表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/110

93、川原のボス、子ガニ狩り

 私達があまりの光景に呆けてしまっている間に、目の前のカニ達はポップ酔いが治ったのかそれとも単純に存在に気づいたのか、ハサミを振り上げながらこちらに向かって走りだした。


 囲まれたら攻撃を躱すことも出来なくなるだろう。

 私達は背後に向かって走りフィールドの角を目指した。

 角に着けば1度に襲いかかるカニの数はサイズの都合で1匹だけになる。

 1匹のカニの攻撃は見ていれば躱すことが容易だろう。

 角という位置取りであればハサミを振るスペースも限られ攻撃は単調になるはず。

 問題はこのカニ達をどうやって倒しきるかだ。

 倒しきらなければクモの時もそうだったようにボス戦は終わりにならない。

 まぁ、最悪、1度ログアウトして今回のボス戦をリタイアし普通のボス戦をすればいいのだけど、それをやるのはゲームを楽しむゲーマーじゃない、それはゲームを作業している人だ。

 困難を楽しまずして何が楽しくてゲームをしているのだ。


 ボッチは人に見せることを、自慢することを目的としてしまったら腐敗するのだ。歯止めが効かずただ見るに堪えないゴミに成り下がるのだ。

 ボッチでも気にするなかれ!媚びるなかれ!コミュ力が足りなくて人の輪に入れなくてもそれが見苦しくあっていい理由にはならない。

 ボッチは一緒に過ごす人がいない分協調性の必要のない時間が多い。協調性を考えなくてもいい時間がボッチの本領を発揮できる時間なのです!

 ボッチは自由に!ハデに!1人の時間を過ごすのです!楽しめ!1人の時間を!周囲の目などない!突き抜けろ!

 しからば道は開かん!


