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90、童心に返って遊びましょう

「いいんじゃない?」


 ボスは優しくそういうと私の頭を撫でた。


「あの他のパターンは考えなくていいのですか?」


 私は疑問に思った。

 危ない人など来るかもしれない。

 そんな時の受け答えを考えなくていいのだろうか?


「変な人が来るのはあまり考えなくていいよ。

 しばらくは一見さんお断りでやっていかないと場の空気が作れないからね」

「一見さんお断りということは紹介してもらわないと入店は出来ないってことですよね」

「そうそう。私が初めのうち人を連れてくるからあまり気にしないでやっていってね」

「なるほどー……」


 ボスの紹介なら変な人は来ないだろう。

 それなら安心出来る。

 一度場所の空気が出来たらよほど変な人が来ない限り壊されることはないだろう。

 しかしいくらボスが紹介してくれたからといっていつもお店に来てくれるとは限らない。

 居着いてもらえるように手を尽くしていかないとダメだ。


「あ、それからね、よほど変な人が急にやって来た時はカウンターの下、天板についてるボタンを押してね」


 私はボスの言葉を聞いてカウンターの下を見た。

 天板のところに丸いボタンが付いている。

 よく見ると天板はかなり分厚く内部に何かしらの機構があることを予想させた。


「中にはね、警備室に異常を知らせる装置が組み込まれているんだ。

 1度作動すると警備員さんが来るまで何も出来ないから気をつけてね」

「警備員さん?」

「警備部門は見てなかったよね。

 実態はほとんど非常勤だし、何より基本この区画でしか働いていないからあまり関係ないもの」

「そうなんだ?」

「ギルドのメンバー、戦闘職はだいたい非常勤警備員さんだよ」

「!」

「警備員さんは資格を持っていれば少しだけど給料をもらえるし、事件を終息させたらボーナスが出る仕組みなんだ。

 点数稼ぎで事件を捏造するような人はいないと思うよ。

 いいとこ小遣い稼ぎが精々のレベルのボーナスだからね。

 そんなことに時間をかけるくらいなら狩りをした方が儲かるからね」

「そうなんだ……」

「警備員用のチャットを使って警備室と連携とっているから割とすぐに警備員さん来てくれるよ。

 だからあまり心配は必要ないよ。変な人は気にしないでやっていけるから」

「そっか」


 警備員さんがすぐに来ると分かっていて、変なことをしようとする人はまずいないよね。

 現実と違ってここはゲーム。お客さんが多少来なくても大丈夫なところ。

 騒ぎ立てても区画から出入り禁止にされるだけ。

 訴えるも何もそんなことやることが出来ない。

 やって得することはありえない。


 ここはゲーム。現実の身分がどうであれ、ここでは何も意味をなさない。

 金銭を稼ぐことは一般的な戦闘職には容易。サモナーみたいな例外は視界から外してね。

 金銭によって人は動かせず、楽しむことだけが目的にして全ての世界。

 モラルが壊れている人は弾かれて視界から見えなくなるだろう。


「警備室って各建物にあるけど、本部は以前入ったことあるあの大きな建物ね」

「ボスの私室があるあの建物ですか?」

「そう、そこそこ」

「……警備室って各建物にあるんですか……!」

「そうだよー、そのボタンって高枝切りバサミと同じ仕組みでね、ボタンを押すことで警備室の方で部屋番の書かれた札が落ちる仕組みになっているの、だからあんまり距離伸ばせないんだよね……」

