85、講義内容を追求しましょう。
私はツナさんに向けチャットに書き込んで伝えた。
夜分遅くにすみません。
只今、解体の講義に向けて私なりに準備を進めているのですが、困ったことが多々あります。
たとえば講義に使う教材の入手です。
教材として牛を使おうと考えているのですが、私では討伐方法が悪く、入手する材質が望んだものになりません。
具体的には、相手を興奮させずに一瞬のうちに気絶させ放血させる手段を持っておらず、おいしい牛肉を入手することができません。これでは見本としても役に立ちません。
悪い見本用に1頭は狩ってあるのですが、出来ればいい見本も見せてあげたいです。
大変申し訳ありませんが、牛を興奮させずに気絶させられる方はいませんか?
そして恥ずかしながらまるで金銭の類が稼げておらず、金銭面における支払いなどが出来そうにないです。自前で用意できるものは用意しようと思うのですが、牛の件しかり、出来ないことが多々あります。
何か私に出来ることでしたらやりますので、どうかお手伝いをお願いできませんか?
とても堅い。……まぁ、お願いごとだからこのくらい丁寧にやって問題ないだろう。
軽い口調だったら礼儀がなってない、ダメな人にしか見えない。
アバターみたいな幼い口調は……。中身がおっさんだと明言しているので、周りが信じていない気がするけれど、するのは気分がよくない。
おっさんならおっさんらしい素振り、社会人らしい態度をとらなければ、そうはあつかってもらえないのだ。
外見がどうであれ、中身がしっかりしていれば、それ相応の対応を見知った人ならばしてくれることだろう。……今はあまりしてもらえている気がしないけれど。
人に対してわからないことへの度が過ぎた恐怖とか、子供じみた振る舞いもしているからそう扱われてしまうのだ。
どうすればいいかわからない状態が怖い。
ここ、治さないと子供扱いは止まらないだろう。
ボッチである状態も治らない。
とりあえず、すぐには連絡は来ないだろう。
今日はここでログアウトしよう。
ギルドチャットに、おやすみなさい。と書き込むと何名かお疲れ様です。と返してくれた。
誰かが返事してくれる、その感覚にそこはかとない幸せをかみしめて私はおちた。
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朝、起きるとスマホにツナさんからチャットの返信が来ていた。
こちらが頼んで始めたことです。特に気にしなくてもいいですよ。
なるほど。牛ですか。
自分で用意できない材料、慣れていないもので大丈夫ですか?
テン子ちゃんが普段していることを見せた方がいいのではないですか?
そうだよね。私が普段、使えないものだと、不安だよね。
何を示すのか、状態が違えば対応も違うだろう。
そういうところが大きいよね。
血抜きが不十分だと、血の匂いが強すぎて臭いと感じてしまうだろう。
鉄臭さが強すぎて、普通の人には食べられないものになる。
悪い見本の牛は見せない方がいいかもしれない。
いや、悪い見本だからこそ見せた方がいいか。いい見本と一緒に。
討伐の仕方も重要ですと示すためにも牛は教材にする。
カニも使おうかな。
熱で変性していない緑っぽい灰色の甲羅、熱で変性した赤い甲羅。
この辺りも見せた方がいいと思う。
色以外に何か違いがあったかな。その辺りは調べておこう。
それを見せたうえで何か応用方法思いついていたらそれも話して。
スライムの可能性も伝えてみよう。
スライムの性質。その体液について。
液体筋肉としてゴーレムを作る材料に出来るかもしれないことなど、話せることは割とあるだろう。
大丈夫、講義で伝える内容はしっかり決まっている。
一応、その辺りの事も連絡しておこう。
何を話すか、運営している側がわからないのは困るからね。
内容をもっと詰めていけばきっといける。
討伐の仕方と解体と素材の関係。教材は牛。
解体の過程で変わる素材の性質。教材はカニ。
モンスターの生態から予測できる製品予想。教材はスライム。
この辺りを伝えればきっとうまくいけるはず。
あれ、この講義、何分間するんだろう?
……示しながらやるから各30分くらいを見込んで、大学講義と同じ90分間くらいかな?
それとも各10分くらいで終わらせて、30分の短い講義かな?
……拘束時間を長くとっても集中して聞いてくれる人は少ないだろうし、講義時間は短めにして質問受け付けにするべきかな。
答えられる質問か、わからない質問か、いろいろあるだろうけれど大丈夫かな?
まぁ、出来ること、予測できることを1つ1つ考えて、頑張っていこう。
今日は図書館にこもって資料作りだー。
あ、返信を打っておこう。
おはようございます。返信ありがとうございます。
普段使っていないものだけれど大丈夫ですか?という問いに関してはある程度考慮しております。
討伐の仕方と解体について……
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PCを使い資料をまとめ保存し、ネットメールのアカウントを介しファイルをスマホでも開けるように整えると、私は図書館を出て帰宅した。
これで一段落した。
時折スマホのチャットでツナさんと話し合いをし、幹部用のPCを使ってパワーポイントを使えるようにさせてもらえた。
スマホに講義で使う予定の文章をメモに書き込んでおき、簡単に引き出せるようにしておいてある。
一々打ち込んでいたらタイプミスが怖いです。
落ち着いた状態で文章をまとめたので、理路整然とした内容になっているはずです。
これでもう何も怖くない。
……なんだろう。この言葉を使った瞬間、悪い予感が、フラグが立った気がします。
何が起こるんでしょうか……。
起きたら困ること考えていきましょうか。
予測がつけば対応ができるはずです。
参加者がそもそもいない。
……ちゃ、ちゃんと宣伝を頑張って、人を惹きつけられればゼロ人なんてことはきっとないよ!
いなかったら、いなかったで、カメラ相手に講義して、ネット授業でしたが何か?なんて体をとるもん。
参加者が途中で退出し、講義を聴く人が誰もいない。
……どうしよう。対処方法が思いつかない。
面白い講義にしないと!
退屈で出ていかれちゃうと困るよ!
は……。私が声を出さないで講義するから、講義中、音がない!
いびきだけが響く教室……。
すごい怖い。
せめて目に鮮やかなものを見せて、実演して、牛肉の食べ比べして、アクティビティを豊かにして楽しんでもらわないと。
資料をあさるだけじゃなくて、わかりやすいものをつくらないと、体験を増やして興味をもってもらわないと。
もっと出来ることあるかな。
あとはツナさんたちとゲームで予行演習していかないといけないや。