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66、プレデター

 意識を取り戻すとどこかの部屋のソファーに私は横になっていた。

 部屋は暗く、私には毛布がかけられていた。


 キョロキョロという擬音がつきそうな感じで顔を動かす。

 上体を起こしソファーの背もたれから頭を出して周囲を伺うことしばらく。

 頭を整理するついでに念入りに調べたが、この部屋にはソファーと机以外何もないことを知るだけで何も成果はなかった。


 周囲に動体はなし。

 以上警戒を続ける。


 なかなかの肌触りのソファー。

 感触は少し固めでリラックスより座り心地を重視した仕様。材質不明。

 目の前の机は膝丈のガラス?張り。材質不明。

 デザインからして応接間だろうか?


 私はこそこそ立ち上がり、唯一の入り口であろう扉を少し開けた。


「ここの所、可愛い女の子がみつからないんです!」

「耳の裏とか尻尾とか撫で過ぎなのよ」

「ケモノ娘のそこを触らないでどこを触るんですか!」

「まず相手の人権を尊重しましょう」

「あたしがガマンしているのに、胸を触るフォロさんが何を言うんですか!」

「姉さんはとりあえず性欲に塗れた目でメンバーを見るのを止めろ」

「オマエノマワリハケモノ娘ガイッパイジャナイカ。

 コノケモノマスターメ……」

「姉さんの被害から逃がれるために来てるんだ。

 俺はもっとこう……おっぱいの大きな女の人が好きなんだ!

 あと言っとくがあの中の半分以上は男だぞ!バカ姉!」

「アバターガオンナノコナラ単ナル、オレっ娘。ボクっ娘。

 ケモノ娘サイコー!」

「それに姉さんは今回案内の役じゃない。

 俺が担当するはずだぞ。変態はさっさと巣に帰れ」


 ……。何ですか、あの金髪ヒツジと金色オオカミ。


 金色オオカミはビジュアル系の顔をした高身長のイケメン風。

 ケモ率70%。スピード高そう。金髪碧眼。


 リアルが姉弟?

 色の好みが似ているのだろうか?


「あ、気づきましたか?」


 扉から外を伺っていたら見つかってしまった模様。

 先程の話の内容は警戒が必要です。

 このまま対象を視界におさめつつ、防御壁()の陰に身を隠します。


「姉さんは帰れ!」


 オオカミさんが騒ぎ始めました。

 やっぱり危険な予感が沸々とします。


「あら、どうかしましたか?金狼さん」

「すみません、そこのヒツジはムシしてください。

 すぐに片付けますので」

「何を言っていますか?金狼さん。

 片付けられるのはあなたでしょう?」

「何とち狂ったこと言ってんだバカ姉?」

「金狼さん、金狼さん。今日のブラジャーの柄は金色のヒツジでしたっけ」

「何、いきなり?それがどうしたよ?」


 ハスキーな声だけどブラ……?


 アバターが男だけど中身女の人……?

 ヒツジの人がちらちらと見てくるんですが、どう反応すればいいですか?

 この2人はどちらもレズということで結論付けていいんでしょうか?


 あれ、さっき妹(仮)が胸の大きな女の人が好きと言っていましたよね。

 姉(仮)は胸が大きいです。

 で、姉(仮)はボスに私が近寄った時危ない目をしました。


 妹(仮)の好きな人が姉で、姉(仮)の好きな人がボスで、ボスは2人をメンバーとしてしか意識していない。

 姉(仮)はボスにかまってもらいたいのもあり、メンバーの女の子に手をだす。

 妹(仮)は姉(仮)がメンバーの女の子に手を出すのを嫌がり、保護する。

 ついでに姉(仮)の計画を邪魔することで姉(仮)にかまってもらおうとする。


 こんな関係が脳裏に浮かぶんですがどうすればいいですか?

 とりあえず妹(仮)に保護してもらえば特に問題はない?


