表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/110

60、ボスの足はおかしい。

 私達の目の前にはボスクモの卵のうがある。

 近くで見ると白い卵のうの中に赤いキイチゴ状の卵がある。

 1粒1粒がテン子の身長くらいのサイズだ。

 なんだか卵がイクラに似てる。赤くて丸いからかな。

 それが推定200個程集まってキイチゴみたいな房になったのだろう。


 この赤って子グモの腹部だよね……。


「よし、回収しよう!」

「はーい」


 ボスが卵のうを構成している白い糸を潜り抜け卵に触れた。


「これ、インベントリにしまえないんだがどうしようか?」

「卵に止めをささないとダメなんじゃないんでしょうか?

 街中に放置して孵化させれば軽いモンスターパニックになりますし」

「そうか、確かにそうなるね。

 これを入手する機会なんて今後もうないだろうし出来るだけそのまま入手したかったなぁ」

「数があるので採取方法工夫すればいいんじゃないですか?」

「たとえば?」

「表面を切り取り体液回収。

 子グモの頭胸部を見つけて破壊。

 炭化しないように加熱。

 冷凍。

 毒物を使って生命活動困難にする。

 衝撃を加えて器官破壊?」

「……なんで数秒でそんなの思いつくの……」

「なんででしょう?」

「私が知るか!」

「とりあえず体液回収と部位破壊目指してやってみます」


 インベントリからいぬくんの形見のクローを装備し私は憎きクモを駆逐してやるのです!


