57、クールダウン
ボスに言われましたししょうがありません。
今のところはログアウトしましょう。
「今1時だし1時間後の2時集合ね!」
「わかりました」
「じゃあ、おっさきー」
「では私も」
この高ぶった気を静めなきゃ。
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森では移動に時間がかかったものの私は1度も戦闘はしていない。
少し血が味わいたい。
鉄っぽい味がいいね。
今日のお昼は肉かな。
シチューに入ってるようなお肉じゃなくてガツンとした肉。
お肉じゃなくて肉なのがミソ。
ハンバーグ。ステーキ。焼き鳥。生姜焼き。フライドチキン。カツ。焼肉。
どこに行こうか。
ネット喫茶を出て周囲を見渡すと1軒の店が目に入った。
そういえば牛丼この頃食べてない。
あそこの牛丼屋に行こう。
牛丼屋なのに牛丼が1品しかない。
カレーとか定食とか韓国料理とか多いなぁ。
韓国料理、辛いので食べられません。
舌が痛くて水のがぶ飲みをしないといけなくなります。
ここで牛丼を選択しても別にいいのだけどなんだか1品だけだから選択の余地がなくて嫌だ。
種類の多い定食メニューをのぞいてみた。
和食かハンバーグかカレー。
ここは何屋だっただろうか?
目についたハンバーグ定食の食券を買いカウンターに置く。
外国人の店員がカウンターにいた。
ベトナム系だろうか?テキパキ動いている。
厨房を見ると日本人の店員が2人のんびり動いている。
外国の人って日本人に比べ真面目だよね。
生活かかっているからかな。
外国人の店員はカウンターを拭いたり、小物のチェックをしたりと忙しそうに働いている。
1つ1つの動きが機敏で頑張っている姿が好ましい。
ハンバーグ定食が手元に来るまでの時間は5分もなかったと思う。
ファストフードってすごいね。
ハンバーグにスプーンを入れるとしっかりした手応え。
かかっているソースは茶色。
デミグラスではない。たしかブラウンソース。
しっかりした味でとても濃厚。
ハンバーグとソースを味わった後定食についてきたご飯を食べる。
ご飯がしっかりしている。
噛めば甘味が口の中に広がる。
さっき食べたソースの濃い味と絡み箸が進む。
スプーンでハンバーグを切り取りソースと合わせてご飯にのせた。
箸でハンバーグごとご飯をつかみ口の中に運ぶ。
おいしい。
定食についてきたサラダを食べる。
胡麻ドレッシングをかけて食べる。
コーンのぷつぷつ感。キャベツのサクサク感。ドレッシングの甘味。
口内に広がる味をつぶさに楽しむ。
ご飯の甘味をサラダで打消し口をすっきりさせたところで定食についてきたスープを……
なぜ味噌汁なんだ……。
微妙な気分になりながら味噌汁を飲んだ。
オニオンスープとかコンソメスープとかポタージュとか期待してたよ。
ここ、ハンバーグ屋じゃなくて牛丼屋だもんね。
牛丼は和食のくくりだから出てくるのは味噌汁だよね。
あぁコンポタ飲みたい。
私は味噌汁だけ先にぱぱっと食べるとご飯で口直しした。
ハンバーグ、ご飯、サラダの順でゆっくり食べた。
至福……。
私は「ごちそうさまでした」と一声かけ席を立った。
カウンターで外国人の店員が「アリガトウございましたー!」と威勢のいい言葉をだしていた。
訛っているのが外国人らしくてかわいかった。
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食事で頭はクールダウンされた。
空腹など身体の危機により性欲を増幅されていた部分もあったのだろう。
他の人と一緒に半日近く行動するのが……生まれて初めてかも。
経験したことない事態に頭が混乱してただけだ。きっと。
現実と妄想の区別がつかなくなった、おかしな頭になっていたんでしょう。
ボスに醜態を晒していたかもしれない。
変な挙動していたのかも。
もしかしたらあのアラーム音鳴る設定をとっさにつけたのかもしれない。
だとしたら恥ずかしいかぎりだ。
あれは変態の思考だった。
身近な人に持つべき感情ではなかった。
あーいう思考は画面の向こうにだけ考えるべき思考だった。
あの思考を晒せば現実痴漢予備軍辺りにされるのではないだろうか?
