黒腕新年特別編 新年の始まりは喧騒の始まり
クリスマスの一件から数日。
時はすでに年末年始である。
「ふぅ、やっぱり年末年始は年越し蕎麦だな」
そう言って朝日は自宅のリビングに腰をおろし蕎麦をすする。
その視線はテレビに向いていた。
「やっぱり年末は『ボウ使』だな」
ちなみに『ボウ使』とは毎年恒例の笑ったらケツをシバかれるバラエティー番組、『ボウズの使いやありまへん』のことである。
ふと、なんとなく視線をリビングの掛け時計に向けてみるともうそろそろ年の瀬であった。
「今年もいろいろあったな…ホント、色々…」
今年あったことを思い出したのだろう。朝日の瞳が虚ろになり遠い目をしだす朝日。
すると、どこからか携帯の通話アプリの通知音が聞こえた。
「あ?なんだ?って、携帯台所に置きっぱなしじゃねぇか」
先程、蕎麦を作る時に茹で時間を計るために使ってそのまま台所に置いたままだったことを思い出した朝日は急いで台所に向かう。
「っと、あったあった」
そう言って朝日は携帯の電源を入れる。
すると急にめんどくさそうな表情になった。
画面には現在時刻の『23:49』という表示と『ユージから着信がありました』とあった。
朝日はそのまま何事もなかったかのように携帯の電源を切り、リビングに戻ろうとしたところで再び携帯が震えた。
暫く何もアクションを起こさずにそのままジッとしていたが、何回コールしても止まらないそれに我慢の限界が来たのか渋々電話に出る朝日。
「なんだこ『あけましておめでとー!五時半から初詣に行くから仮眠取っておいてね。待ち合わせは鳥居の前で、じゃ!』…一方的に喋って一方的に切りやがった」
そう言ってもう一度時間を確認すると『0:03』の表示。
いつの間にか年を越していたという事実に朝日は思わずため息をつくのだった。
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「アイツ、人呼び出しておいて自分が遅れるとかふざけてんのか?」
待ち合わせの場所の神社、その鳥居に一人ついた朝日は曇り空を眺め、そうひとりごちる。
すると...
「ごめん朝日!遅れたー!」
そんなことを言って近づいてきたのは案の定、勇二と未希だ。
「てめぇら、人呼び出して遅れて来るとはいい度胸だな。ん?」
そう言って二人を睨み付ける朝日に必死に未希が弁解しだす。
「ちょっと待って!?遅れたの私のせいじゃないし、私も勇二に呼び出されたんだけど!?」
「知らん。遅れてきた時点で同罪だ」
「そんなー」
しかし残念ながら未希のそんな言葉も無慈悲に切り捨てられる。
「で、てめぇは何で遅れたんだよ?」
「ん?寝坊だけど?」
朝日はそう言った勇二の頭を無言で叩いた。
「イタッ!いきなり何するのさ?」
「自分の胸に聞け。おら、速くいくぞ」
そう言って一人先行する朝日。
それを見た勇二と未希は慌ててその後姿を追うのだった。
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「うわー!流石市内唯一の神社。すごい人だね」
神社の本殿へ続く行列を見て勇二がそう言った。
「ほら見ろ。お前達がモタモタしてるから」
「それに関しては本当に面目ないだす…」
「ねぇーいいから並ぼう?」
そう言うが早いか一足早く列に並びだす未希。
「この列にか…?」
そんな文句を言いながら列に並びだす勇二と朝日。
「いや―それにしても去年もいろいろあったねぇー」
「ああ、大体はお前の持ってきた面倒ごとだがな」
「ははは。まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん」
「良くねぇよ!っおい未希、お前も何とか言いやがれ!」
「えー?私は別に―、楽しいからいいんだけど」
「流石未希。よくわかっていらっしゃる!」
「はぁ、ったく。勘弁してくれ…」
そんなこんなで列は進んでいき、ついに朝日達の番となった。
「じゃあせーのでお賽銭投げようか?」
「あ、すまん。先に投げた」
「……ごめん勇二。実は私も投げちゃった」
キマズイ沈黙が流れる。
「じゃ、じゃあ、気を取り直してみんなで一緒に願い事でもしようか」
「まあ、いいけどよ」
そう言って勇二は寺に下げてある鈴の網を握り軽く振る。
するとそれと同時に大きな鈴の音が聞こえる。
三人は合掌をして瞑目する。
「…ふぅ。さてそろそろ行くぞ、後がつっかえてる」
そう言ったのは一番に顔を上げた朝日だ。
その声に二人は同時に顔を上げ頷く。
「ねぇねぇ、二人はどんな願い事した?」
「あれ?確か願い事って言ったら叶わなくなるんじゃなかったけ?」
「ああ、そう言えば聞いたことがあるな。なんでだったか…」
「知らなかった…あ、危なかったぁ」
そう言って未希はひとり息をつく。
「ははは、っと二人ともあれ見て!」
そんな未希を見て呆れていた勇二だが何かを発見したのか空を指さす。
「あ?どうした?」
「んー?って、おお!」
そこには先ほどまでの暗い空を照らす太陽があった。
「初日の出だ!」
「まぁ、悪くはないな」
「うん、キレーだねぇ」
そんな美しい日の出を見た勇二は二人の方に笑顔で振り返る。
「朝日、未希、今年もよろしく!」
「うん!モチロンだよ!」
「ふん、今年は去年より大人しくしてもらえるとありがたいんだがな。まぁ、どうせ無理だろうけどな」
「ははは、善処す「ドロボー!誰か、私のカバンをその泥棒から取り返してください!」…二人とも?」
「りょーかい!」
「はぁ、新年早々これか…ったく」
勇二の言葉にそれぞれの反応を示しつつ二人は勇二と同じ位置に立つ。
「勇二はそのままあの泥棒を追いかけろ、んでどこでもいいから追い詰めろ。未希は警察に連絡だ。オレは勇二のフォローに回る」
「「オッケー!」」
朝日の支持を聞いた二人は行動を開始する。
朝日はそんな二人を見て一度ため息をつきながらも勇二の後を追いかけだす。
そうして、今年も喧騒が始まった。
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この日、三人はそれぞれこんなことを願った。
勇二は『今年は去年よりたくさん人を救えますように』と、
未希は『今年も三人一緒に楽しく過ごせますように』と、
そして朝日は『今年こそ妹を見つけられますように』と、そう願った。
三人はまだ知らない。
その願いが第二の人生で、異世界で叶うことになる事を...
happy new year...