。16時間に及ぶ大手術は成功しまし
た。お疲れ様でした。……あの」
次の話をしようとしたけれど春雄さんが続いた
「それはそれは、ありがとうございます。
これで、いろんなものを見れ」
春雄さんがホッと肩をなでおろそうとした時
「あの!」
私は、春雄さんの話しを強引に割った。
春雄さんはキョトン顔
「申し上げにくいのですが、手術の最中、
奈津代さんの病状が突然悪化し、そ
の…」
「え…?」
春雄さんの顔色は一変した。
その顔は目には入っていたが、一旦 話しを止めてしまうと言い出すことができそうにないから、勢いに乗せて 言葉を吐いた。
「その…お亡くなりになりました。」
「嘘…。嘘じゃっ!」
私は何を言っていいのかわからなくなっていた。
「嘘じゃ…。ワシは信じん!
何故じゃ。ここは、病院じゃろ…
なんで… くっ。」
突然のことで受け入れれるわけがない。が、冷静を装い私は言った。
「全力で、最善を尽くしましたが、それで
も力およばず。本当に申し訳ございませ
ん!」
深々と頭を下げた。
少し間が空き 春雄さんは口を開いた
「まだ…。まだ間に合うかも知れん。金な
ら払うから!だから、もう一度っ…
なぁ 頼むよ 先生。凄腕なんじゃろ…」
必死の形相でそう言う春雄さんに、返す言葉が見つからなかった。
「うぅ ううっ」
殺しきれない声を漏らしながら、春雄さんは朝まで泣いた。
病室に様子を見に行く。
そこにはベッドに座り 俯いている春雄さんが居た。
「先生。すまんな。気が動転して。」
当たり前にいつもの元気はないけれど、それでも普通にそう言ってきた春雄さんに正直驚いた。恨まれる覚悟をしていた私にとっては。
最善の言葉なんて何かはわからないけれど私は言った。
「いえ。心情お察しします。
お悔やみ申し上げます。」
「なぁ 先生 頼みがあるんじゃが。」
「?」
「この包帯を取ってはくれんか?
もぉ 見えるんじゃろ?」
包帯を指差し言った。
「しかし、まだ手術して間もないのですし
、今まで見えていないブランクが
長いので、光の刺激に視神経が耐え
きれず、また徐々に視力を失う可能性が
あります」
フッと頬を緩ませ
「かまわんさ。
居なくなる前に、1秒でも長く奈津代の姿
を見れるなら、それで」
と言った。
私は、血と涙で湿った包帯を優しく取った。
私が彼なら、きっと同じことを言うだろう。
「ゆっくり目を開けてください」
まだ 手術痕が痛々しく残る瞳ははっきりと
彼女を映した。
「痛みませんか?」
大丈夫と言わんばかりに頷く春雄さん。
「見え…ますか…?」
亡くなった奈津代さんを見て
「何かを得れば、何かを失うのかな…」
春雄さんが呟いた。
「そんなことは…」
と私は小さな声で返した。
「今にも起きて、喋り出しそうじゃ」
悲しげに言った彼の瞳は潤んでいた。
「ほら、モンシロ蝶が飛んどるぞ。
形は違えど、ようやく一緒に見れたな
虫だが、君が好きな理由が少しわかった
ような気がするよ。」
病室の外はあったかい日差しの中、優雅に紋白蝶が飛んでいた。
彼はじっと彼女を見つめて言った。
「なーんか、悔しいなぁ」
唐突のつぶやきに
「何がですか?」
と私は尋ねた。
「久々に見たら、窓に映るワシの顔が予想
を超えて年寄りじゃ。
それに比べて、奈津代は昔と変わらず
惚れ惚れするほど…」
奈津代さんの頬を優しく撫で
「綺麗だ。」
そう言って彼は笑って見せた。
そうして、また春雄さんは徐々に視力を失った
しかし彼は後悔はない!と言った。
そして季節を超え、ちょうど一年後
春雄さんも天国へと旅立って逝った。
その数日後 私は後輩と中庭で昼食をとりながら話していた。
後輩が言った。
「春雄さん最後まで奥さんのこと言って
ましたね」
「あぁ」
そう私は答えた。
死ぬ直前 彼春雄さんは言った。
「なぁ、先生。
これで奈津代に会えるかな」
私は会えますよ。と返したが
それを最後までは聞いてはいなかった。
そんな事を思い出していた時 後輩の問いが私を我に帰した。
「春雄さん、奈津代さんに会えましたか
ねー」
ふと目をやった花壇には、ひらひらと寄り添うように2匹の紋白蝶が飛んでいた。
晴れた空の下 笑顔で歩く老夫婦が見えた気がした。
私は答えた。
「会えたさ。きっと。」
大切な人を大切に