54、VS林のボス
「そういえば林のボスまだ倒してませんでした」
「芋虫だしすぐ終わるよー」
「かなり気持ち悪いらしいですね」
「先のフィールドが虫だらけだから慣らしも兼ねてるかも」
「森って虫フィールド?」
「素材は優秀なんだけど見た目がきついかもね。
奇襲されることが多い……あ、大丈夫か。
いぬくんも事前に気づいていたし」
「あ。そういえばいぬくんはこの先のフィールドを経験済みなのか」
「うんうん、虫の匂いでもわかるのかな。
私だとこの体の嗅覚でも区別出来ないのに」
「そうなんだー」
虫ってけっこう特徴的な匂いしていると感じるのだけど。
草木と匂いもかなり違う。
「芋虫を気持ち悪く思う?」
「いえ、あまり」
「そっか」
虫に存在している細菌数は少ないんですよ。
生きている時間が短いし基本的に生まれた場所から遠い場所に行くことは少ない。
芋虫ともなればほとんど葉っぱの上から移動しない。
汚くなりようがない。
フンを落とされるのがいらつくくらい。
桜の木の下のコンクリートが夏にピンクに染まるのは芋虫のフンが原因。
あいつらが桜の葉を食べるからそういう色になる。
桜は花を赤くするために全身に赤い色素をため込むのだ。
桜で染物をする際樹皮や幹を煮出して色素を取り出す。
紅葉した落ち葉などでも色をつけることは出来るそうだ。
基本、虫は嫌いじゃない。
ただしハエとゴキブリなど汚物に集る奴らは嫌い。
ゴミに集っている時点でどんな雑菌が奴らにくっついていることか。
例え生まれたばかりで雑菌がいなくてもそんなこと私にはわからない。
なので推定有罪。発見次第焼却処理。
奴らの這った場所には殺菌剤をばらまきます。
「見た目と感触以外に気を付けることはないしさっさとやっちゃいなよ」
「感触……」
「うんうん、ぶよぶよしててあの感じがけっこう気持ち悪いんだ」
「あ、それはやだ」
「DEFが低いしすぐ終わるよ。
HPはちょっと多いけど攻撃手段も少ないし弱いよ。
ここのボスは初期フィールドの中で1番弱い。
草原のボスに勝ってるんだから楽勝で終わらせられるよ!」
「はーい。じゃあ行ってきますー」
ここのボスもそこら辺の草を投げ込めばいいみたい。
ここのボスは人気がないようだ。人がいない。
牛のところには人がいたのに。
思えばあの牛、サイズ的に子牛だ。
お肉やわらかくておいしいだろ……う、あ、熟成させてないよ!
明日からは熟成させなきゃ!
簡易フィールドに入ると芋虫がいた。
オオムラサキの幼虫みたいな奴。
体高3m?体長……20mくらい?
すごく……大きいです……。
モ〇ラの幼虫のサイズは最大で体長180mらしい。
じゃあ、小さいね。
な、わけないよ!超でかいよ!
いくらDEFが低くても致命傷負わせるのは大変だよ!
急所はどこよ!頭か?
頭だけは硬質だよ!
ねずみん、いけそうなら頭部を壊せ!
虫は頭部を破壊しなきゃすぐには死なない。
メスゴキブリは死ぬとき卵をどこかに落としていくことがあるから注意!
ハエは腹の中にウジいることがあるから殺虫スプレーで殺せ!
叩き潰した場合死亡確認した時SAN値を削ってくるぞ!
あいつら嫌いだ!
私はいぬくんにクローを装備させ突撃させた。
芋虫を噛ませるのは気が引ける。
体液を取り込ませる可能性があるからかな。
体の表面に着く分には洗い落とせるけれど中に入った分はムリだもの。
あ、ねずみん、ちょっと危ないかも……。
私ととりちゃんはどうしよう?
ねずみんが頭のすぐ側をよじ登り噛んでいく。
芋虫の頭部の大きさは2m近い。
ねずみんのサイズが体高5㎝で体長が30㎝あるかないか。
芋虫大きすぎ、ねずみん小さすぎ……。
いぬくんは体高70㎝程度。
やっぱり小さい。
いぬくんが両手のクローで芋虫の頭部付近の皮を深く傷つけた。
芋虫は痛かったのか蛇が鎌首を持ち上げるかのように上半身を持ち上げた。
いぬくんとねずみんは頭部付近にしがみついたままだ。
ねずみんはその歯を頭部に食い込ませていたからか。
いぬくんは両手のクローが深く食い込んでいたのだろう。
その高さは7、8mくらいだろうか。
少し離れた位置で観戦していた私は芋虫の大きさがよくわかった。
あの体がぶつかったら軽く10mは吹っ飛ばされた挙句死にそう。
牛の時よりよほど攻め方がわからないんですが。
芋虫には跨ることが出来そうにない。
つかみどころがない、跨いだとき足で挟めるような太さじゃない。
牛の時は体型の問題もあり簡単には転がったりしてこないと予想できた。
今回は形状も丸太型。転がってもすぐ戦闘に復帰できる。
安易に跨れば体力を削ることもできずに轢死してしまう。
虫の類は生命維持器官を多少失ってもしばらくは動けてしまう。
運動の司令部たる頭部を失わないと止まらない。
頭を失っても少しの間体が動いている奴らもいるが……。
あれは本当にSAN値削られる……。
このままじゃ寄生アチーブメントついてしまう……。
芋虫は頭部にしがみついているいぬくんやねずみんを落とそうと頭部を大きく振るう。
それで落ちないとみるや地面を転げまわりだした。
芋虫が転げまわるとぶつかられた林の木々が折れて周囲が拓けていく。
頭部と胴体の合間に入り込みいぬくんやねずみんは無事な模様。
これのどこが最弱のボスなのさ!
