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82、ウシを狩ろう。

 火の幕が晴れるとそこには以前戦ったウシがはるかに小さく見える巨大なウシが目の前にいました。


 謹んでチェンジお願いします。


 蹄で地面を削ると私の背の高さほどの土煙があがる。

 下は草原だというのに。

 草の根っこを物ともせずに、軽く地面をひっかいただけで、黒い土を巻き上げる。


 ボスウシは辺りを見渡し、私たちを見つめると唸った。

 その声は牽制程度のものだっただろう。

 しかしとても低くお腹にきた。

 その目から目を離さないように注意しながら彼我の戦力差を測る。


 地面からお腹までの高さが私の身長とたぶん同じくらいだ。

 基準は足元に生えている私の腿丈の高さの草。

 あれがだいたい30㎝か40㎝だとすると、それが3、4個入りそうな高さの位置にあるお腹は私の背丈を超える位置にあると思っていいですよね?

 どんだけでかいんですか?

 体高だけで3m超えてませんか?

 体長は4m以上ですよね?5mいってませんか?


 涙腺がむず痒いです。怖いからって泣かないでください。

 なんでこのアバターの涙腺はこんなにもろいんですか!


 うしくんの大きさが普通の牛よりけっこう小さな体高130㎝。

 以前戦ったウシのサイズとうしくんの大きさはほぼ同じ。

 普通の牛が体高140㎝から160㎝くらいで体重650キロから1100キロだった気がする。

 体高140㎝の時が650キロで、160㎝の時が1100キロくらい。


 あれ、何トンですか?

 体高20㎝変わっただけでほぼ2倍になっているんですよ!

 体高140㎝くらい変わったら、えーと、漸次的に増えていくと考えると、7から8で2倍くらいだから8から15で……、8から9の時何倍なのかみたいな情報が分からないと求められないや。

 とりあえず20トンは超えてそう。

 かすっただけでHPが消し飛ぶこと請け負いです。


 私の足がじりじり下がっています。

 距離をとれば突進を避けられる確率が高くなるので重要ですけど。


 ……いじめですか?

 通常サイズを狩れるか、微妙なラインの雑魚プレイヤーになんでこんなに巨大な個体をぶつけるんですか?

 かすったら即死ですよ!

 うしくんに組み合わせてるうちに仕留める計画が……。

 組み合うことすらできないです!うちの子小さいんですよ!


 今の私のパーティーで1番足が速いのは私ですよね……。

 ということは囮になって体力を削る役目は私ですね。

 他のメンバーでは躱せない可能性が私よりも高い。

 前みたいに私の目の前でメンバーを殺されたくない。


 前回みたいにロデオして体力を消耗させる?

 ゲーム的跳躍力で乗れたとしても空高く吹き飛ばされちゃいます。


 ……ピュアちゃんとなら密着してるからロデオできるかも!

 問題はどうやってそこまでいくか……。


 メンバーから離れたところに私はじりじりと下がった。

 1番動きが大きい私をボスウシは目で追っているようだ。

 十分にメンバーと離れたところで私は両腕にクローを装備した。


 クローの存在により私がボスウシを傷つけられる存在だと示す。

 武器の材質がボスウシよりも高位のものであること。

 それが何か、より多くのヘイトを稼ぐことにつながらないだろうか?