「あ、とりあえず各20個ね!」


 地味に大変な量です。


~~~~~~~~~


 私はクモの糸をクローで切り裂く。


 糸が私の腕より太いんですけど。

 あまり粘つく性質はないけれどひたすら硬い。

 糸の上で跳ねたら上にあった糸に頭ぶつけて今も痛い。

 ぶつかった時ゴツなんて重い音がした。

 あれは糸の出せる音じゃない。

 鉱物系が出せる音だ。


 クローで切り裂いている腕にかかる抵抗は少ない。

 クローのATKが糸のDEFを大きく上回っているのだろう。


 1本の糸の長さは100m近い。

 綱引きが出来そうだ。


 そこら辺の綱よりもよほど丈夫そうな……。


 この糸は後で回収するとして卵です。

 問題の卵です。

 近くで見るとイクラなどと違い不透明であることに気づきました。

 表面を透明な膜で覆い中にいる子グモを保護しているのだろう。


 私は卵のすぐ近くで立ち止まって内部を覗き込んでいると急に卵の中のクモが動いたのか急に黒いものが視界に入ってきた。

 それはクモの顔だった。

 目があった。私とクモの目があった。


「こんにちわ?」

 クモに頭を傾げられました。


 ……って挨拶するんじゃない!

 あれ?クモって頭じゃなくて頭胸部だよね。

 ということはあれは。


 視界の端から黒い棒が降ってきた。

 私は右手につけたクローを突き出しながら前方に飛び込んだ。

 後ろではズドンという音がした。

 右手は卵の膜を突き破りクモの頭に突き刺さっていた。

 勢いがつきすぎていたのか私は卵に肩まで突っ込んでしまった。


 油断は禁物ですね……。

 条件次第ではもう孵化出来るのかもしれない。


 今回の突撃で対象は沈黙した。

 まだ気を抜いてはいけません。

 ここは敵地です。


 私は腕を卵から引き抜くとどろりとした漿液が右手から滴り落ちた。

 左手でスマホを操作し卵をインベントリに格納……成功。

 対象は完全に死滅してた模様。


 どっきりとかいらないです。

 私は普通を望んでいるのです!


 周囲に目を向けた。

 大量の目と目があった。


 私はその場を全速力で駆け出した。

 可能な限り足に力を入れ1歩の跳躍距離を伸ばす。

 足の回転数を上げられるほどこの体に慣れていない。

 重要なのは可能な回転数に合わせた1歩の跳躍時間。


 1秒間に足踏み出来る回数を2倍に増やすより歩幅を1mから2mに変える方が楽。

 あまり腿上げしなくても速度を上げられるし足に込める力を変えれば速度も簡単に変えられる。

 現実でも楽をしたいがゆえにしていた走り方。


 この走り方の問題は跳ねている分安定して走るためには結構な筋力が必要。

 跳躍中は方向転換が出来ないため物が飛んでくると躱しにくいこと。


 高校時代は休憩時間の度に10冊くらい本を抱えて階段走っていたので足に筋肉ついていた。

 階段だけならほとんどの運動部よりも足が速かった。

 今はそんなことしていないのですっかり筋肉は落ちてしまった。

 もう現実ではできないだろうなぁ。


 このゲームの異常な跳躍力はこの走法にベストマッチしている。

 1歩を1回転とすると今の私は回転数1秒間に2で跳躍距離は6m程度。

 秒速12m。世界記録を出せる!

 今の私が出している速度はこのくらいだろうか。

 1歩10m出来るだろうけど回転数が1回くらいに落ちるから遅くなる。


 まぁ、ほかのプレイヤーならもっと速くできるだろう。

 回転数10、跳躍距離20mとかできそう。秒速200m。

 時速720km。リニアより速い。


 通路の糸を切っておいて正解だった。

 こけずに抜けられた。


 タイヤの円周を2mと仮定して時速36kmだとすると回転数5。

 意外と少ない。


 なんか色々考えながら走っていたら壁にぶつかった。

 エリアの端まで来ていたようだ。

 気づけばボスからチャットが飛んできていた。


「ねぇ!何かあったの!」

「クモが10匹くらい出てきた!」

「もう倒したよー」

「すごい勢いだったね?」

「おーい」


「すみません。気づいたらエリアの端まで走ってしまいました」

「エリアの端?」

「えぇ、エリアの端です。

 それとクモを擦り付けてしまい申し訳ありません」

「いや、1人で行かせた私が悪かったよ。

 それにしてもボスを倒した後に戦闘が発生するなんて私も知らなかったよ」

「本当にこんなことあるんですね……」

「それにしても足速いんだね?」

「火事場の馬鹿力みたいなものですよ。

 現実なら30秒も持たない」

「ゲームデータに火事場の馬鹿力はないよ!」

「走り方が少し特殊なだけです」

「ねぇ、それ教えてくれる?」

「いいですよ?参考になるかはわかりませんけれど」


 私が卵のうのところに戻るまでにボスは子グモ退治をほとんど終えていた。

 手を出せる場所が見当たらなかったので卵のうを形成していた糸を回収しながらボスを観察してみた。


 クナイが乱れ飛ぶ。

 卵から頭を出しかけた子グモの頭部を鉄色のクナイが的確に粉砕していく。


 まだ眠っている状態の卵に向けて様々な色のクナイが飛んでいく。

 赤いクナイが刺さった卵からは蒸気が噴き出す。

 白いクナイが刺されば卵に霜がついていく。

 紫色のクナイが刺さると卵の中の動きが止まる。

 緑色のクナイが刺さると卵の中に緑色のものが蠢いていた。


 聞くと赤いのは放熱、白いのは吸熱、紫のは毒、緑は寄生植物らしい。

 ザコくらいにしか効果がない微妙な性能だという。

 忍者という職業は防御力が低い相手に対しては無双できるだけの性能があるようだ。

 防御力が高いとダメージを与えるのが難しいのだとか。

 あと大きい相手も状態異常が効果出しにくいから苦手だと。

 対人戦なら最強になりそうですね。


 子グモ退治が1段落するとエリアが崩れた。

 子グモが生き残っていたからこの簡易空間は崩壊しなかったのか。


 私とボスは森を出て草原に来た。

 走るとなると森や林より見晴らしの良い場所の方が都合がよかったので。


 ボスに少し走り方の理屈を伝えたらすぐに出来た。

 まぁ、もともと森を抜けるために使っている移動方法を平面に対して使うだけ。

 もともと素地はあったのだ。


 回転数20の跳躍距離30mくらいのスピードお化けが出来た。

 秒速600m。時速2160kmくらい。


「音速軽く超えている……」

「スピード特化だとここまで速くなるんだね……」

「なんでそんなに足がまわるの!」

「日頃走っているからね!ここはゲームだよ!現実の数倍程度の回転数あっていいでしょ!」


 それだけで1秒間に20歩進めるのは凄まじい。

 ボスの頭はどうなっているんだ。


「でもこの走り方使い場所限られるね」

「うん。もともと広い空間を走るためにしか使えないもの」

「30mの直線距離を確保するのが大変だよ」

「普段使用できるのはせいぜい跳躍距離2~6mくらいだと思う」

「回転数を10に落として平均時速144km程度かー」

「速すぎる。チーター超えてる」

「チーターってどのくらいの速さなの?」

「時速100km。次点はタテガミオオカミ時速90km。

 普通のオオカミは時速50kmくらい」

「……速いね」

「それを大幅に上回るボスに言われたくない」


 なんでここまで速いんだ……。

 まぁ、体育館サイズのクモを倒せる身体能力を考えたら当然なのだろうか? 


「今までの走り方だと回転数20の距離1.5mでなんとか時速100km超えだったね」

「それ十分に速いからね!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