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67、展望フロア

 お面スーツの人について歩くこと数分。

 道を何度も曲がりくねり、私は現在地がすっかり分からなくなってしまった。

 お面スーツの人の顔を伺うと涼し気なのだけれど、繋いでいる手の平はすごく汗ばんでいた。

 途中、スマホの時計を確認すると10時になっていた。


 この人、道に迷ったのかな……。


 初めの頃は窓があったのだけど、今では窓を見かけない。

 廊下は絵が飾ってあるわけでも、装飾が飾ってあるわけでもない。

 とても現在地の把握に役立つ物がない。

 扉や横道はたくさんあり、外から見たこの建物の大きさから推測した敷地面積より広い面積を動いている気がする。

 もしかしてここは緩やかな傾斜があって歩くにつれて地下に降りていっているのだろうか?

 バリアフリー施設ですか?


 随分と歩いてきたものの未だ目的地には着かない。


 そういえば目的地はどこなのだろう?


 私はお面スーツの人の袖をひきました。


「すみません、目的地はどこですか?」


 お面スーツの人は言いました。


「まだまだヒミツです」


 心持ちお姉さんの手から出てくる汗の量が増えてます。

 お姉さんの汁なんて書くとエロく感じます。


 それにしても何でこの施設、こんなに広いんだろう?


