表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/110

73、決意

 解体ギルドが機能しないと何が起きるか。


 今まで解体を頼んでいた層が素材を入手できなくなる。

 解体に時間をかける分生産にかけられる時間が短くなる。


 解体は時間がかかる。

 動物の皮を鞣すのにかかる時間が数日単位。

 皮を鞣す以外でも時間はかかる。

 まとめてやっても1日がかりになることだってある。


 動物などを解体することに、私は抵抗はないが、他の人には抵抗があってもおかしくない。

 むしろ大多数の人が抵抗があるだろう。

 素材の形になって初めて生産に使えるものと認識できる人が多いと思う。

 このゲームをしている人たちの多くが都市部に住む人だと思えば、自分で解体をすることに強い抵抗を覚えていても不思議ではない。


 つまりこの後どうなるか。


 素材不足のパニックが発生する。


 今まで素材をお金があれば自由に使えた。

 今後はそれが出来なくなる。

 素材を入手するためにお金を使うようになれば、供給量が少なくなった素材の価値は大幅に跳ね上がる。


 個人で解体を行う人達が増えるでしょうか?

 解体をすれば稼げるのだから。


 難しいだろう。

 ギルドに所属していない解体処理をして稼ぐ人は、技量の高さで成り立っている。

 高級素材を傷つけることなく剥ぎ取ることが出来るから、個人でやっていくことが出来るだろう。


 個人や小規模で解体を請け負う人の中にはもしかしたらいるかもしれない。

 けれど低級素材を素早く数剥ぎ取ることにより稼ぎを出せるのは大型ギルドの特徴だ。

 とてもじゃないが100や1000などの量をこなすような解体は個人で請け負うのは気が滅入るだろう。

 まとめての依頼じゃなければ解体速度をあげても利益が少ない。


 1000羽を捌くのにかかる時間が個人で20時間かけた時の需要と、集団で1時間で終わらせた時の需要が同じではないのだ。

 払われる金額も雲泥の差だろう。


 解体ギルドで下積みをする人がいなくなったら個人で解体している人の人口も増えにくい。

 素材の供給量が減れば、料理や作品の供給量も減る。


 これは私たちのギルドの経営が冷え込む緊急事態だ。 


 反対に料理と解体の合併ギルドは素材の豊富さで薄利多売が出来る。

 ギルドメンバーの中には合併ギルドに移籍してしまう人たちがいるだろう。


 非常に危険な事態です。


 どうしよう!?


 今のギルドが崩れたら、私の居場所は本格的になくなります。

 他の場所で私がやっていけるでしょうか?

 きっと無理だ。


 他の人はやっていくことが出来るでしょう。

 多くの人はきっとこのギルドを、所属したらすごく便利な仕組み、程度のことしか考えてないでしょう。

 ねずみのように沈む船からすぐ逃げ出してしまうかもしれません。


 私はこのギルドを守りたい。

 私を助けてくれたこのギルドを守りたい。

 1人でいた私を見てくれたボスに恩返ししたい。


 きっといつものゲームの如くボッチで過ごし途中で飽きてしまって辞めてしまう。

 そんな考えが少しあった。

 でもボスがこのギルドに誘ってくれた。

 このギルドでボスはよく話しかけてくれた。

 私にはそれが何よりもうれしかった。


 私はこのままこのギルドに何も貢献できずに過ごしていいのだろうか?


 絶対ダメだ。


 そんなことをしたら私は後悔に潰されるだろう。

 きっとこれから何も出来なくなってしまう。


 私は自分で行動を始めなくちゃいけない。

 誰かが動いてくれる。

 そんな言葉、本当に信じられるか?

 誰かがどうして動いてくれるんだ?

 誰も動かないさ。

 だから自分から動かなくちゃいけない。


 これまで自分のための行動しかできていない。

 事態を把握しても行動できていない。

 自分だけで終わらせられる行動しかしていないから。

 自分だけで終わらせられる行動は楽だ。

 その行動でかかる責任は基本自分だけで終わるからだ。

 行動した結果他の人に迷惑がかかるようなことは怖くてできなかった。


 でもそれは怖がっているだけだ。


 怖がるばかりで何もやらなかった。


 私は怖い。

 責任だけじゃない。

 わからないことが怖い。

 行動した結果が予測できないことが何よりも怖い。


 でも怖がって立ちすくんでいるばかりでは今回の危機は去ってくれない。

 今回の危機はギルドが無くなる可能性もある。

 そんな事態に私は行動しなくていいのか?


 ダメだ。


 何か対策を思いつけないか?


 行動しなくてはいけない。


 そればかり頭の中でリフレインしている。


 頭がまとまらない。

 私は結局立ち止まるだけなのか。


 目の前をギルドチャットのログが流れていく。

 ギルドメンバーの人たちは自分の知っている情報を上げていく。


 これは発展性があるだろうか?

 ただ現状を把握するだけでしかないのでは?


 どうすれば発展性があるだろうか?


 発展性ってなんだ?


 この問題を解決する方法を見つけることだ。


 この問題は個人で解決できるのか?


 無理だ。1人が解体を始めたところで焼け石に水だ。


 ならどうする?


 集団で当たればいいんだ。

 数は力だ。


 戦闘だってそうだ。

 自分1人では何もできない。

 でもサモンモンスター達がサポートしてくれる。

 だから私は戦える。

 私を1撃で倒せるモンスターだろうと仲間がいれば倒すことが出来る。


 失敗は恐れるな。

 成功の可能性を見つけられるなら、失敗は結果ではなく過程だ。

 失敗の果てに成功がある。


 恐れるべきは失敗にめげて成功を諦めることだ。


 このゲームだって始めなければボスに出会うこともなかった。

 ボッチに泣いて、色々なゲームを転々としていた。

 私がゲームをしなくなっていれば出会うことはなかった。

 そして現実で死んだような状態で乾いた笑みを浮かべて生きるゾンビになっていただろう。


 歩かなければ人に出会わない。

 人に出会わなければ変われなかった。

 伸びてくる手も見つけられなかったかもしれない。


 今度は私が人に手を伸ばす番だ。


 この危機を乗り越えるために立ち上がる番だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