威力を見ても牛を超えてるでしょ!
芋虫を見るとその体が傷ついている。
どうやら折れた木が体に刺さり体表を傷つけたようだ。
少し緑がかった透明な液体が周辺にこぼれて消えていく。
自傷攻撃か。
……やってみよう。
私はとりちゃんを撮影し幻影操作を最大サイズで発動。
10mサイズのとりちゃんの幻影を落ちている木にかけた。
そして芋虫に印象操作。
目の前の鳥は天敵だ。
芋虫はレジスト出来なかった。
INTがよほど低いのだろう。
天敵に遭遇した芋虫は縮こまり固まってしまった。
……逃げてほしかった。
欲を言えば周辺を転がりまわり自傷行為して欲しかった。
そうすれば運が良ければ死んでくれるだろう。
とりちゃんの姿を使ったことで私ととりちゃんの寄生アチーブメント回避出来ると思ったのに。
まぁ、いいや。いぬくんがしがみつく程芋虫の首回りが抉れていく。
そろそろ芋虫は体が動かせなくなるんじゃないか?
それに動きを止めるのは無意味じゃない。
最後の体への命令が動くな。であれば頭が離れた時暴れるのを防げるだろう。
油断はできないが。
もう首が完全にちぎれているのにまだメールが届かない……。
半分程えぐれた段階で急にじたばたし始めた。
私ととりちゃんは離れた場所で見守っていたので安全だけれどねずみんといぬくんは大丈夫だろうか?
数分経ってもじたばたがとまらない。
とっくの昔に首はとれている。
スマホで虫の体の仕組みをネットを検索した。
虫の頭部は生命維持に関係ない部位だった。
虫の頭部は記憶と学習、行動の修飾を司るだけ。
行動の修飾というのは進むという動作があればそこに曲がるなどの指令を追加するという意味だ。
複雑な挙動をするために頭部は必要。
呼吸器や血液の循環は胸部や腹部の神経節が司っている。
簡単な動作は神経節が制御しているのだ。
頭部が離れた段階でいぬくんとねずみんは胸部にしがみつき攻撃していた。
このままいけば胸部の神経節も壊れ動きは止まるだろう。
ちなみに頭部にしがみついていた場合胴体に潰されていた可能性が高い。
暴れている胴体から1度離れてしまうと再度組み付くのは至難の業だ。
いぬくん、ねずみんナイス判断。
結局ほとんど観戦で終わってしまった。
今回の戦闘、ねずみんのアチーブメントが寄生になってた。
私ととりちゃんはほとんど何もしていないけれど寄生はついていなかった。
戦闘の大局に影響する行為が出来たためだろうか。
ねずみんは頭に噛り付いていたがそれは無くても大局に影響はないということだろう。
もし頭を齧り司令を出せなくすることが出来ていればねずみんはアチーブメントをもらえたのだろうか?
いぬくんは芋虫の痛覚を刺激していたからヘイトを稼ぐことが出来ていたはずだからとどめをささなくてもアチーブメントを得られていたと思う。
今回は運が悪かった。それでいい。
でもやっぱりサイズは重要だ。
多少攻撃力が高くてもサイズが小さければ大局に影響を与えにくい。
今回いぬくんは攻撃力が高かったが仕留めるまでに時間がかかった。
肉の厚みという壁は攻撃力より攻撃のサイズに影響される。
ねずみんは3㎝、いぬくんは30㎝。
ねずみんが10回攻撃するのといぬくんが1回攻撃するのがほとんど同じ結果を出すことになった。
肉ガードはひどい。
魔法欲しいなぁ……。
武器のサイズに影響されない攻撃範囲を出せるだろうから。
あぁ、でも敵防御力を上回ることが出来なければダメージを与えられない性質も厄介。
低威力では攻撃が通じない、で話が終わってしまうから。
物理特化か魔法特化、そうしなければ有効なダメージを与えられない。
万能は器用貧乏になってしまう。
早く攻撃魔法要員作らないと。
でもどうやったらサモンモンスターに魔法を覚えさせられるかがわからないんだよね……。