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71、暗雲の影

 こんさんは入ってきた瞬間微笑みが固まり佇んでいた。


 私は今回は少し予想出来ていたため心構えが出来ていた。

 ちゃんと胸元隠してますし。

 隠してますし。


 ……!たぶん上半身裸なんて気付いてません!

 固まったのは想像しない人が居たからだと思います!

 えぇ、きっとそうです。


「こんにちは、こんさん。ボスはそこで寝ていますよ」


 私は左手でスマホを操作しつつ、尻尾を抑えながら、右手でソファーを指さした。


 こんさんは固まったまま動かない。 


 私はこんさんに近づき肩を叩こうとした。

 手を伸ばしたが届かず、背伸びをしてみたが届かなかった。

 軽く跳ねたら予想以上に高く跳んでしまったので、上昇中ではなく落下中に肩を叩いた。


 バンッ!


 全体重と加速度がかかった肩叩き!

 けっこうな音が響き、こんさんはバランスを崩しよろけた。

 プレイヤー間のためダメージ計算は発生しなかった。


「っ何するんですか!」

「修理」

「壊れているのはむしろあなたでしょう!」

「?」

「上着がないじゃないですか!」

「」

「話を流さないでください!なんで脱げているんですか!さっさと着なさい!」

「トップスが取れなくなっちゃった」


 私はボスの腕の中にあるトップスを指さした。


「トップス?……あぁ、上着ね。って起こせばいいでしょう!」

「……。そうだね。ねぇ、どうしたら起きるんだろ?」

「普通に揺さぶれば起きるんじゃないの?」

「ボスの腕の中から抜け出すとき散々揺れたと思うよ?」

「はぁ……。じゃあ、僕が起こしてみるよ」


 こんさんはボスの肩を掴んで揺らす。

 何か囁きながら揺らしていると、ボスはぎゃう!と唸って起きた。

 何囁いたんだろう……。


 ボスが寝ぼけている隙にこんさんは素早くトップスを取り返してくれた。

 私はトップスを受け取ると「ありがとうございます」と書き込んだ。

 そしてすぐに着た。


「っ女の子が人前で着替えるんじゃない!」

「この中身はおじさんです」


 こんさんが変なことを言ったので私はそう返しました。


「いや、アバターが女の子ならそのくらい慎みを持とうよ!」

「幼女の無い胸に興奮するんですか?」

「中身は成人だろ!」 

「性別は男です!」

「アバターは女の子だろ!」

「中身はおっさんです!

 おっさんが恥ずかしがったら気持ち悪いです!」

「テン子ちゃんのどこがおっさんだよ!」

「中身ですよ!」

「今までの行動のどこにおっさんらしさがあるんだよ!」

「あれ、私、会うの久しぶりですよね?」

「動画が上がってるんだよ!」


 撮影者は誰だ……って1人しかいないね。


「ボス!」

「がぅ?」


 ボスは欠伸をしながらそんな声を出した。


 人差し指の横で顔を掻きつつ、ソファーから上目使いでボスに見つめられた。

 オオカミの耳と尻尾のおかげで犬らしさが出ている。

 私が見上げられることは滅多にない。

 今までこのアバターで見上げられたのはサモンモンスターだけだ。


 すごく撫ぜたい。

 触ったらハラスメント警告が鳴るだろうなぁ。


「テン子ちゃん、何によによしてるの?」

「は!いえ、なんでもありません!」


 不審に思われてしまった。いけない、いけない。

 何か話題を……。


「そういえばメイドの」

「メイド!あ、メイドのバイト受けてくれるんだよね!ありがと!」

「あ、はい」

「歓談中失礼します、フォロさん、解体ギルドの方がお目見えです。

 テン子さんはこちらで預かりますので、至急第一応接間に向かってくれませんか?