 そう単純に事が終わればいいんですけど、まるで終わる気がしません。


 面倒な感じがすごくします。


 ここは物品の取引を行う場所ですよね。

 すごく関係が出来やすいです……。

 今後この2人に影響される可能性は高いでしょう。

 今のうちから仲が悪くならないように注意しないといけません。


 私情に仕事の質が左右されそうな気がビシビシします。恐いですね。


 ……まぁ、ゲームですから。

 具体的な罰則も特にないし、最低限のことしてくれればいいんです。

 最低限もしなくなれば2ch行きするでしょう。

 干上がりたくなければ最低限はするでしょう。


 でも一手間仕事に加えたいと思う程仲良くなればそれはそれで助かります。

 そこまでは望めないでしょうし、無難な対応を目指しますか。


「ねぇ、テン子ちゃんはどう思う!」


 意識を目の前に戻すといつの間にか扉の側で私を睨むように見つめてくるヒツジさん。

 その隣には呆れ顔のオオカミさん。


 何を聞かれていたのかがわからず返答に困り、とりあえず両手を肩より高く上げて後ろへ下がった。

 次の瞬間、扉が完全に開き、応接間に踏み込まれた。


「逃がさないからね?」


 私は表情筋が強ばっていくのを感じた。

 なんだか危ない気がひしひしとします。


 ヒツジさんがゆっくりと私に向かって足を運んでいく。

 私はヒツジさんが近づく分だけ後退ってしまう。

 ヒツジさんの進みはとても遅く感じる。

 私の体の動きもとても遅く感じる。

 肌の上を汗が流れる。

 その汗の滴る速度は普段感じる物よりも遅い。

 思考速度が無意味に加速されているようだ。

 思考速度が加速したところで対応策が何か思いつくわけではない。

 ただ未知への恐怖に怯えて、思考がまとまらないだけだ。

 頭の中に現状を形容する駄文が重なっていく。

 こんなことをいくら形容してもしょうがないというのに。

 形容するならするがいい。

 ただ解決策を講じろ!


 何かを話す?

 何を話すの?

 何を話せばいいの?

 逃げる?

 どこに?

 出口はヒツジさんの後ろ。

 隠れる?

 どこに?

 見られている状態では隠れようがないじゃないか。


 部屋が暗いのも相まって、光源がヒツジさんの後ろにあるのも相まって、ヒツジさんの顔が暗くて見えない。

 ヒツジさんの顔が黒く染まり、私の恐怖を増長させる。

 何かされて怖いことがあるのだろうか。

 思いつかない。でも怖い。

 何されるのかわからないから怖い。

 人が何を思うかわからないから怖い。

 怖い理由が状況が原因なのだろうか?

 それだけでここまで怖く感じるのだろうか。

 もう何が何だかわからなくて怖い。


 何を考えても恐怖にしかつながらない。

 解決策はまるで思い浮かばない。


 やがて私の背中は壁にくっついてしまった。


 背中が冷たい。体温を吸い取られているようだ。

 退がることも出来なくなって足が震えてきてしまう。

 口の端が歪んで笑顔を維持できなくなってしまった。

 なんだか目がうるんできた。

 この体、本当に涙腺が弱いよ……。


 ヒツジさんが私の前に来て、私が寄りかかっていた壁に手をついた。

 ヒツジさんの顔が私の上に来ている。

 私はおずおずと顔を上げると、ヒツジさんの口の端が持ち上がっているのに気がついた。

 そのまま顔を上げるとヒツジさんの目が見えた。

 目は嗜虐心に彩られているのか、光の反射の関係か、非常に暗く、愉悦を帯びているように見えた。

 私は何をされるか分からない恐怖でつい顔を下に向けてしまった。

 ヒツジさんは片手で私の顎をつかみ、強引に顔を上に向けた。

 ヒツジさんの目は捕食者の目だった。


 突然近くでドンッって音が鳴り響いた。

 ヒツジさんが急に消えた。

 辺りを見回すとヒツジさんが横に弾き飛ばされて、オオカミさんの腕の中に収まっていた。

 そして目の前には腕を横に振るった状態のボスがいた。


「姉さん!」

 オオカミさんが何か叫んでいる。


「テン子ちゃんに壁ドンしないでくれるかな?」

 ボスはいつもと違い凄みのある笑顔をたたえていた。

 いつの間にか腰が抜けて地面にへたり込んでいた私の前でボスの尻尾は高々と上がっていた。

 気づけば時間は普通に流れ始めていた。

 いや、むしろ速くなりだした気がする。


「何ですかフォロさん、今いいところ何です!」

 ヒツジさんの不機嫌そうな声が聞こえた。

 結構な勢いで弾き飛ばされたが、オオカミさんがクッションになり無傷のようだ。

 オオカミさんが地味にヒツジさんの乳を揉んでいるけれど気づいているのだろうか?

 ボスはヒツジさんの方に向かって歩き出した。

 私はその背中を何も出来ず見つめてしまった。

 その背中は私を守ってくれる強い力があるように感じられた。


 ボスの後ろ姿を見ていたら袖を引かれた。

 私はそこで初めてその女性がそこにいることに気がついた。

 女性は白いスーツを纏い、狐の白いお面を顔の横に置いていた。

 私はボスがこの人を呼びに席を離れていたのだと思った。

 私はその女性に手をつかまれた。

 女性は口元に指をやって、しーっという身振りをすると手を引っ張りだした。

 私は女性の案内に従い、ゆっくりとその場を後にした。


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