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少年犯罪法~子の罪は親の罪~  作者: ますざわ
第一章 望
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3

 望が今井と親しくし始めたのを見て、周りの生徒が騒ぎだすのに時間はかからなかった。始めは、今井自身これまでなるべく目立たないように自分自身を殺して過ごしてきたのもあって、望という目立つ存在が自分の周りにいる事で必然的に目立ってしまう事に恥ずかしさすら覚えたが、望がその周りの視線を全く気にせず自分に接してくれる事によって、段々と今井にも自信が付いて来た。

 自信は今井の行動を変えた。望と友人である事を誇りに思い、少しずつ周りの目を気にせずに過ごす事が出来るようになり、学校生活や人生そのものが楽しいと思えるようになってきていた。

 そうなってくると、周りの今井に対する目も変わってきた。元々、今井がいじめに遭う決定的な理由なんてものは無く、ほとんどの生徒が周りに流されて何となく今井をからかい、いじめ、そして嫌いになっていただけだった。望を通して今井と接する生徒が増え、今井が自分達が勝手に作っていたイメージと違うと気付き、今井の周りにも人が集まってくるようになった。

 二年生に進級する頃には、今井には友達と呼べる存在が複数いるようにもなり、周りのみんなと何ら変わらない学生生活を送っていると感じられるようになった。


 しかし、今井のその変化を面白く思わない人間もいた。最初に今井をからかっていた数人の連中だ。彼等は入学早々、二年、三年の悪い先輩と親しくし、夜遊びや他校との喧嘩、喫煙をしたり等、よく教師らに注意をされているの不良グループのメンバーだった。


「おい、今井」


 それは望が空手の練習があるからと言って、先に帰った日の事だった。今井は図書室で少し本を読んだ後に一人で下校している時、不良グループのリーダー格である中島という生徒に呼び止められた。かつて、いじめられていた頃、今井はこの中島に弁当を捨てられ、顔の形が変わる程殴られた事を忘れてはいない。


「お前、最近調子ん乗りすぎじゃねえの?」


 中島は煙草を吸いながら、じりじりと今井との距離を詰めて行く。一歩一歩、中島が距離を詰めてくる毎にかつての恐怖心が蘇ってくる。


「葛城の野郎とつるんでるからってお前まで何調子乗ってんだよ?あぁ!?」


「い、いや・・・べ、べつに調子には・・・」


「口応えすんじゃねえよ!」


 中島が煙草を持っていない方の手で、思いっきり今井の顔面を殴りつけた。余りの勢いに今井はその場に崩れ落ちた。


「葛城にも言っとけ。空手やってるからって調子乗んじゃねってよ」


 そう言って中島は去って行った。


 学校で目立つ存在は、望が中心になっているグループと、この中島が中心になっているグループだ。その両グループはまるで正反対の存在で、望のグループを光とするならば、中島のグループは影だ。そして、互いが互いを良く思っていないのは学校中が知っている事実だった。

 中島に対して、はっきりと物を言える人物は学校にはいない。不良グループには中島の先輩もいるが、何でも喧嘩が一番強いのが中島らしく、その先輩も中島には何も言えないと前に聞いた事があった。そんな中島が望に手を出さないのは望が小学校一年生から空手をやっていて、これまでも大会等で輝かしい成績を残す強者だからであろう。いくら中島が喧嘩が強いと言っても、現役で格闘技をやっている望には敵わないだろう。望と中島の体格を比較すれば、それはよく分かる。

 しかし、今井が中島に殴られたこの事件が、全ての始まりになったのは紛れもない事実だ。




 翌日、今井の大きく腫れた頬を見て、望の顔色が変わった。


「中島、お前ちょっと来いよ」


 それを見ていた周りの生徒が全員凍りついたのは言うまでも無い。これまで、お互いを良く思っていなかった二人がついに真っ向からぶつかるからだ。実際、本当はどちらが強いのか、それに興味がある者もいただろう。ただ、今井は自分のせいで望が傷つく事だけはどうしても避けたく、来るなとは言われたが望と中島について行った。

 望は中島に何故今井を殴ったのかを聞いた。当然の様に中島の口から望や今井が納得するような言葉が聞ける訳もなく、話し合いでは何も解決しない事は明確だった。


 どちらから、という訳でもなく互いに距離を詰め合う。そして、先に手を出したのは中島だ。今井を殴った時よりも、強く、早い拳だった。しかし、望はするりと交わし、中島の後ろを取った。しかし、望は手を出さない。中島はその一発で望との力の差を思い知ったのか、足元にあった折れた木の太い枝を手に持ち、それを振り回した。望はそれをも冷静に交わし続ける。

 しばらく枝を振り回し続け、それが望に当たらないと分かると、中島はその枝を望に投げ、望がそれを交わしている隙に飛び掛った。枝に気を取られた望は、中島に捕まってしまう。間髪入れずに、望の腹部に膝蹴りを入れようとする中島。望は自分を掴んでいる中島の両手を強引に振りほどき、中島の膝蹴りを掴み、そしてそのまま投げた。中島は後ろにひっくり返るように倒れた。

 喧嘩や格闘技に一切知識の無い今井でもそれは分かる。望と中島の戦闘能力の違いが。


「別にお前が町や学校で悪さをしようが俺には別に関係ない。ただ、それに俺の友達を巻き込むな。次、同じ事をすれば俺も今度は手を出すからな」


 そう言って、望は中島に背を向けた。今井は望を追う前に中島の顔を見た。それは屈辱に満ち、憎悪に満ちた表情だった。この凶悪な男がこれで終わる訳がない。そして、その今井の不安は最悪の形で的中する事になるのだ。

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