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95、親ガニ戦その1

 子ガニを引き裂き、砕き、体の動きを最適化していく。

 初めのうちは力加減などを計り試行錯誤を繰り返していた。

 転がすと対応しやすいので出来るだけ転がすように工夫した。


 どの程度体を動かせばいいのか。

 どこを省けるのか。


 動きの無駄を削り、はぐれた子ガニを狩っていった。

 スキルを使い親ガニを子ガニに襲わせることも忘れてはいない。


 無数の子ガニを倒し、目につくはぐれも少ない。

 あと少し狩ればはぐれは居なくなるだろう。


 私は目の前の子ガニにスキルをかけると周囲に目をやり状況を確認した。

 次のはぐれの方に走りながら思考を止めない。


 遠くに見える黒山の如き子ガニの群れを、ぬこにゃんとからすみが対応しているようだ。

 あそこは安定して狩り続けられていることがなんとなくわかる。

 視界に映るぬこにゃんとからすみのHPバーは微塵も減ることがなく存在したから。


 私が戦うべき標的は襲い来る子ガニを弾き飛ばしている親ガニ。あれだけだろう。


 何かを攻撃しているというのは別のところから見れば大きな隙である。

 力加減の問題で1方に向けて力を大きく加えていた場合、進行方向に斜めにそらすならまだしも進行方向と逆側の方向に動かすことは非常に困難である。


 以前森のボス戦の時いぬくんに向けて攻撃したボスグモは反対側から来たボスに対応できずに倒された。

 それと同じことである。


 今回は私があの時のボスと同じようにあの親ガニの不意を突き倒す。

 森のボス戦の時はいぬくんが犠牲になってしまったけれど今回は子ガニを使える。


 ただあの親ガニを倒すことは森のボスグモよりも難しい。


 前回はクモだった。外骨格なので多少硬いものの、腹部は呼吸をしたりするなどのため柔軟性があり柔らかい。

 今回はカニである。同じ外骨格だけれど、呼吸はエラを使うため膨らませたり凹ませたり出来るような仕組みはない。

 エラは水がなければ使えないため使い勝手がよくない。特に水辺から離れた場所に生息するようになった生物にとっては不便であったため肺へと進化した。

 けれどエラ呼吸であることにより殻を変形させる必要がないカニは硬い殻を保持できている。

 そのためクモよりもカニの方が倒しにくくなっているのだ。


 子ガニと違い親ガニは重量があるので力を込めても吹き飛ばず、下から攻撃していけば殻にダメージは通るだろう。

 生命の維持に重要な臓器まで武器の刃が届かないため決定打にはつながらないだろうが。

 カニのふんどしと呼ばれる部分は卵巣などがあり重要な臓器自体はあるが、生命維持にかかわる部分ではない。

 子ガニのように殻を大きく破壊すれば生命維持が出来なくなるだろうが親ガニは大きく難しい。


 となると狙うのは体内しかなさそうだ。

 殻を砕き内部に押し入り重要な臓器を破壊する。

 これ以外に親ガニを倒す手段を私はもっていない。


 魔法が使えればエラ付近を火で覆い酸欠にするなどできただろう。

 残念なことに私はそんなこと出来そうにない。

 松明をもって似たことをしようと思っても出来ない。ここは洞窟ではない。

 風が吹けば酸素がすぐに補給されてしまう。

 エラ付近に松明を付け続けることが出来るならまだしもそんな方法を私は取れない。


 ……あれ?本当にそうだろうか?

 エラ付近火があればいいだけだろう?