「高枝切りバサミ……」

「手元で操作して2、3mばかり離れたところ切るやつね。

 こう腕使って切る大きなハサミじゃなくて、手で握って遠くのハサミの歯を動かす方の」

「知ってますよ!植木屋さんが使う方じゃなくて、果実とかを取るために使う方ですよね?」

「そうそう、握ると果実とか切った物を落とさずに運べるやつね」


 実家にレモンの木が植わっていて、高いところにあるレモンを取るために何度か使っていた。

 あれ、けっこう便利。


「あの仕組みなんだ……」

「作るの意外と楽だったね、原型を分かっている人が多いから」


「さて用事も済んだし……今日時間ある?」

「平日なので今日はあまり長居は出来ません」

「そっか、じゃあ、テン子ちゃんは何かしたいことはある?」

「この頃、サモンモンスター達と触れ合えている時間が短いので出来たら遊んであげたいかな……なんて思っています」

「ん、いいね、私も遊んでいい?」

「はい、かまいませんよ」

「あ、後でいいからサモンモンスターの種類をチャットに書き込んでおいて欲しいな」

「分かりました、やっておきますね」

「うん、ありがと、テン子ちゃん」

「ボスは誰か遊びたい相手もういますか?」

「いぬくんプリーズ!」

「分かりました」


 私がスマホをタッチしいぬくんを呼び出すと、目にも留まらぬ速さでボスはいぬくんを抱え上げ頬ずりをしていた。

 いぬが大好きなのだろう。

 いぬくんはギョッとした顔でもがいていた。

 呼び出された瞬間捕まればそうなるわな。なる罠……。

 ちょっと思い浮かんだだけです。

 別にボスがいぬを捕まえる罠に思えたとか考えていたり、ちょっとしただけです、他意はそこまでありません。


 私は隣でボスがもふもふしているので、それを阻害しないように別ジャンルを選択しましょう。

 サモン出来るけどしていない虫系統は止めた方がいいかな?

 戦闘はともかく愛でる対象として一般的ではないですし、好きな人は好きかもしれないですが、あまり好ましく思うのは難しいものです。

 もふもふじゃないジャンル……。

 最後に呼んだピュアちゃんやヘビくんやうしくんは除いて、誰を選びましょうか?

 ふわふわ系統?とりちゃんとからすみはけっこうご無沙汰ではないかな。

 彼らを呼ぼうか。


 私が召喚するととりちゃんとからすみはそれぞれ私の肩に乗った。

 右肩にとりちゃん。左肩にからすみ。

 カラスのからすみの脚は爪が鋭く尖っていて肩が剥き出しだったらけっこう痛みを感じそう。

 とりちゃんの脚は小っちゃいのでくすぐったいんじゃないかな?

 久しぶりに召喚した気がするけど、最後に召喚してからたぶん1ヶ月も経っていない。

 ちょっと人付き合いが多くて、記憶の占める割合が低いだけです。


 私は両手を組み息を吹き込んだ。

 バレーボールでレシーブをするような形に手を組むと笛の様に音が出せるはずだ。

 指の開け閉めを調節すれば音階も作れたと思う。

 久しぶりにやってみたのでスカー……スカー……って空ぶかししてしまった。

 小学生の頃少しやっていたくらいだ。しかもあまり上手ではない。

 息の吹き込む場所を探したり、手の形を調節していると、終に音が出るようになった。


 ボーッという音が出てくるととりちゃん達は少し驚いたようで耳元で羽を羽撃かせた。

 柔らかい羽が耳をくすぐり、私は思わず頭を振ってくすぐりから逃れようとしてしまった。

 肩に乗っていたとりちゃん達はわたわたと肩の上で動き回り、羽を使ってバランスを取ろうとするあまり更に羽で耳をくすぐってきた。

 バランスが取れず身動きが激しくなってしまったとりちゃん達を私は落ち着かせるべく、耳に羽が当たらないようにガードしながらとりちゃん達の喉元をくすぐった。


 首元の感触はふわふわしていました。

 見えている首の太さのほとんどは羽毛が占めていて、実際の首はけっこう細いんですよね。

 指が沈み込む感触はとても気持ちよかったです。


 とりあえずとりちゃん達を落ち着かせると、先程の続き、笛を吹いてみました。

 とりちゃん達も2度目なので驚くこともなく聞いていた。

 音の出し方を思い出しながら、音階の方も練習していく。

 上手くいけば合図としても使えるようになるかもしれない。

 そう考えると練習にも身が入り、1つ1つの音を順調に出せるようになってきた。

 大して上手ではないものの、ドレミの歌は吹けている気がした。

 音痴は重症なのでたぶんあまり上手ではない、つまりド下手だろう。評価は2段下げて考えるべきだ。


 とりちゃん達は初めのうち、音を聞いて首を傾げていた。

 しかし私があまりに下手だからか、とりちゃん達はピヒョピヒョグヮーグヮーと鳴き声をあげ始めた。

 ドレミの歌を吹き始めると音階やリズムを合わせて鳴き声をあげていた。

 いつの間にかボスが横でドレミの歌を歌っていた。

 いぬくんはボスの腕の中でぷいっと顔を背け1人何もしなかった。



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