「あ、白面ちゃんじゃん」


 道を曲がった所で男性に遭遇。

 男性はヤギなのか、尖った2本の曲がった角が頭部に生えていた。

 背は高く、手汗お面スーツの人が160㎝無いくらいに対し、180㎝くらいある。

 私から見れば誰しも圧倒的に背が高いですが。

 このヤギさんもスーツを着ている。黒いスーツ。


 ここの施設の職員は皆スーツ着ているのだろうか。


「アスモデウスさん、こんにちは」

「こちらのかわいらしい方は?」

「テン子ちゃんです」

「君が案内しているのかい?」

「は、はい」


 手汗が激しい。床に滴って落ちてきた。

 手汗さんはヤギさんに出会ってから手汗の量が今までよりも増えた。

 手汗で手がぬるぬるしてきた。

 手離してほしいけど率直に言うのは気がひける。

 手の力弱めたら強く握られてしまって何と言えばいいのやら。

 手汗さんに何か文句つけたら倒れられそうで恐い。


「ねぇ、テン子さん、どのくらい歩いてるかな?」


 ヤギさんに突然話をふられた。

 私は最後に見た時刻を思い出し答えた。


「10時より少し前からですね」

「30分程度迷ってましたね……。

 白面ちゃん。君は方向音痴なんだから人の案内なんて出来るわけがないじゃないか。

 テン子さんに謝りなさい」

「はい……。大変申し訳ありません」

「私からも謝ろう。同じ職員が迷惑かけたんだ。

 大変申し訳ありません」

「いえいえ、大丈夫ですから」


 何が大丈夫なのだろう……。

 咄嵯に言ってしまった。

 ここで話を拗らせたところでしょうがない。


 とりあえず、今日ここで私は何をするのか、私は知らない。

 手汗さんがどこに向かっていたのかも知らない。


「白面ちゃん、どこに行こうとしていたんだい?」

「……です」

「あそこか。よし、私が案内しよう」

「すみません」


「これから私が案内するけれどいいかな?」

「はい、よろしくお願いします」

「すまないね。白面ちゃんも悪気があってしたわけじゃないんだよ」


 私は何を言えばいいか判断出来ず目礼ですませた。


 手汗ちゃんの手が震えているのだけどどうしたらいいのだろうか……。

 この手を離したら手汗ちゃん泣くだろうなぁ……。

 私は少し手に力をこめ握ってあげた。


 手汗ちゃんがちらりと私を見てきたので、私は見つめ返してみた。

 手汗ちゃんはぴゅんという擬音がつきそうな勢いで顔を前に向けた。

 下から伺える手汗ちゃんの顔は少し赤く見える。


 あ、私、まだおじさんアピールしてないです。

 小さい子と勘違いされていたら困ります。

 おじさんアピールタイミングが見つけられないので出来ないですが。

 いつしましょうか。


「ようやく来たー!」


 物思いに耽っていたらいつの間にか目的地にたどり着いたのか、ボスの声が聞こえた。


 意識を周囲に向けると視界に光が満ちていることに気付いた。

 展望台の如く中央に大きな柱、そして壁は一面ガラス?張り。

 建物の地下ではなく上に上がっていたようだ。


 ボスは双眼鏡片手にこのフロアを歩き回っていた。


「すみません、同僚が失礼しました。フォロさん」

「本当にすみませんでした!」

「大丈夫だよ、アスモデウスくんも白面ちゃんも。

 テン子ちゃんはどうだった?」

「先ほどまでの混乱を解消できる時間でした」

「あぁ、あれはごめんね。

 きつく言っておいたからもうないと思うよ」


 すまなそうな顔をしたボスに罪悪感を抱いてしまう。


「すみません、その話詳しく聞かせてもらえますか?フォロさん」

「うーん、いいけど後でね」

「分かりました」


 それにしてもここは変人の住処か。


 ここに来てから出会った人が濃すぎる。

 捕食系レズヒツジ。

 シスコン男女型オオカミ。

 手汗かきの迷子キツネ。

 お堅そうなインテリ風ヤギ。


 生産職には間違っても見えない面々だ。

 そもそもこの中でヤギさん以外仕事が仕事になっているのだろうか?


「ここを最後に持ってきた理由はね、この風景を見せたかったからなんだ」


 そういいながらボスが私を背後から軽く抱えた。

 私の背中にはボスの胸が当たり、その温もりで体が冷えていたことを私は知った。

 ボスの温もりに体が解けて柔らかくなっていく。


 私は自分の体のその感覚が信じられず、気恥ずかしく感じた。

 その感覚を吹っ切るために私はスマホにささっと言葉を入力。


「おー!」

「この双眼鏡を貸してあげるから見回ってきなよ!」

「はい!」


 顔が赤くなっていないでしょうか?

 どうしてこんな反応をしてしまったんだろうか。

 他の人だったらたぶん何故が強くて怯えが出てきたはずだ。


 私はその考えを振り切るために意識を風景に向けた。


 草の緑に赤い道。周囲を囲むようにある工房。離れたところにある泡のようなカラオケ屋。

 林や森、畑、田んぼ、川……色々なものがある。

 あ、小屋発見。たぶんあれが私の小屋だ。小さいなぁ。


 目に映える草の緑。


 こんな光景は現実ではたぶん経験できないだろう。

 海外に行けばあるかな。

 さすがにメルヘン過ぎるしないんじゃないかな。


 私は夢中で見続けてしまった。

 先ほどまで私がいた場所なのだ。

 あそこはこんな場所だった、こちらはこんな場所だった、この場所は外から十分に離れた場所から見ればこういう風に見えるのか。など1つ1つ考えてしまった。


「ねぇ、一旦休憩しよう?私、お腹が減っちゃった」


 ボスがそうささやく声に意識を取り戻した。


 気が付けば1時だった。2時間近くも風景を見続けていたのだろう。

 ボスがいるのにこんなに見続けてしまうとはいけない。

 感傷に浸るのはいいけれど同伴者のことも考えないと嫌われてしまうだろう。


「すみません、とてもきれいでしたので自分を見失っていました」

「いや、いいよ。そういわれるととてもうれしいね」


 ボスはそう言い、照れくさそうに頬を掻いていた。


 思えばここはボスが作ったギルドだ。

 つまりこの風景を作ったのはボスといっても過言ではない。

 ボスにとって風景が褒められることはとてもうれしいことだったのだろう。


「ではお腹が減ったということもあるし一旦お昼休憩をとりましょうか」

「じゃあ、2時集合ね」

「2時ですね。わかりました」


 私はボスに軽く手を振りログアウトした。









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