 なら膠で松明を固定してしまえばいい。

 脂もある。失敗作の革もある。たくさんある。

 ……いける。


 私ははぐれを片付けると急いでフィールドの風下へと移動した。

 膠の臭いはきつい。カニは食料となる腐肉などの臭いに敏感だから気を付けて取り扱わなければならないだろう。


 私は何枚も革をインベントリから取り出して川原に毛皮が下になるように敷いた。

 そしてまず固形化している膠をインベントリから革へと直接落とした。

 次に白い脂を落とし膠と脂を包むように革の端をまとめきつくくくる。

 きつい臭いがする膠や脂には触れないように注意し、茶色の照る照る坊主のような物を作っていく。

 この汚い色をした照る照る坊主を水とともに鍋に加え、調理スキルを用い強火で一気に加熱した。

 しばらくし水は沸騰しぼこぼこと激しい音を立てていた。


 ブロック状に変形していた革が中で膠が溶けることで丸みを帯びていった。

 私は鍋をひっくり返し石の上にころがしていった。

 熱くなっていた革はその熱で表面の水分を蒸発させながらひと肌よりも少し熱い程度まで温度を下げていいった。

 川原の石の上に転がる温かい汚い色をした照る照る坊主を私はインベントリにしまった。


 後は投げる直前に調理スキルで着火すればいい。

 着火する場所は照る照る坊主のスカートの部分がちょうどいいだろう。

 補正され強力になったこの力でぶつければ、革は破け、膠で接着し、革が芯で脂が燃料となり長いこと燃え続けてくれるはず。

 膠は溶けているギリギリの温度まで冷えている。

 この状態ならカニの体にぶつかればすぐに接着することだろう。


 汚い照る照る坊主を持った手は鼻を近づけるとちょっと臭いがする程度で済んでいた。

 この程度なら大丈夫だろう。獣人の嗅覚で少しならカニにはさすがにわかるまい。


 それに膠をエラの付近に接着させるのだ。

 臭いなどわからなくなるはずだ。

 強力な膠の臭いで子ガニも攪乱させることが出来るかもしれない。


 脂は事前に煮詰めていたはずだから濃度は高いはず。

 ちゃんと燃えてくれるはずだ。


 ……なんでこんな危険な物を一瞬で思いついたのだろう。

 ちょっと戦闘に向けて思考がとがっているだけだよね?


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 黒い子ガニ達は親ガニの振るうハサミに弾かれ宙を舞い川原にぶつかり動かなくなっていく。

 しかし命を奪う黒き鉄槌の如き親ガニのハサミをかいくぐり、一部の子ガニは親ガニの体に辿りつきハサミを叩き付けていく。

 殻の厚みが薄い子ガニでは親ガニの分厚い殻を壊せるはずもなくむしろ自分の殻が壊れていくが、さらに一部の子ガニは関節の膜にハサミを叩き付け親ガニに着実にダメージを与えていた。

 親ガニは子ガニを弾き飛ばすがすぐに次の子ガニに襲われるため移動することもままならない有様だ。


 私はその様子を見ながら親ガニのハサミの動く方向を確認した。

 タイミングを見計らい子ガニ達の背を足場に跳ね走る。

 子ガニのサイズが1mと大きいこともあり、小石の多い川原を走るよりも簡単だった。


 カニのエラは体内にある。

 呼吸をするために空気や水を取り入れるための場所は口。

 その場所は関節が複雑なあごがある。

 口の中に叩き込んでもちゃんと燃えてくれるのかが分からない。

 少々不完全燃焼になって一酸化炭素を出してくれるなら酸欠を早められるという意味ではいいのだけれど、そうはうまくいかないだろう。燃えないという状況はとても困る。

 投擲で狙うのは口の側にあるあの大きなあご。


 私は自分のボールコントロールを信じていない。

 なので至近距離でぶつける。


 親ガニはハサミを振り始め、振り切らないうちに黒い子ガニを2匹踏みつけ、私は高く跳ね飛んだ。

 すさまじい勢いで目の前を通り過ぎる巨大なハサミ、その直後、視界に映る親ガニの黒い口の中。

 複数ある白い大きなあごがスローモーションに見える。

 私は手を振りぬき大量の火のついた照る照る坊主をぶつけた。

 照る照る坊主はその頭部が破裂し親ガニのあごに張り付くと赤い火が煌煌と灯った。


 照る照る坊主の火が親ガニを苦しくさせたのか親ガニが泡を吹いた。

 泡は火の周りを包んだ。

 酸素の供給を絶たれた照る照る坊主は虚しく火が消えた。












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