痴漢にだけはなりたくない。
きもいし。
私は目の筋肉を伸縮させるため手元を見たり、飛ぶ鳥を見たりしながら歩いていた。
この運動をするようになってから視力が少し回復した。
これは効果がある。
ご飯をゆっくり食べていたつもりだがまだ時間が余っていた。
早めに戻ってもあの森で待つだけになる。
いぬくんは狩りができても私やほかのサモンモンスターには出来ないだろう場所だ。
待ち時間が長すぎては困る。
それにログアウトした場所はモンスターが現れないとも限らない。
なし崩しに戦闘に縺れ込んでしまう可能性だってある。
それは歓迎できない。
なので私は現実で5分前まで休憩することにする。
ネット喫茶周辺をぶらついていると鳥はハトかカラスくらいしか見かけない。
スズメはこの頃見ることがない。
ムクドリか何か、夕方くらい駅前の木に、数百匹程だろうか、集まる鳥も路上で見つけることは少ない。
普段どの辺りにいるのだろうか?
スズメの巣は道路標識のパイプの中とかスズメ以外入ることができない場所に多くあった気がする。
カラスの巣が高い木の頂上付近だとか見やすい位置にある。
ムクドリは駅前の木など多少光源が近くにある場所で集団でいる。
ハトは駅のホームで巣を作る。
ツバメは軒下の電灯の上に巣があることが多い。
ツバメの巣は古い巣を人が手をかけて補強していたりするものが多く、新しく作られた巣はここのところ見かけない。
田んぼなど巣の素材を入手出来る場所が少なくなってしまったからだろう。
カモは巣の入り口が川などに面しているので見つけにくい。
地面にある巣なのでネコなどに襲われないための工夫だ。
人工の浮島に巣をかまえているものもいる。
小学生時代はスズメなど鳥の巣を簡単に見つけられた。
今は鳥の数も減ったせいだろうかあまり見つけることができない。
町の環境が整備されゴミが減ったため餌を見つけられなくなったのだろう。
ゴミを漁る鳥は様々な病原菌を保有してしまう。
鳥の糞など病原菌を保有するものをまき散らし、ペットから人へ感染したり、小さな子供が触ってしまったり、地べたに座った人が感染したりと何らかの形で病原菌が人に感染してしまう。
基本的に鳥と人では免疫機構が違うので鳥が感染する病気でも人が感染するものは少ない。
ハトフンにはクリプトコッカス症を引き起こす原因菌が存在する。
子供や老人など免疫力が低い人であれば感染してしまう可能性がある病気だ。
この病気は感染率は低いものの発症したときの危険性は高い。
町の中でハトなどを見かけることが減ったのは衛生的面から見ればいいことなのだろう。
でもこの環境で正しいのだろうか?
病原菌に関わることが少なくなれば確かに病気にはなりにくい。
けれどこれでは無菌室の中のネズミと同じに感じる。
1つの新薬を作るまでにかかる期間は最低でも10年、最大で18年だ。
現行の薬が対処できない病気が蔓延した時無菌室育ちの人は無事に済むのだろうか?
免疫機能を十分に使う機会がない人は病気に簡単にかかるのではないか?
それに現行の薬では対処しにくい病原菌はもうあったりするのだ。
多耐性細菌。緑膿菌などで有名だ。
1部の細菌にはプラスミドと呼ばれるDNAとは別の形質遺伝物質がある。
このプラスミドは異種同種問わず細菌間で遺伝する。
プラスミドに保管されている遺伝形質には様々あるが重要なものがある。
特定の薬品に対する耐性。
同種、異種問わずに遺伝する耐性。
この多耐性菌は病院で出来てしまうことが多い。
複数の薬品を使い免疫の低い患者に対応していると発生してしまうことがあるのだ。
免疫が低い人が増えればこの多耐性菌を増やしてしまう人が増える。
無菌室状態の人の免疫は高いだろうか?
環境が汚れすぎているのも論外だ。
日本のお隣などでは環境が汚れすぎている影響で多耐性菌が量産されている。
けれどきれいすぎるのも問題なのでは?と考えてしまう。
……何故目の運動のために鳥を探していただけなのに環境について考えているのだろう……。
とりあえずそろそろ時間なのでゲームにログインしておこう。
私はネット喫茶に入りゲームの機体にその身を横たえるのだった。