表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年犯罪法~子の罪は親の罪~  作者: ますざわ
第一章 望
5/9

4

「それで、あの事件が起こったと言うのかい?」


 時折、涙を堪えきれず、会話の内容も支離滅裂になっている部分もあったが、葛城は今井の話を遮ることなく、聞き続けた。ここまでの今井の話では、望の学校での生活や存在は、これまで葛城が望に対して思っていた「自慢の息子」に恥じない立派な話だった。それが何故あんな事件を起こしてしまったのだろうか。


「望と、中島の喧嘩の日から、確か二週間くらいだったと思います。中島と、中島と親密にしていたグループの仲間は学校に来ませんでした。学校では、望が中島に勝った、という話題で持ちきりで、言えば何をされるか分からないから大人しくしていたものの、中島のグループを嫌っている生徒は数多くいました。望はますます人望を深めていきました」


 その事件の日の事を話す今井は、これまでの思い出を踏まえて話していた切なそうな表情から、怒りにも見える冷静な表情に変わり、淡々と話し始めた。


「そして、事件の日。僕の携帯に中島から電話が来たんです。『葛城を17時に体育館の倉庫に連れて来い。連れて来れなければお前とお前の両親を殺す』という内容でした」


「まるで凶悪犯だな。望や君と同じ十四歳とは思えない」


 少年犯罪の話はニュース等で耳にすることはあるが、葛城にとって息子と同年代の子供がそんな残忍な事をするなどと想像が出来ずにいた。が、中島という少年は紛れもなくニュースに出てくるそれと同じ存在だった。


「僕は、望には言いませんでした。僕にとって人生最初で、最高の友達を、あんな奴に傷つけられたくなかった。僕はいじめられていた当時、自殺も考えていましたから親友の為に命を差し出すのは怖くはありませんでした」


 怖くなかった、という事はなかったであろうが、望の為に命を張ろうとした覚悟は決して嘘ではないと感じた。それくらい強い目をしていた。


「体育館倉庫に行くと、中島を含めて八人くらいの人がいました。全て中島のグループの奴らでした。僕はすぐにその中の二人に体を押さえられました。中島はナイフを持っていて、他にも金属バットや鉄の棒みたいな武器を持っている奴がほとんどで、本当にこいつらは僕や望を殺そうとしているのだと思いました。そして、中島は言いました。『お前がそう来るだろうとは思ってたよ』と」


「まさか、望にも同じ電話を?」


「そうです。望に僕と同じ内容の電話をして、同じ体育館の倉庫に呼び出していたんです。望の目の前で僕を痛めつけ、そしてその後に望を痛めつける為に、僕達を呼び出していました。僕達がお互いを守ろうとするのを見越して」


 そこまで望と今井の友情の強さを理解出来る中島が、どうして僅か十四歳にして極道のような残虐性を持っているのか理解に苦しむ。


「そして、すぐに望は来ました。驚いていました。僕がいる事に」


「それに、望が我を失った、という事かい?」


「いえ。望はそれでも冷静でした。中島が恨んでいるのは望だけの筈で、僕は解放してくれと中島に頼んでもくれました。しかし、中島は金属バットで望を殴り、そして僕を殴りました」


 そう言って、今井は腕をめくった。金属バットで殴られたというその痕はまだ青々しく残っている。


「そして、望は・・・」


 今井はその先の言葉を濁したが、葛城には望が中島という少年らに暴力を振るう姿が目に浮かんだ。


「でも、今井君、それじゃあ望は正当防衛じゃないか。少なくとも、相手は集団で、金属バットやナイフを持っていた。それに引き換え、君と望は武器も持たずに行ったんだろう?」


 少なくとも、今井の話はこれまで葛城が聞いてきた事件の背景とは大きく違う。その状況で正当防衛が認められない事は考えられない。そうであれば、望だけが一方的に加害者扱いされて逮捕されるというのはあまりに理不尽だ。


「僕の話は誰も信用してくれません・・・」


 今井が言う。確かに、この気弱で、おどおどした少年の言葉に積極的に耳を傾ける大人はそう多くは無いだろう。ところが、彼の言葉には重みがある。それは、葛城が望の親だからではない。今井の話が真実であるからではないだろうか。もし、本当に今井の言う通り、彼の話を誰も聞かないのであれば、自分が今井を目撃者、そして被害者の一人として警察や裁判所で話をする機会を与えてる事が出来れば、望は救われるのではないだろうか。


「それは大丈夫だ。おじさんも君に協力する。そんな真実を知ってしまった以上、親として出来る事は何だってやるつもりだ」


 妻の紀子も頷いている。しかし、当の今井の表情は今一つ冴えない。何か他に心配事でもあるのだろうか。


「僕も・・・少し調べたんです。いくら、僕みたいな人間だからとはいえ、誰も話を聞いてくれないのはおかしいと思ったんです。そうしたら、何てことはない、単純な理由でした。不良グループの中島の叔父は、あの中島敏夫だったんです」


 今井の表情が絶望へ変わった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