 装備した途端、ボスウシが先ほどとは比べ物にならない音量で吠えた。

 その音は爆撃のごとく私を襲い、私は反射的に横に跳ね……踏み止れず草原に転がりこんだ。

 草で足がもつれちゃった。


 一瞬前にいた場所を黒い豪風が吹き抜けた。


 反射的に地面にクローを叩き付けるように突き刺し、私は草の中に這いつくばった。

 手で草をつかみ吹く風に体が流されないように固定しているものの、プチプチと手の中で草はちぎれていく。

 固定するもののない足はお腹の下を通り抜ける風で浮いてしまった。

 手の中で握っていた草が全てちぎれてしまうと、クローによる傷跡を地面に残しながら私は少しづつ吹き飛ばされてしまった。


 風が治まると、そのまま伏せて草陰に隠れながら周囲を窺うと、遠くにボスウシの後ろ姿が見えた。


 余波だけでこの調子だとロデオするのは確実にムリだ。

 勝機があるとすればクローによる攻撃で致命的な部位を傷つけることだろう。

 狙える場所とすれば首筋くらいだ。

 他は部厚すぎてクローの間合いが足りないだろう。

 筋肉とかに阻まれて。


 スマホを操作し、幻術魔法をかける準備をし、ボスウシの通り抜けた草原の傷跡に近づいた。

 腰を曲げて、草を揺らさないように気を付けながらゆったりと。

 ここにいる敵はボスウシだけだ。

 余計な敵とのエンカウントを気にせずに歩くことができる。


 ボスウシが突進した軌跡は、草原を抉り、黒い太い線を地面に引いていた。

 その線は少なくとも幅3mあるだろう。

 抉れた地面には所々に草の白い根が剥き出しになっていた。


 私は剥き出しになっていたその黒く湿った土を少しとると団子状態にして投げやすい形状に変えた。

 草は投げても遠くに飛ばないので今回は使えない。

 手のひらに生えた細かい毛のおかげで土が手につきにくい。


 作った泥団子に巨大な石の幻影を投影し適当な方向に投げた。

 巨大な石の幻影が周囲に散乱すれば私の隠れ場所が増えるのだ。


 (クール)(タイム)を消化する間に移動をしていたところ先ほどまで私がいた場所めがけてボスウシが突進した。


 背中に唐突に受けた暴風で草むらに倒れこんでしまった。

 腕に付けたクローが地面にめり込み、そこを支点に前転して、仰向けになってしまった。 

 このゲームの中は重力が弱いのかなぁ。

 簡単に吹き飛ばされるよ。


 私は急いで立ち上がり、石を周囲に配置していく。

 何回かボスウシの巻き起こす暴風になぎ倒されたりするものの、周囲がボスウシの突進で草原が禿げていくもの、私は十分な不意打ちが可能な死角を量産し、ボスウシは私の行動を阻止しようと突進をしていた。

 この時ボス戦開始から1時間が経過していた。


 何度も転び、吹っ飛ばされ、私は泥だらけになっていた。

 メンバーはというとボスウシに隙が出来ないかとうかがいながら遠巻きにしていた。

 今回はそこまで出来ることがないので巻き込まれるのに注意してほしい。

 文句はこんな巨大なボスウシを出してきた運営にしてほしい。


 ボスウシは息が少し荒くなっていた。

 私は石の幻影を突き抜けながらゆっくり足音を立てないように近づいた。

 ある程度近くに寄った私は足をたわめ、力を蓄えると顎の下を跳びぬけた。

 ボスウシの首筋をクローで掻き裂きながら。


 私は後ろを確認せずにそのまま走った。

 きっとまだ生きている。

 この程度ではボスなのだから死なないだろう。


 私は脇にあった幻影の石の中に隠れ一息ついた。

 ちゃんと掻き切った証拠にクローは全体が紅く染まり血が滴り落ちていた。

 これでちゃんと動脈が切れていれば私の勝ちだ。

 幻術スキルは暗殺向き過ぎる。


 死角は作るものなんです!


 心の中でどや顔をしていたら風に吹き飛ばされました。

 土に顔が埋まり、口に土が少し入った。

 戦闘中に油断はいけません。

 勝ちと思った瞬間が1番危険なんです。


 幻影の陰からボスウシを探すと、首筋を紅く染めてはいたがそこまで血が出ていなかった。

 さらにじっと見つめると、首筋の筋肉が太く盛り上がり傷口をふさいでるようだった。


 どこのマンガだよ。ここは初期フィールドで、初心者向けのボスのはずなんだよ!

 なんでこんなにしぶといんだよ!


 私は若干のいらだちを覚えつつ、今度こそ仕留めるべく忍び寄っていた。


 







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