表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

黒腕クリスマス特別編 雪降る聖夜の人助け3

「ふぅ、昼飯食ったらガキ共も大分静かになりやがったな…」

「ははは、子供の体力って案外侮れないよね」

そう言ってため息をついて保育園の待合室の床に座り込んでいるのは先程、園児達を寝かしつけたばっかりの朝日と勇二だ。

あの後、園児たちと遊んでいた朝日達はある問題に遭遇した。

そう、昼食だ。

本来この保育園では昼になると給食が運ばれてくるのだが、今日は休日で委託している給食センターも休みとのこと。

完全に困り果てた朝日たちだったが、その突破口は意外なところから現れた。

なんと園児達は全員お弁当を持ってきていたのだ。

ちなみに朝日達の分の昼食も保育園の待合室に置いてあった。

昼食を食べた後、ウトウトし始めた園児が出てきたのでお昼寝と称し園児達をなんとか寝かしつけて今に至る。

「二人とも、お茶淹れたよー?」

すると事務室でお茶を入れた未希が待合室に入ってきた。

「あと、お茶請けにお煎餅あったからそれも持ってきたよ」

そうそう言って差し出されたのはきれいな緑色をした緑茶と醤油煎餅だった。

「お、ありがとう未希。先生の飲んでるお茶って結構おいしいんだよね」

未希からお茶を受け取りながら勇二はそんなことを言う。

「ってか、ここに来てからずっと気になってたんだが聞いていいか」

「ん?どうしたの朝日」

勇二と未希がお茶を啜っていたところに朝日が一つの疑問を口にする。

「いや、ここって園長一人で切り盛りしてるわけじゃないだろ?他の保育士とかはいないのか?」

「あー、それね」

その質問に勇二は合点の行ったようだ。

「いや、いつもは他の保育士さんもいるんだよ?でも、ほら、今日はクリスマスだから…」

「みんながみんな仕事をキャンセルってか?」

「そゆこと」

「いや、しかし…」

そんなことが本当にあるものなのかと朝日の頭の中では新たな疑問が沸き上がってきた。

「園長先生ってお人好しだから、休暇取る予定の無かった人まで休みにしてあげたみたいで…」

「…あぁ、なるほど大体わかった。それで働き手が無くなって困り果てていたところにお前げ来て、俺が巻き込まれた、と?」

「うん、大体正解」

その答えに朝日は園長と勇二のお人好し加減に思わずあきれる反面、ある種の戦慄を覚えていた。

「はぁ、全く。それでそのお願いを聞き入れるお前も十分お人好しだよ」

朝日達がのんびりしながらそんな会話をしていると不意に玄関のほうからリンゴーン、というベルの音が聞こえた。

「…今のは?」

「玄関からだね。先生が返ってきたのかも」

そういって三人は立ち上がると待合室を出て玄関へと向かう。

すると先程のベルの音で起きたのだろう、数人の園児達が玄関先に集まっていた。

「あ、先生。お帰りなさい」

三人が園児達をかき分け、玄関先にたどり着くとそこには案の定、お盆のようなものを抱えた園長先生がいた。

「それで、その、後ろの人達は一体」

しかし、そこにいたのは園長先生だけではなかった。

そこには厚着したご婦人達がいた。

中には数人がかりで何やら大きな棒状のものを抱える者や、園長先生と同じようなお盆を抱える者、大きな袋を持った者もいる。

「ふふふ、まぁまぁ。とりあえず話は後にして、中に入りましょう」

園長先生はあえて勇二の質問には答えずに保育園の中に入っていく園長先生とご婦人達。

朝日達はただただ通り過ぎていくその後姿を、何とも言えない顔で見届けるのだった。

-------------------------------------------------------------

「さぁ、それじゃあ三人はこれをかぶってください」

園児たちを起こした後、園長先生から手渡されたのは...

