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一撃目 出会いと切っ掛け

「はあ……」

 もう何回目になるか分からない。

 うんざりした表情で、ナナイはため息を吐いた。


 ナナイが今いるここは、駅。

 ただし、普通の駅では無く都市の中には、一つしかない駅だ。

 そのため、とんでもない数の人でごった返している。


 ナナイは両手で荷物を持ち、背負い鞄まで装備してかなり動きづらい。

 さほど身長が高い訳でも無いので、上から人の流れを見ることも出来ない。

 そのせいかは分からないが、さっきから人にぶつかりまくっているのだ。


 これ以上進む気が失せる程の人波を見るナナイ。

 まだ目指す場所には距離があるので、もう少し歩かないといけない。

 黒い瞳から光を消しながら、気力を振り絞って歩いていく。


 これから長い旅が始まると言うのに、ナナイが目的の場所にたどり着くころには、心も体もヘトヘトになっていた。

 グッタリした様子で背後を一瞥するナナイ。未だに背後では沢山の人が歩いている。

「人が多いってだけで、ここまで疲れるのかあ。何だか帰りたくなってきたなあ……」

 ナナイがいる場所は先ほどの人濁流と違い、少ない人数しかいない。


 その誰もが顔を上にあげ、見上げたままの姿勢でかたまっている。

 周りが見ているソレをナナイも見る。

「しかし、でけぇな」

 思わず呟いてしまう程に、それは巨大だった。


 まず、目につくのはそのサイズだろう。

 普通の汽車と比べて、明らかに大きい車両は3階建てであり、幅も普通の汽車の2倍以上はある。

 その巨大な車体は分厚い装甲に包まれ、鈍色の輝きを放っている。


 丸い窓は小さく中の様子は殆ど見えず数も少ない。

 少ない窓の代わりなのか、蓋をされた小さい穴が窓の間に等間隔に並んでいる。

 3階建てのそれぞれの階にある出入り口の横には、梯子が取り付けられ屋根まで続いている。


 ただサイズが大きいだけだったなら、ナナイも汽車が到着して直ぐ駅には来なかった。

 分厚い装甲に守られ武装を満載し、危険な虫の領域を進む汽車。

 走る要塞とも呼ばれる、装甲汽車を見たくてナナイは早起きして来たのだ。


 装甲汽車を見たまま硬直するナナイ。

 周りも合わせて、見上げる姿勢のまま硬直している絵面はアホみたいだが、そんなことを気にすることが出来ないくらい、見入っているのだ。

 このまま、発車時刻まで見ていそうなナナイ達たが、皆の注目は悲痛な叫びによって、別なところに集められる。


「どぅぐぇーーー?! まじですか! まじで無理なんですかーー!!」

 ナナイが振り向き見たのは、人の流れともナナイ達が居る場所よりも少し離れた所で、少女が白い髪を振り乱しながら、駅員らしき人物に詰め寄っている光景だった。

「お願いですよぉ〜。ちょおっとチケット失くしちゃっただけじゃ無いですかぁ」

「ですから、チケットをお持ちになっていない場合は、ご乗車いただくことができないんです」

 ナナイもこれだけ聞いて少女が騒いでいる理由が分かった。ただチケットを失くしただけなら名簿から名前を調べ、確認が取れれば乗れるはずである。


 少女が大騒ぎしているのは、チケットが貰い物だからだろう。

 装甲汽車のチケットの値段はピンキリだが、椅子に座る事の出来るレベルのチケットは、気軽に手が出せる値段ではない。

 実際、ナナイのチケットも貰い物であり、そうでなければ乗ろうとは考えなかった。


 駅員は少女の圧におされたのか、若干後ろに下がりながら妥協案とも言える案を出す。

「ど、どうしてもと言うのであれば当日券のご購入などは……」

「それって最低レベルの席しか買えないじゃないですか! もう、そんなの勧めるくらいなら、さっさと諦めろとでも言えばいいじゃないですか!」

「は、はいぃぃ! すいませんでした……」

 少女の鬼気迫るツッコミを受け、もう逃げたそうな顔をする駅員さん。


 ここまで黙って見ていたナナイ。

 なんとなく気になった、というよりも暇つぶしになりそうだと考えたのか、二人に近づいていく。

「君さ、チケットなくて困ってるってことで良いんだよね?」

