74、白い猫の子
まず出来ること。
それは人に声をかけていくこと。
数は力。
意識さえしてもらえれば、それが好悪どちらであろうと、関心なしよりかはいいことだから。
0からでは何も行動を起こしてもらえない。
マイナスでも行動は起きる。
認識をしてどうすれば妨害できるかなど考えてもらえる。
そのことに対して考えてもらうことさえ始めてもらえれば、何に利があるか、どうしたら自分が気持ちよく過ごせるか、その点を意識してもらうことは少なくとも楽になる。
関心なしをさせないこと。
それがまず人を動かすための始めの1歩。
まぁ、このギルドの成り立ちみたいに、あまり関心がなくても利益などで人を誘い込む仕組みを作ることが出来ればいいのだけど。
その仕組みが思いつかないからまずは地道に手を動かすしかないね。
まず私が提示したい事案は何か。
関心を持ってもらう事柄は1つにまとめないと力が分散したり、混乱が起きる。
重要なことは1つに絞ろう。
危機感を持つのは私だけでいい。
他の人にとってギルド存亡の危機なんていう事実は必要ない。
壊れてしまう物という認識を植え付けたら逃げる人は逃げてしまう。
そんなことは起きてほしくない。
逃げる人は逃げればいいなんて思ってはいけない。
不信感は敵だ。
事故が起きた製品を作った会社の製品は安全だと信じられるまで買い控えが起きてしまう。
その買い控えの期間はどのくらいの長さになるだろうか?
1月程度では払拭できないような物になることだろう。
それが起きてやっていくことはできるのか。
続けることは出来るかもしれない。
けれど対立ギルドに流れた人材や客層はそう簡単には戻ってこない。
冷え込む運営に楽しめる要素は少ない。
幹部クラスからも出ていく人が出てくるかもしれない。
運営の冬は長引く可能性が出てきてしまう。
危機感を煽るなかれ。
また危機感を見た人の中にはその危機感に関心をもつ人も出てくる可能性がある。
危機はチャンス。
人を引き連れて対立ギルドに加入して利益や立場をもらおうとする人が現れるかもしれない。
通信会社のシェア争いみたいに泥沼になりそうだ。
危機感を晒さないこと。
これ重要。
次に今回の解決に関して押さえておくべき重要なキーワード。
解体だ。
解体という機能を外部委託していたこと。
これが原因で今大変なことになっている。
委託できる外部の大きなギルドがなくなったこと。
そして今回最も影響を受けているのは量が必要な素材。
希少な素材は在野の解体が得意なプレイヤーに頼むだろうから考えなくても大丈夫。
こだわる人は自分で探しに行くだろうから。
技術よりも人手がものをいう量が必要な素材の採取。
今まで人手の多い大ギルドに頼むことで融通してもらっていた素材だ。
これらに関してどういう風に処理するか。
クエスト風に仕立てあげ、解体したらいくら。、なんてことは難しいかもしれない。
お金自体有り余っている人が多いだろうから、乗ってくれる人は見つからない……?
あれ?このギルド内であれば確かにお金が有り余っているだろうけど、このギルドに在籍していない在野の人たちはどうなんだろうか?
ギルドの素材の買取りカウンターでお金が入る人、歓楽街でお金を出す人でとんとん?
お金足りなくなりやすいのかな?
いやでも別にこのギルドに関係しないところでお金を稼ぐ手段とかもある気がする。
なら別にお金に困ることはないよね?
装備などの購入や生産素材の購入でお金を使い込んでしまうかな?
だとしたら在野の人たちはお金が不足してるのかな?
素材状態での買取り強化だとかはもうしているだろうし。
うーん……なんだか買取りカウンターがあるからそこまで困らない気がしてきた。
とりあえず1つの終着点は買取りカウンターだよね。
でもそれだけだと危ういかな?
