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59、泣いちゃいました。

 いぬくんが側にまで近づいているというのにいつまで経っても動かないボスクモ。

 側に岩の幻影をこれでもかと建てて反応させようとしてもまるで気付かぬように動かない。


 焦れた私はいぬくんに攻撃をするよう命令を出した。

 反応しないのなら無理やりにでも反応を引きずり出せばいいのだ。

 狙いは腹部。特に糸の噴出孔。

 ここを破壊できれば危険性は格段に下がる。

 私はボスクモの反応を引きずり出してやると思い左手を振り下ろした。


 しかしここで考えもしなかったことが起きてしまった。

 ボスクモが飛びかかるいぬくんを避けるように急に前進し振り返ったのだ。

 その動きにより空中で身動きの取れないいぬくんがボスクモの前に晒された。

 そしていぬくんに向かって大きな牙を振るいぶつけたんだ。

 いぬくんは勢いよく吹き飛ばされ木にぶつかるとポリゴンとなって消えていった。


 私は目の前で急激に減少していくいぬくんのHPバーを唖然とした顔で見ていくことしかできなかった。

 自身の指示ミスでいぬくんが死んでしまった。


 地上にいるせいか?巨大だからか?

 予想よりも素早い。素早すぎる。

 ジョロウグモのような巣を構えるクモは普通素早さが低いんだ。

 動く必要がないから。

 でも地面を逃走する時とか急ぐこともできる。

 甲虫などの他の虫よりも少し速い程度のスピードだが移動できるんだ。

 ゴキブリを捕食するハエトリグモやアシダカグモ、タランチュラなどのような身体能力の高いクモとは比較すればかなり遅いが。


 巣を構えていない段階でこのボスグモが地上戦に長けている可能性を考えていなかった私が悪いのだ。

 カウンターは攻撃の初動さえつかめればやりやすい。

 巣を構える類のクモは視覚や聴覚よりも巣に触れた物を知るための触覚や巣を作るだけの器用さが優れているだろう。

 地面を走る振動などの情報をボスクモに与えてしまったから踏込の違う跳躍に対し反応できるだけの素地を作ってしまったのだろう。

 振動からどこから来るのかつかめているうえに攻撃の初動を読まれたからカウンターをされてしまった。

 きっとそういうことなんだろう。


 私の作戦の立案ミスが原因だ。


 もしカウンターされることを予測していたらフェイントなどを織り交ぜさせたりした。

 それをしなかった時点で私のミスなんだ。


 このボスグモはソロでは戦いにくい相手だという言葉を忘れていたのだろうか。

 近接では巨体から繰り出されるカウンターをくらう。

 遠距離では飛ばされてくる粘着性の糸で逃げ場をなくされ重い攻撃をくらう。


 いぬくんには謝ろう。

 もうミスはしないように。

 あらゆる可能性を思考にいれよう。


 もしこのボスグモを倒すならどうするか。

 遠距離なら身動きが取れなくなる前に火力で削りきればいい。

 素材は期待できないだろうが。


 近接なら2人いればいけるだろうか。

 Aが挑発をかけて攻撃を避ける。

 BがAが攻撃されている瞬間にボスグモに乗り移り背筋を切り裂けばいい。

 構造的にボスグモに乗った時点で攻撃を受けにくくなるから勝ちが決まったようなもんだ。

 素材としても背筋が傷ついているだけなのできれいなもの。


 ……戦闘方法、当初の予定と変わらない。

 やっぱり私の指示が悪かったんだ。


 気付くと傍にボスが居た。

 周りを見渡すとそこにはボスグモの死体があった。


「ごめんね!私がもっと注意しておけばいぬくんが死んでしまうことはなかった!」

「いえ、私の指示が間違いだったんです。

 ボスのせいじゃありません。

 あのボスグモがいぬくんに気付いてないフリをしていると見抜けなかった私が悪いんです。

 私よりもボスグモの方が1枚上手だったんです」

「実は私も気付いてないフリをしていること気付かなかったよ……」

「気付いているかもしれないという予測をしていたのにカウンターをくらうことを予測していない私がだめでした」

「あれはしょうがない。

 でも気付いているかもしれないって予測していたんだ!

 すごいじゃん!」

「予測出来ていた分いぬくんに申し訳がないんです……」

「そこまで気にしちゃダメ!

 もう会えないわけじゃないんだよ!

 次を作らないようにすればいいの!」

「ですね」

「ほら元気出そう!戦闘系のゲームなんだから少し仲間が死んだくらいで凹まない!

 それに戦闘に勝てたんだよ!」

「そうですね」


 物思いに耽ってしまった間にボスが倒しきってしまった。

 ボスがボスグモに乗っかれば何もすることはなかったっていうのはおいておく。


「あの岩の幻影があったからボスグモに気付かれずに側までいつもよりも簡単に近づけた。

 本当に助かったよ!」


 私はその言葉を聞いてうつむいていた顔をボスに向けた。


「もう泣かないの」


 思わず顔に手を当てると濡れていた。

 どんだけ私は涙もろいんだ。


「なんで泣いているんだろ……」

「そういえばVR技術って頭の電気信号を読むから感情を隠しにくいんだって」

「そうなんだ」

「テン子ちゃん。君はまじめで優しい子だね」

「はい?」

「適当で流すことを覚えた方がいいよ。

 適度に気を抜かないと寄り付きにくいよ」


 気を抜くってどうやるんだろう……。


「そういえばテン子ちゃんって実用性抜きの買い物とかしたことある?」

「そこまでお金がないです」

「そっか。じゃあウィンドウショッピングだけど一緒に行こう!」

「今からじゃ時間心もとないでしょうか?」

「じゃあ次の長いINいつ?合わせるからさ!」

「えっと水曜でしょうか?」

「分かった!水曜ね!その日一緒に行こう!」

「分かりました。水曜ですね」

「よし、デートの約束取り付けた!」

「……」

「もう撤回は無しだよ!」


 勢いに負けてしまった……。


「うーん。それにしてもこのボスクモ、【ジャック・ザ・リッパー】の人解体できるのかな……」

「【ジャック・ザ・リッパー】?」

「解体ギルド【ジャック・ザ・リッパー】だよー。

 ほら、君を勧誘しようとしたら一緒に勧誘しに来たギルドだよ」


 そんなのいましたね……。


「あの時のつながりでごひいきにさせてもらってるんだー。

 今じゃ解体ギルド業界じゃ最大手なんだよ!」

「業界?」

「解体ギルドって割と引っ張りだこでね。

 似たようなギルドはたくさんあるんだよ!」

「……どんだけ解体好きなんですか……」

「抽選じゃ確率が不安定で大変なんだもの」

「おぅ……」

「人手不足で順番待ちになりやすいのが難点かなー」

「解体は時間がかかりますもんね……」

「ギルドで懇意にしているから優先権を持ってるんだよ!」


 ボスにすごく自慢げに胸を反らされた。


「このサイズの解体は頼むとけっこうお金がかかるのでは?」

「気にしない!素人が弄って素材をダメにするのを防げるんだよ!必要経費!」

「ちなみにいくらかかるか聞いても?」

「数万くらいかな?」


 私が簡単に稼げる金額じゃなかった。


「大丈夫、この費用は私が払うから!」




 















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