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story 02 召魔

「んが……ここどこ」


 目覚めたとき暁人は自分が何処にいるのか、ぼうっとした頭で考え徐々に意識を取り戻していった。起きるのが面倒くさくて寝転がったまま天井を見ていた。天井はアーチ型になっていて中心に梁が集まって支える構造になっている。


「そうか、俺、昨日は異世界転移して、なんか妖精さんが見えるようになったんだよな。そんで魔法みたいのが使えるようになった気がする」


 昨日の光景を思い出して、つらつらと自分の身に降りかかったことを整理してみる。


1.気づいたら森の中・自分は変な服をきてる。

2.霧に誘導されて廃墟へ・なんかの儀式に巻き込まれる

3.妖精さんが見えるようになった

4.木の実で飢えを凌ぐ


~と、まあそんな顛末だが、暁人の中にはまだドキドキとワクワクの種があった。


「そうだよ。俺、もしかしたら魔法使えるかも」


 そう。昨日、今いる廃墟の壇の上にあった本に吸い寄せられるように手を置いたら体の中に何かが入り込んでいくような感覚を覚えた。その後、自分の手を眺めるとオーラのようなものが薄っすらと皮膚と服の上を包んでいるのが見えたのだ。その時からだ。妖精さんが見え始めたのは。


 あのあと、どうやら自分が巻き込まれたのは異世界転移で、しかも魔法が使えるようになったらしいということだ。頭のなかでグルグルと巡ってるキーワードから察するにそれは。


「これは召喚魔法だよな。ちょっと試してみるか」


 立ち上がり、服についた埃を払う。

 映画やゲーム、漫画の中では散々見てきた魔法使いだが自分がなると全く見方が変わってくる。「30歳まで童貞だったら魔法使いになる」なんて冗談もあるぐらい今までいた世界では魔法は夢とお伽噺の中の事だった。

 その力が今、自分の中にあるという。


「よっしゃ、いっちょう試してみるか」


 暁人は自分の中に巻き起こる知識に導かれるように両手を広げ、目を閉じる。そしてコマンドキーワードを唱えた。


「サモン・スピリッツ」


 暁人が期待を込めて、そう唱えると足元に幾つもの円が重なってその円の中に幾何学模様とともに円周に沿って意味不明な記号のようなものが綴られる。そのとき、暁人の閉じた瞼の裏にはリストが浮かび上がっていた。

 何やら人類の進化系統図を模した樹形図のようなリストだ。それは巻物のようでもあり横にスクロールするようになっている。そして、明らかにされている一番、端の方からがどうやらはじめから召喚できる物のようだ。

 リストにはずっとずっと続きがあり、巻物自体は意識すれば開示されるようになっているが呼び出せる物についてはシルエットだけになっていて詳細を窺い知ることは出来ない。

 シルエットから察するにどうやら成長すれば人型の物も呼び出せるようだし、さらにスクロールさせていくとなにか巨大なシルエットまであり、その輪郭から察するにドラゴンのようでもある。

 内なる興奮に頬を紅潮させながらも暁人は今、彼が呼び出そうとしているそれに意識を凝らした。

 それは翼を持った四足の獣だ。


「アドベント、サイグリフォン! クリスニング、グリフィン」


 呼び出すものの種族を特定し、彼の内面世界で揺蕩う魂を現世に留めおくために命名する。そのとき、暁人の中から幾ばくかの力が抜き取られる感覚がした。自分の中の何かの力、その限界量の内、半分以上がごっそり持って行かれたようで、その喪失感に思わずよろめいてしまうがなんとか踏みとどまった。

 すると魔法陣の底から光が溢れだし、召喚したものが薄い膜に包まれながら上昇していき、爪先まで現れるとピシッ、パシッ、と薄い膜がひび割れ、内側からそれは飛び出してきた。


「キュオオオン!」


 甲高い鳥のような鳴き声を高らかに迸らせて身震いすると、それは翼を広げて床の上に舞い降り、暁人を人懐こそうなクリクリした瞳で見つめてくる。フサフサとした毛並みで覆われた獣。

 頭は白い毛で覆われ、頭は平らで耳が左右に出っ張っていて猫のようでもあり、犬のようでもある。

 だが、羽根は四肢とは独立しており、前足を踏ん張っているし、口は鳥の嘴のそれだし地球ではあり得ない造形だ。


「お、おお」


 その雄々しい姿を目の前にして興奮が何より先に立ち、思わず手を伸ばしていた。噛まれるかもといった懸念は微塵も感じなかった。事実、その獣、サイグリフォンという種族で暁人のつけた名前、グリフィンであるそれは暁人が首筋に手を差し伸べてくると、自ら差し出すように瞳を伏せた。