解体ギルドが合併で在野のプレイヤーも使えなくなったということはそもそも素材の解体自体されにくくなるということ。
その辺り考えるとやはり素材不足は発生するだろうなぁ。
単価が安いから解体してまで入手しようとは思わなくなるだろうし。
危機感を感じている人への応急処置は買取りカウンターで買いましょう。
で、対処法は簡単な解体が出来る人を増やすことかな。
ここが難しいよね……。
私単独では解体できる人を増やす方法なんて思いつけそうにはないかなぁ……。
大勢に影響できる方法を私が持ってないもの。
チャットで解体をしましょう。など言ってもスルーされるのがオチだもの。
見知らぬ人が何をいったところで、そういう人なんだ、で済ませられちゃう。
それでは無意味だ。
解体できる人が増えないよ。
発言に注目してもらえなくなるからむしろ影響力は減少する。
影響力が高い人……。
ボス!
よし、とりあえずボスを探そう。
忙しいかもしれないけど手伝えることあるかもしれない。
手伝えば事態が好転するかもしれない。
できることを手伝いに行こう。
~~~~~~~~~~
「すみません、ボス……フォロさんがどこにいるのか知っている人いませんか?」
私がチャットに書き込むとすぐに応答があった。
「ギルドが解体ギルドと提携を維持できなかったことが原因なので、職人に責任はない。
私が謝りに行くので自分たちの行動は崩さなくていい」
そう発言しボスは関係各所に謝罪に走り回っているらしい。
ボス……。
手伝えそうな内容じゃなさそう。
手伝うと言ったらむしろ怒られそう。
怒るボスが想像できないけど。
私は誰のところに向かおう?
料理部門の人のところだろうか。
こんさん、ツナさん、シルバーさん。
私が知っている料理部門の人ってもうたぶん幹部クラスですよね……。
簡単に会えるのかな……。会えなさそう。
とりあえずアポイントをとれるのか確認してみよう。
個別チャットに書き込み。
「すみません、こんさん、解体の普及に関して意見を伺いたいです。
どうすれば大量消費する単価の安い素材の供給量を上げられるかがテーマです。
話すのに都合のいい時間があれば教えてもらえると助かります」
似たような意味の文をボスと2人にも送った。
これで今出来ることはもう思いつかない。
私はとりあえず職場を見学しに行こう。
今日は見学だけの予定だ。
物思いに耽りすぎて時間がなくなったなんてことはないです。
ちゃんと元々見学だけの予定ですから。
見晴らしの良いガラス窓のある応接間から見えていたその建物に向かう。
外から見たその建物は鮮やかな赤いレンガ屋根の2階建て。
少し大きく澄みきった丸ガラスに十字格子の窓が連なっている。
窓から少し覗けている中には木の穏やかな色調が広がっている。
穏やかに明るいクリーム色の壁はテレビで見る地中海にあるお店を思わせる。
ギリシャとかイタリアの港町とかにありそうな感じ。
「こちらお店のクーポンがついてますー。是非読んでくださいー」
お店の外では黒いロングスカートのメイド服に白いエプロン姿のネコの獣人がビラを配っていた。
その人は白髪ロングで胸がとても豊かだった。
赤縁の眼鏡をかけて大きな丸い赤い目が印象的。
背は155㎝くらいではないだろうか?
白い手袋をつけたような手はその先の細い指先を艶めかしく感じさせた。
配っているビラは電子クーポンのURL付きのようだ。
大きな声が響き渡っている。
とてもかわいらしい女の子の声。
けれど落ち着いているテンション。
メガホンを使っているわけじゃないのに、素の声量がとても大きい。
語尾が間延びしていて、胸の内にすっとしみ込むような声。
道行く人は一度は彼女の方向を見ていく。
彼女は目が合った人にビラを手渡していく。
見る間に消えていく左手の紙束。
インベントリにしまってあるのか、左手でスマホを弄るとすぐに補充されている。
私がお店に近づくと彼女の視線が飛んできて思わず見つめ返してしまった。
彼女は私に近づいてビラを差し出してきた。
「ご主人様。お店に興味はおありですか?」
私はビラを渡された勢いで受け取ってしまい、つい頷いてしまった。