 戦闘の高揚感からかテンションがおかしい。

 どうやって殲滅しようか。


 オヤガニは大きい。きっと一撃も大きいだろう。目の前の子ガニを一撃で倒せる程に。

 子ガニは小さいので上手くいけばクローを使った一撃で倒せるかもしれない。


 相手はカニだ。


 カニといえば硬く重い殻を支えるために筋肉ばかり鍛えている、脳みその少ないやつだ。

 ちなみにカニみそは内臓であって思考を司る脳ではない。ウニと同じである。

 逃げる必要性が減ることで頭を使うことが減り、体を維持するための栄養を摂ることばかり考えている脳筋だ。

 スライムのような単細胞生物?よりは賢いだろうが爬虫類などと比べても賢さは低いだろう。

 まして鳥類よりも賢さがあるとは到底考えられない。

 幻術スキルの印象操作はスズメみたいな鳥相手にミスはなかった。

 一撃を与えられると解けるとはいえ、その一撃で倒されてくれればいいのだ。


 私はフィールドの角に行くまでに数回「1番大きいカニは敵。」と印象操作を撃ち、親ガニを子ガニに襲わせた。


 印象操作はあまり鍛えていないからまだ10字しか書き込めない。

 文字制限は厳しい。熟練度上げする時間がなかったから……。


 私がフィールドの角に着き後ろを振り返ると、親ガニは周囲の子ガニ目がけて爪を振るい掃討していた。


 無数の子ガニが走り石に爪を打ち付け立てるガチガチガチガチという音に紛れ、親ガニの振るう爪が子ガニを砕いていくバチバチバチバチという凄まじい音が響いていた。


 親ガニは自身に攻撃した子ガニを見つけられなかったのだろうか。

 だから裏切り子ガニを周囲の子ガニごと攻撃したのだろうか。


 予想以上に効率よく同士討ちが巻き起こる。

 親ガニに攻撃され子ガニは殺されまいと逃げるもの、対抗して襲い掛かるものが入り混じり混乱が起きていた。

 子ガニがまとまっている場所目がけて親ガニは爪を振るい砕いていく。


 フィールドの角にようやく私を追ってきていた子ガニが辿り着いた。

 少し親ガニのほうへとよそ見をしていた私に向かって子ガニは爪をふるう。

 あらかじめ予測していた軌道でくる爪の動きは緩慢に感じる。


 カニはその関節の都合上振る方向が予測しやすい。

 奥から手前に向かって爪の刃の部分を向けて振るか、手前から奥に向かって爪の背をぶつけるようにふるか。


 カニの爪はつかむことを重点においた構造で切れ味はほとんどない。

 つかまれた場合はその爪の中の太い筋肉が万力のようになり押しつぶすのだ。

 そのため肉を摘み取られるとその下に骨があった場合骨折するだろう。

 そして衣服などを摘み取られた場合衣服がちぎれない限り逃げるのは大変困難だろう。


 カニのハサミで服が切れることは考えなくていい。

 自然界で物が切れる程の切れ味があるのは虫の顎くらいだ。

 カミキリムシの顎しかり、シデムシのような腐肉を噛み千切る虫しかり。

 カマキリのカマだろうと、カニのハサミだろうと物を切る仕様にはなっていない。あれはつかむ仕様だ。

 動物の爪はひっかけることを主眼にしており切ることはあまり重要視していない。

 深く突き刺し獲物に取り付くことを主眼に鋭くなっているだけで、浅くひっかけた時に切れるのは副作用だ。


 子ガニの腕の内側の辺りにクローを構えつつ軽く身をよじり子ガニの爪をかわした。

 子ガニの爪は腕の部分をクローで斬り飛ばされ、フィールドの境界にぶつかり弾き返された。

 私は身をよじった勢いとクローで受けた子ガニの力を利用し、体の向きを変えずに背骨を軸に勢いよく腕を振るってクローの刃を子ガニの頭に叩きつけ砕いた。

 足を使って加速させていないので最高の一撃とはいえないが、装備によるブーストと反動の利用に回転を合わせた一撃は易々と子ガニの頭を砕き貫通し通り抜けた。

 貫くつもりで振り抜いたものの、慣れない動きにバランスを崩し、私は腕に振り回される形でタタラを踏んだ。


 ここで次の動きに繋げられたらカッコよかったのに……。

 カッコつかないなぁ。

 初めからカッコついてたらおかしいか。


 次は貫いた勢いを利用出来るように立ち回ろう。

 勢いよく横に貫いたら、背中を見せるように回転しないと次の動きに繋げられない。

 これは敵に背中をさらすことになるので危険だ。

 下から上へカチあげるように反動を利用して、貫いたらその勢いを利用し少し跳ねてクローを次の敵に振り下ろそう。

 振り下ろせば屈まないと反動を殺せない。屈めば装備でブーストされた脚力を利用して次の敵にクローをカチあげることがしやすいだろう。

 基本は上から下で重力を利用、下から上で装備ブーストの脚力を利用。

 ……。問題はこのゲームでどの程度重力が信用出来るか。

 上から下への攻撃はあまり期待しない方が良さそう。そもそも私の場合体重が少ないから威力がでない可能性が高い。

 あまり高く跳べばむしろ攻撃の隙が出来て危険だ。

 敵の下に入ってからの相手の重量を利用した攻撃なら隙も少なく威力は高くなるだろうか?


 いや、そんな簡単な話じゃないだろう。


 子ガニはクローとフィールドの壁に挟まれた結果威力が子ガニの体を飛ばすことに使われず殻を砕くことに費やされた。

 私の足もフィールドの壁に当たっていた。

 つまりフィールドの壁に助けられた。

 もしフィールドの壁がなかったら子ガニは飛ぶだけで殻を砕くことも出来なかった可能性が高い。

 タタラを踏むだけで済んだのもフィールドの壁のおかげ。

 予想以上にギリギリのラインだった。


 大きい敵ではないのがむしろ対応を難しくさせているようです。

 硬いばかりで小さくて重量が少ないとなるとダメージ与えにくいですね……。

 力の大部分が相手が飛んでいってしまうことに費やされてしまうために砕くことが難しい。


 大きいからこそ倒しやすい。

 大きいからこそ的が大きい。

 大きいからこそ高い物理ダメージを与えやすい。


 小さいから的が小さい。

 小さいから体力は少ない。

 小さいから物理的な力はかけにくい。

 小さいから生存率を上げるために特殊な力を持っている。


 まとめるとこういう感じですね……。

 今までは敵が大きいからこそ急所も大きく狙い所がつけやすかった。

 今回は小さいからこその危険性がよくわかります……。


 ウィルスみたいなもんですね……。

 小さいから叩いても潰せない。

 熱やX線などのエネルギー、化学物質を用いたりして破壊しなければ対応出来ない。

 小さい敵には物理より魔法の方が効果的なんですね……。

 早いところ範囲魔法を入手しないと。

 硬くて小さい敵や物理の効きにくい敵に対応がしにくくてしょうがない。


 親ガニのように殻の弾性を破る程の速さと力があれば物理でも砕ける。

 先ほどのように威力が打ち消される余裕がなければ物理でも砕ける。


 ……。……?


 けっこうな時間を考えていた気がするのだがなかなか次が来ない。

 我に返り10m付近に集中させていた意識を広げた。


 30mいや50m程遠くを見ると親ガニの攻撃範囲から外れたところに子ガニの塊がある。

 中央付近には見覚えのある白い毛玉と黒い塊が時折出入りしている。

 黒い山のようにしか見えないカニの集団。

 白い毛玉は黒い山を跳ね回り、黒い塊は黒い山の上を飛び回る。


 目を凝らし白い毛玉と黒い塊を観察していく。

 あまりよく見えない。私はこそこそと物陰に忍びながら近くに寄っていった。


 白い毛玉は近くに寄るとしっぽや三角の耳などが見覚えのある猫に、黒い塊は黒い羽根を広げながらつんざくような声でわめくカラスに。

 ぬこにゃんとからすみです。


 ぬこにゃんやからすみが子ガニの攻撃を避けると、子ガニの攻撃は別の子ガニにぶつかり、群れて固まり子ガニの上に子ガニがいるような状態では子ガニは飛んでいって威力を殺すことが出来ず、子ガニの殻は砕けてしまう。

 子ガニの攻撃では子ガニの殻を砕くことは出来ても中身を潰すことは出来ずまだ息の根があったが、ぬこにゃんやからすみはその部分を嚙みつきついばみ食べることで子ガニの息の根を止めていく。

 子ガニを仕留めていく程ぬこにゃんやからすみへ子ガニのヘイトが溜まり、より激しく狙われるのだがぬこにゃんは身のこなし軽く子ガニの背中を蹴っては別の子ガニの背中へと飛び移り誤爆を増やし、からすみは宙へと逃げて攻撃範囲から外れる。

 ぬこにゃんは体が小さく軽いため1m程の大きさのある子ガニを蹴っても子ガニはビクともしなかった。


 そういえば港の近くにいるネコや川の近くにいるネコってカニを食べるなぁ……。

 好みに近い味なのかな?


 後続は来ない。私に対するヘイトはほとんどない。

 ここで待っていても何も出来ない。

 子ガニを狩りにいくか。

 狙い所は親ガニから逃げている子ガニだ。

 あの子ガニを親ガニにぶつけて親ガニが子ガニを始末し終えたら、親ガニを狩りにいく。


 私はフィールドの角から移動しコソコソと子ガニに魔法をかけてまわった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