「サンタ帽…?」

渡されたのは赤い布地と白のファーのコントラストが印象的なサンタ帽だった。

渡された帽子を見て訝しげな顔をする勇二と未希に対し、朝日は何かを悟ったような顔をしていた。

「えっと、園長先生?一体なにを…」

「ふふ、よくぞ聞いてくれました!何をするかといいますと、それは…」


「『クリスマスパーティー』です!」


園長先生は勿体ぶりつつもそう高らかに言い放った。

対してそれを聞いた勇二と未希の反応は「あ、はい」という淡白なものだった。

「さぁ、園児達にこの帽子を配ってください」

そういって渡されたのは紙製のパーティーハットだ。

「はいはい、それじゃあ私はホールの方でパーティーの準備をしていますから渡し終えたら園児達をホールに連れてきてくださいね」

そういうや否や園長先生はホールの方に戻っていった。

残された朝日達はお互いの顔を見合わせながら溜息を吐き、園児達にパーティーハットを渡すべく行動を開始した。

-------------------------------------------------------------

園児を引き連れて向かったホールは先程とは全く別物になってた。

「ほぇー、すごいねぇ!」

思わず未希がそう呟く。

そこには大きなクリスマスツリーが立てられ、その周りには複数のテーブルが備えつけられ豪勢な料理が置かれていた。

それを見た園児達が沸き立つ。

「皆さん、クリスマスパーティーにようこそ」

そこで園長先生が一度手をたたき皆の注目を集め話し始める。

「今日は夜までの間ですが楽しんでいってくださいね」

園長先生がそう言うと拍手が巻き起こり、園児達もそれぞれ自由に行動し始めた。

すると、先ほどの女性たちもそれぞれ園児達の元に散り始めたではないか。

どうやらあの女性達は園児たちの保護者のようだ。

「よし、二人共!僕達も食べに行こうよ!早くしないと無くなっちゃうよ!」

勇二はそういうと未希の手を取って走り始める。

「おい、走るなよ、ってもういねぇ…」

そんな様子を呆れつつ遠目に見ていた朝日に声をかけるものがいた。

「朝日君、ちょっといいかしら」

「…どうかしましたか?園長先生」

それは園長先生であった。

「いえ、あなたとは一度お話してみたかったんですよ」

「話、ですか?」

「えぇ、そうですね、例えば最近のあの二人の話とか」

どうやら園長先生は二人の近状についてご所望らしい。

「最近も何も、俺が知ってる二人の様子なんて今見たままの感じですよ?勇二は人助け馬鹿だし、未希はどこかいろいろ抜けてるしで、あの二人と一緒にいると不安で心臓が止まりそうですわ」

朝日が簡潔に、しかしどこかげんなりした様子でそれを言うと、隣からクスクスという声が聞こえてくる。

「ふふ、そうですか。やはりあなた達は意外に波長が合うのかもしれませんね」

「はい?」

「あの子達ったら私がこのことを頼み込んだ時「親友の朝日がいれば何かあっても大丈夫だよ」って言ってましたよ」

「…一体どんな根拠があって言ったんだあのバカは」

「きっと、信頼しているのでしょう。でなければそんなこと言いませんよ」

「そうですかね…」

朝日は人ごみの中で楽しそうに食事をしている二人を見つけそう呟く。

「えぇ、ですからそんな信頼されている朝日君にお願いがあります」

「おねがい、ですか」

「はい、私の勝手な我儘です。どうか、出来るだけでいいのであの二人を支えてあげてください」

園長先生は少し遠い目をして勇二と未希を見つめながらそう言った。

「あの子達はここを出てからもここに遊びに来てくれました。私にとってあの子達は息子同然なのです。だから…」

園長先生がそこまで言ったところで朝日は勇二達のいる方へ歩き出す。

「悪いが、あいつらを支えるのは俺には無理だ」

だが、と朝日は続ける。

「あいつらが無茶しそうな時くらいは止めてやるよ。そのぐらいなら俺にもできる」

朝日はそういうと足早に二人のもとに歩いて行った。

園長先生はその後姿をしばらく呆けた顔で見続けた後、困ったように笑った。

「二人の言った通り、素直じゃないみたいですね」

-------------------------------------------------------------

「せんせーさよーならー」

「おにいちゃんもばいばーい」

「おねぇちゃんまたあそんでねー」

時刻はすでに午後七時を回っている。

続々と帰っていく園児達を眺めながらも三人はクリスマスパーティーの片づけをしていた。

「はい、ばいばいーい。あ、未希この食器もついでにお願い」

「りょーかい!」

「おい勇二これってどこに持ってけばいいんだ」

すると三人が騒がしく片づけをしていたところで園長先生がやってきた。

「はい、皆さん。あとは私がやるのでもうその辺で上がっていいですよ」

園長先生の声に三人はふぅ、と息を吐いてその場に座り込む。

「今日は皆さんありがとうございました。これは少し早いお年玉を兼ねたクリスマスプレゼントです」

そういって渡されたのは小さなポチ袋。触れるとそこからは微かな紙の感触がするので恐らく中に入っているのはお札だろう。

「大した額は入っていませんが大事に使ってください」

「え、でも」

朝日がためらいがちにそういえば「子供があまり遠慮するものではありませんよ」と言い返却を拒否した。

「さぁさぁ、今日はもう遅いですし早くお帰りなさい」

そう言って園長先生はそれぞれの外套をを渡しまるで追い出すように保育園の玄関まで誘導する。

「皆さん、夜道には気をつけるんですよ」

そう言って園長先生は三人を玄関先で送り出す。

朝日はこの時、何となくだがこの頑固さや真っすぐさに二人に似通ったものがあるのを感じていた。

「先生、さようなら!」

「それでは今日はありがとうございました」

「…では」

上からそれぞれ未希、勇二、朝日の順にそれぞれ先生に声をかけて保育園から出ていく三人。

「メリークリスマス」

一人残った園長先生は小さく呟くようにそういうのだった。

-------------------------------------------------------------

三人が外に出たときもうすっかり雪は降りやんでいた。

「ふぅ、今日は楽しかったねぇ」

「バカ言え、巻き込まれた俺としては心労が尽きん」

「そんなこと言って朝日も結構楽しんでなかった?」

「黙れ、殴るぞ」

「ふふふ、って、あ!見てみて!」

未希がそう言って空を指させば、

「また降り始めたね。でも、ホワイトクリスマスか…風情があっていいんじゃない?」

「阿呆が、このままじゃ結構積もるぞ?ほら走れ走れ!」

そういって駆け出す朝日につられて勇二と未希も思わず走り出した。


こうしてクリスマスの夜は更けていく。

彼らが次に聖夜を迎えることとなるのは異世界ザナン。

しかし、その事実はいまだ誰も知る由はないのであった。


Merry Christmas!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