 重要な案件だそうです」

「むぅ……。今日は用件が入らないように調整してたのに何なんだろ……」


 ボスは私を見ながら唸っていた。


「私にはお構いなく行ってきてください」

「テン子ちゃんの微笑みがすごくキラキラしているのは気のせいかな!」

「そんなことありませんよ!」

「はいはい、そこまでにして、フォロさんは来客の方に向かってください」

「むぅ~!じゃあ、テン子ちゃんの入れる日聞いといてね!任せたよ!」

「わかりましたよ。ちゃんと聞いておきますから安心してください」

「テン子ちゃん、何かあったら(ダイレクト)(メール)を送ってね!」

「大丈夫ですよ」

「テン子ちゃん、大好きだよ!」

「はいはい」

「来客の方が待ってるんだから早く向かってください」

「むぅ!もう行っちゃうんだからね!」

「行ってらっしゃい~」

「軽い!」


 名残惜しそうに、引き留めて欲しそうに、ちらちらこちらを見ながら、ボスは扉の外に消えてった。


「行ったね」


 ボスが出て、少し経ってから、こんさんはボスが出て行った扉を見ながら言った。


「行きましたね」


 私も扉を見ながらそう返した。

 なんだかこういう会話を小説だとかで見ることが多い気がする。

 主人公が立ち去るシーンで、あいつは風のような奴だ、なんて言葉が続きやすい気がする。

 ボスが風のような主人公。すごくしっくりくるね。


「テン子さん、フォロさんとどういう関係なんだい?」

「ボスはギルドに勧誘してくれた人」

「それだけなのかい?」

「基本はそれだけだよ?リアルで関係があるというわけでもないし」

「ふーん」

「広告塔になって、ってギルドに勧誘されたけど、今の私に広告塔の価値はないだろうしね」

「結構気にしているのかい?」

「ボスにはもらってばっかりだからね」

「そっか。……ダメな子程かわいいっていう奴だね」

「……ずばっと言いますね」


 私は頭上にあるこんさんの顔をにらみつけてみたけれど、こんさんは涼しい顔をしている。

 なおもにらみつけてみたら、じろっと目が動いて私を見てきて、ちょっと怖くなって、顔を背けてしまった。


 こんさんはインベントリからキーボートを取り出した。

 電源ボタンを押すとキーボートは宙に浮き、ディスプレイ?のボートがこんさんの前に現れた。

 キーボートの端を掴んで、こんさんはソファーに移動した。

 ディスプレイ?のボートは、キーボートとの相対位置を変えずに、移動していた。


「ま、頼まれたことだ。とりあえずシフト決めようか」


 それよりも前に気になることがある。


「すみません、そのキーボートは何ですか?」

「ギルドの情報管理用PCだね」

「そういうのがあるんですね」

「ギルドのメンバーが総員で4桁突入したら幹部には配布されてね」

「幹部?」


 そういう仕組みがあっただろうか?

 私は知らないのだけど……。


「人数が増えたら、問題起こしたら誰が責任取って行動するか、が重要になってきてね。

 ある程度の資産を持ち、ギルドに在籍している期間が長く、交友関係が広く、人となりが知られていて、影響力の高い人が幹部に選抜されたんだ。

 自信がなければ辞退も出来るんだけど、僕はなったんだよ」

「私は、在籍期間が長いですけど、資産も交友関係も全然ですね」


 資産なんて4桁です。崖っぷちです。


「こういう話知らなかったのかい?」

「はい」

「はぁ……、フォロさんがてっきり教えてあげているものだと思っていたよ。

 今度から僕からギルドに関するニュースを教えておこうか」

「お願いします。こんさん」

「お願いされちゃったか。じゃあ、頑張ろうかな」

「ギルド幹部のこんさんなら、ギルドのニュースに関しても、詳しい情報を知っていますよね」

「ほほぅ、挑発かい?」

「いえいえ、まさか!」


 こんさんの目に少し楽しそうな色がのっていた。


「それでシフトに希望はあるかい?」

「ちょっと待ってください」


 さっき寝落ちしてしまったのは私がつかれていたからだろう。

 毎日3時就寝6時起床はダメみたい。

 ちゃんと睡眠時間を考えておかないと。


「3日間のうち2日0時から2時くらいですがいいですか?」

「別に大丈夫ですね。忙しい時間帯なので助かります」

「ではその予定で詰めて考えていきますね」


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