「そうですよ! この駅員さんが、大人しく私が失くしたチケットをもう一度発券してくれれば、済む話ですよ!」

 不満をぶつけたかったのか、突然話に割り込んできたナナイを気にする様子はない。


 少女は、肩口くらいまであるボサボサの白い髪に眼鏡をしている。

 そばかすのある顔はどこか幼く愛嬌があって可愛らしく、眼鏡越しに見える瞳は金色の輝きを放っている。

 シミひとつ無い白いコートを羽織っている。

 中に着ている上も下したも白で、短いスカートから覗くスラリとした足の肌もびっくりするほど白くて、全身白づくしだ。


 ナナイは寝癖を直す程度に整えた黒髪に特に深い訳でもない黒目の、中肉中背だ。

 この、黒髪黒目と言うのは、この辺りでは極々一般的で、駅にいるのも殆ど黒髪、稀に金髪と言った具合だ。

 白髪に金色の瞳に白い肌、ナナイはこの辺りでその様な特徴の人は見たことが無いので、この辺りの出身では無いだろう。


「おかしいでしょう、チケットがないだけで何で乗れないんですか? おかしいでしょう!?」

「いや、チケットが無かったら乗れないのは当たり前のことだと思うけど」

「いいえ、おかしいです。だいたいあなたは、突然割り込んできて何なんですか! 偉そうにツッコミを入れて、何がしたいんで、す、かあなたは」

 ナナイのツッコミでヒートアップする少女。


「普通クラスのチケット、君にあげるよ」

「あなた……神ですか?」

 一瞬の鎮火と手の平返しのコンボを決め。

 少女は何故か膝を着き、ナナイを神聖な物でも見たかのような目で見つめる。


 ナナイが右手の荷物を置いて懐からチケットを取り出し、少女に見せびらかすように眼前へと持っていく。

「ま、まじですか、まじで本当? まじでこんなことってあるんですか? まあ、くれるっていうなら、ありがた……はっ!」

 チケットに触れるか、触れないかの位置で手が止まる少女。

「どうした? いらないの?」

「あ、危ない所でした。あなた、私がこれを取った瞬間、「ぐへへ、チケットの代金は体で支払ってもらうぜ、ぐへへ」と私を連れ去りあ〜んなことや、こ〜んなことをするつもり何でしょう!」

 立ち上がりビシィッ! っと指を突きつけてくる少女。


「しないって。まあ、一つだけ我慢してもらうことになるけど」

「なにを、なにを! 我慢して貰うって言うんですか!」

 興奮しているのか、真っ赤になった顔でナナイを睨み付ける少女。

 身長がナナイの肩くらいしか無いので、上目遣いに見えなくもない。


 少女は、はっと気づいたように再び指を突きつける。

「そもそも、この話もおかしいです! なんで都合良く、私にチケットを譲ってくれる人が現れるんですか!」

「いや、実はな」

 そう言ってナナイは、着ていた安物のボロい上着の内ポケットからもう一枚のチケットを取り出す。


「俺のチケット貰い物でな、一枚余ってるんだよ。我慢してもらうことって言うのは、席は俺の向かいで同じ部屋ってことだよ」

「で、でもチケットをただで渡すなんて……」

「俺一人だと、一枚無駄になるし。貰い物を売ることなんて出来ないし」

 片手に持った二枚のチケットをヒラヒラと少女に見せる。

「まあ、要らないのならいいけどさ」


 そう言ってナナイがチケットをしまおうとした瞬間、物凄い勢いで、少女がチケットをひったくる。

「いらないとは言ってないじゃないですか。ありがたくいただきます」

 少女はチケットの一枚を自分のポケットにしまい、もう一枚をナナイに返す。

 ようやく話が解決して、ずっと見ているだけだった駅員がホッとした表情で去って行く。


 少女は一歩下がりコートを大仰に翻し、

「では、しばらく共に過ごすということで、私の名前はラトレイ、ピチピチの15歳のラトレイです。よろしくお願いしますね」

 右手を差し出してくる少女ーーラトレイ。

「ああ、俺はナナイだ、よろしくラトレイ」

 ナナイも右手を差し出し握手する。


 調度、自己紹介も終わったタイミングで、乗車が出来るようになったことを伝えるアナウンスが流れる。

「さあ、行きましょう!」

「そうだな」

 ナナイは床に置いていた荷物を、ラトレイは持つのが辛そうな手提げ鞄を持って出入口に向かう。

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