 グリフォンだからちょっともじっただけの安直な名前でこの子には申し訳なくも思うが、他の名前は思い浮かばなかったのだ。

 そして、暁人が毛並みを確かめるように無で始めると気持ちよさそうにクルクルと喉を鳴らしている。そのとき、暁人とグリフィンの間にあった一つの壁が取り払われたような感覚とともに親密さが生まれた。


「フフッ、お前も嬉しいんだな。俺もだよ、グリフィン」

「クゥ」


 グリフィンが暁人に頭を擦り付けてくる。鳴き声も鳥というよりは犬のようでもある。以前、動画で見たとこのある猛禽類、鷲とか隼の鳴き声を聞いたことはあるがピィピィという甲高い鳴き声だった。


「よろしくな」

「キュウン」


 明らかに暁人の言うことを理解している。それもそうだ。暁人とグリフィンの間には魔力による絆があるのだから。

 暁人が力を得た儀式で色々な情報、膨大な量が彼の内側に蓄積された。それを未だ整理しきれていない。

 例えば、さっきから「もの」と言っているが、暁人が召喚師として魔法陣から生み出したグリフィンは、正しくは「召魔」というらしい。

そして、彼の性能も明らかになる。召魔を彼の内面世界、召魔界から呼び出す時にその代償としてMPマナポイントが消費されるのだがランク1召魔の召喚コストMPは10それに対して、召喚師になりたての暁人の保持MPが最大で13。

 幸いなことにどういう仕組なのかMPが回復しつつあるので少しづつではあるが回復しており問題ない。先ほどグリフィンを召喚した時に目眩がしたのでもしかするとヤバかったのかもしれない。そもそもMPを失うとどうなるのか知識がないから分からない。

 実のところ、召喚時に頭のなかに浮かんだリストにはグリフィンよりも端に位置する召魔が存在した。それは菱型の物体ぽかったので敬遠したのだ。本来であればそちらが順序的に最初に召喚すべきだったのかもしれない。


 グリフィンは大きさ的には165センチの身長がある暁人の背よりも頭一つ分大きい。毛皮は鳥よりも狼や犬に近い手触りだ。モフモフとしていて実に癒やされる。暁人が初めて呼び出した贔屓目もあってかとても可愛い。なりは大きいが彼に撫でられている間、クルクルと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を細めているのを見ていると、あまり大きさを感じない。大きさというものも所詮、感じ方でしか無いというのは面白い体験だ。

とりあえずは試しで召喚したものの、さてどうしたもんかと困惑していた。


 召喚師は呼び出した魔物を使役して敵を倒すジョブだ。

 面白いのは召魔が敵を倒した時仮に召喚師が一切手を出さなくても経験値が入る仕組みだ。その経験値配分は主対従で五対五の均等配分だ。召喚師が何もしなくても召魔が敵を倒すだけで半分は経験値を取得できる。

 しかし、なにもしないでいるのは無駄だし、召喚師が攻撃魔法を使えばより早く倒せる。厳密に言えば召喚MPコストを支払って召魔を現世に引き留めているので、何もしてないわけではない。

 敵を攻撃し盾となってくれる召魔だってダメージを負えば現世との繋がりを失って再び一切の絆を失って召魔界へと戻ってしまう。そのために召喚師は戦闘を長引かせることがあってはならない。

 召魔は彼が地球でしていたようなゲーム、RTSの駒ではない。呼び出した個体はそれ自体が命名された時からユニークな存在になるのだ。召喚師と触れ合うほどに親密度が増し、最初はコマンドワードでのみの簡単な行動から召喚師が思うまま、当意即妙の行動をするようになるのだ。


 とりあえずコマンドを試してみようと思う。最初はこのよく分からない【伏兵】というコマンドだ。【伏兵】というと文字から察するに茂みとか見えない場所に隠れて潜むイメージだが。


「グリフィン、ラーイ」


 グリフィンにコマンドワードを唱えると「クゥン」と可愛い声で一鳴きすると彼の体が煙のように霞んで消えていく。だが完全に見えなくなったわけではなく、暁人の目にはそこにうっすらと形がわかる。オーラのようなものがある。


「おっ、姿が見えなくなった。でもここにいるな」


 暁人が手を差し出すとグリフィンの首筋を撫でていた。グリフィンは気持ちよさそうに「クークー」と喉を鳴らしている。


「グリフィン、ショウ」


 撫でていた手を離して伏兵の姿を現すほうのコマンドワードを唱えると煙るように姿を現す。


「なるほど、奇襲に使えるかな? よし次は攻撃系かな」


 今いる講堂のような部屋を出るとグリフィンも暁人の後を追ってトコトコと歩いてついてくる。廃城の中庭を抜けて、二種類の果実が生る木の生えた斜面を下って行くと霧が終わる場所まで出る。もう霧は暁人の行動を制限するようなこともなく足元を漂っている。

 霧が終わる辺りから植生の違う森があって、鬱蒼と濃い緑が広がっている。


「グリフィン、クロール」


 クロールは【警戒】のコマンドワードでグリフィンは周囲の索敵に入る。グリフィンは頭の左右の小さなかわいい耳を動かし、周囲を警戒する。そして、彼が掴んだ情報は召喚師にフィードバックされる。


 まるでゲームの画面のように森の中に赤い魔物のシルエットが浮かんでいる。もっと詳しい情報を得ようと目を凝らすと、魔物の外見が出てくる。


「クマかな? 熊だよなあ。強そうだな。でもグリフィンが負けそうにないよな」

「くぅン!」


 嬉しそうに肯定するグリフィン。見た目は熊そのもので四足で猪なんかよりも大きめのガタイと凶暴そうな黒光りする爪を持っている。彼の目には樹の幹をユサユサと体重をかけて何か上の方に生っている木の実を落としているように見える。体格的にグリフィンと同等の相手に見える。


「よし、グリフィン、プレイ!」

「ケァァッ」


 グリフィンは暁人の戦闘用コマンドワードを受けると、甲高い声を上げてバサッと翼を羽ばたかせて上空に舞い上がり、クマさん目掛けて急降下。前足の爪を揃えて襲いかかる。が、クマさんも何かの実を食べるのを諦め、振り返ったところにグリフィンが落ちてきて、肩先を引き裂かれる。


「グワァッ! ギィィ!」


 クマさんは両腕を振り上げてX攻撃するようにグリフィンに攻撃するがサイグリフォンは移動と同時に攻撃と回避の出来る召魔だ。手負いでアドレナリンでも分泌されてるのか戦闘力を上げたクマさんの攻撃を後ろにジャンプして避けながら同時に攻撃スキル、ウインドブレードを仕掛ける。基本、召魔のスキル発動はお任せだ。召喚師の任意のタイミングで出せないのは残念だが仕方ない。不可視の攻撃のはずだが、クマさんはダメージを予期したのか両腕を交差させて防御する。


「ギィィ!」


 クマさんの上げる悲鳴にハッとして我に返る暁人。彼にも攻撃手段はあるのだ。魔法という力が。


「これ使えるよな? 【ブラインドサイト】」


 淡々とした声で召喚をするときのように両手を広げると暁人の中から放出された魔の力がクマさんに絡みつく。暁人の中からスルッと何かが抜け去るような感覚とともに少し離れた場所から黒い闇が現れクマさんに絡みついていく。。


 クマさんは防御形態を解いてグリフィンを視認しようとするが見失ったようで、後はグリフィンの独壇場だった。最初はどうかと思ったが意外に効果的で掛けた本人もビックリの性能だ。


「凄いな。これ所謂、弱体魔法ってヤツだと思うんだがこんなに戦闘を楽にすることが出来るのか」


 グリフィンが遠距離からウインドブレードを連続で場所を変えながら放ち、クマさんの足元を覚束なくなってくるとトドメとばかりに、爪で切り裂いた。

 暁人は気づいていなかったが、通常の弱体魔法は自分より下級の相手にしか効きづらい。いま相手にしているクマは同等程度の強さで抵抗されて効果が発揮できなくてもおかしくない相手だった。だが、何段も格が上の者のように暁人の弱体の効果深度は深かった。

 グリフィンはトドメを刺すと「クワァ!」と勝鬨をあげる。そのまま暁人のところに駆け寄ってきて「ほめてほめて」と言った感じで擦り寄ってくる。


「お、おう、グリフィン、強かったな。あ、魔獣の肉って食えるのかな」


 調理に関しては著しく自信がない。でもご褒美にグリフィンに上げるのならば問題ない気がする。グリフィンの首筋をナデナデして健闘を讃えてやる。


「グリフィン、そいつ食っちゃっていいよ」

「クゥン」


 グリフィンは倒したクマさんに掴みかかると嘴をついばみ、前足の爪で屍体を押さえて肉を引き裂くようにして魔獣の肉を体内に収めていく。それだけはちょっとどころではないスプラッタシーンで思わず戻しそうになり、視線を逸らした。


 少し待ってるとグリフィンが前足で暁人の足を突いてくるので振り返ると何か赤い宝石みたいのを咥えて押し付けてくる。幸い、グリフィンの嘴はもう血に濡れていなかったし、生臭い匂いもしなかった。


「あ、これ、いわゆる魔石ってやつかな。サンキュ」


 暁人はその宝石を受け取るとグリフィンをナデナデして一緒に儀式の部屋に戻って休んだ。どうやらこの廃城の石畳の続いている部分に入ると回復の力が働いて疲れや体力などを癒やしてくれるようだ。

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