53、装備を考えましょう。
とりちゃんが索敵と回避盾を務め、いぬくんが奇襲し殺す組み合わせで草原のモンスターはすべて対処できてしまった。武器が強い。
高レベルモンスターの爪だろうという時点でこんな初期フィールドのモンスターの防御力では武器に貫くことができないものがないのだ。
武器や装備を整えずに戦うこと自体愚かなのだ、と教えてくれるようだ。
私だって装備用意したいんですよ!
お金ないし、作る材料にも困る有様ではいかんともしがたいんです!
私とねずみんに結局出番はなかった。
吹きあがる血しぶきを見飽きたので河岸を変えて狩りをしよう。
先のフィールドに行くかな。
「すみません、あの武器の素材は何レベル相当ですか?」
「50レベル相当だよ!
カンストレベルの5レベル上が推奨のエンドコンテンツのボスって倒すの大変だったよ!」
「……大半の敵の防御を破れそうですね……。
1確出来なくなる圏内はいくつくらいですか?」
「さぁ?当たり所が問題だからわからないよ」
「……。当分封印しないとアチーブメント稼げそうにないですね」
「あちゃー」
当たり所さえよければ大半の敵が1確出来そうです。
1確は素材の採集には便利だけれど基本的にアチーブメント稼ぎが出来ません。
寄生状態になってしまうので経験値が入らない。
金銭稼ぎのために狩る分にはいいか。
いろいろ素材があれば装備を作るのも楽になりそうだ。
装備があれば挑める敵も増えるというもの。
それにしてもエンドコンテンツ倒してるんだ……。
「今回は素材目的の狩猟にしますね」
「いいよー」
「どんな装備にしようかな……」
「普段はどうしているの?」
「装備がない」
「……」
生暖かい目で見られました。
そして徐に肩に手を置きボスは1言言った。
「どんまい」
「サモナーは火力ないし、勝てる敵も少ないし、1戦の時間がたくさんかかるし、お金も稼げないし、ドロも落ちないし、解体しか道がないし……」
「OK、OK、落ち着こうか!
これから装備を手に入れていくのだろう!」
「……そうですね」
深呼吸を少しすると落ち着いてきた。
「普段はどうやって戦っているの?」
「攻撃力が敵の防御力を上回ることが少ないのでねずみんが特攻してることが多いですね」
「!」
「それをスキルを使ってサポートして、ねずみんが急所の表皮を削いで防御力を落とし、サモンモンスタ-達が集中攻撃してなんとか勝てるかな?」
「……1戦1戦がボス戦みたいな状況なんだね……」
「火力がないんです……。
防御力にも大して自信がないです。
私はHPも不安です……」
「戦闘面いいとこなしじゃん」
「種族の特徴を生かしてなんとか戦っている状況でした」
「確かにそれじゃ遅々として育成が進まないわけだ……」
「今回強い武器もらったので倒せる敵が増えました。
これでそこそこの素材を集めればチーム戦闘もやれますので助かります」
「喜んでくれてうれしいよ」
「とりあえず作るとしたら武器かな」
「火力なくて困っていたものね」
問題は何を武器とするか。
クローってどうしたところで腕がなければ装備できない。
腕がないサモンモンスター多いもの。
特性枠にサイズ自動調整を組み込んであれば大きいものを小さくするのは出来る。
だから汎用性はある。
こんなところでゲームを実感する……。
それはいいとしてどういった装備がいいか。
ねずみんとうさぎんとうしくんには衝角がいいのかな?
反動ダメージがあるから厳しいものがあるだろう。
首の筋肉が発達すれば反動ダメージが抑えられるのだろうか?
相撲みたいに。
プレイヤーみたいに筋肉つくのだろうか?
だとすれば作っておくか。
とりちゃんやからすみにはネイル?
重量を増やしてもいいことはない。
移動速度が落ちてしまうだろう。
攻撃はあまり威力でないだろう。
嫌がらせ中心になる。
毒とか麻痺とか仕込めるようにしておくか。
マニキュアみたいな物になるのか?
指に紐をつけて指先を覆うキャップのような形状か?
マニキュアじゃ攻撃力期待できないし後者だな。
カニちゃんは甲殻に色々つけるといいかも。
背の部分にトゲトゲつけたり……
いや、つるつるにすれば背後からの攻撃防げるか。
スベスベマンジュウガニって画像見ると甲羅が丸くて光っているけどアレ本当につるつるしてるのかな……?
イソギンチャクとの共生パターンなどあるし装備に自由が利きそうだ。
とりあえずハサミに刃物をつけることにしよう。
ピュアちゃんって何が装備できるの……
体内に物を保持できるのだろうか?
どういう扱いをすればいいかわからないよ……。
ヘビちゃんも困る……。
付け歯?あれ、どうやって作るの……。
ヘビの歯ってかなり小さいんだけど。
長い胴体に何かつけるのは動きが阻害されるだろうし選択肢から外れるだろう。
尻尾に刃物を装備できるようにするか。
コブラの類に見られる毒吐き機能は今後会得できるだろうか?
ウミヘビのように噛みついて毒を与える類でもいいか。
通常進化だとニシキヘビみたいな巨大化をしそうだ。
マムシなどのようなクサリヘビ系統のように犬歯から毒を送り込むギミックが必要だろうか?
ヘビの毒は神経毒か出血毒がほとんど。
ニシキヘビのように締め付けて骨を折り殺す方が肉を、毒殺の方が骨や皮を素材としやすい。
肉はほかのサモンモンスターでも確保出来るから毒蛇になってほしいな。
「ねぇ、テン子ちゃん、どこに行くの?」
私が黙って考えていたら心配そうな顔してボスが見ていた。
待たせてしまったのだ。
「……困りました。装備できる武器を考えてみたら全部特殊なものになりました。
技術的に難しい物も多いですし作成に必要なものも想像しにくいです」
「そっか」
「衝角なら出来るかも。
雄牛の角ならあるし材料は困らないかな……?
だとすると頭に固定するための材料が欲しいかな……」
「あ、それならクローにも使っているけどクモの糸とかどう?」
「いいですね!あ、そのクモってどこにいますか?」
「林の先のフィールドのボスだよ」
「……勝てるのかな……」
「私もパーティー入るよ」
「寄生になりませんか?」
「あのクモはソロじゃ面倒だから寄生にはならないはずだよ」
「であればお願いします」
私とボスは林に向けて足を向けた。
「テン子ちゃんって堅いよね、もっと気楽になれないの?」
「堅いですか……」
「丁寧語だし遠慮しすぎだもの」
「割と遠慮してないつもりでした」
「丁寧語を崩してみたらどう?」
「いえいえ、それはちょっと」
私は馴れ馴れしくなると目に余る人になるだろう。
ついでに目上の人からの無礼講だ。という言葉は信用しにくいもの。
信用して失礼な人になったら根に持たれる可能性があるのだから。
余程相手と親しくしていない限り意見の衝突を起こしたら進退が危ない。
機嫌を損ねても危険だ。
「もっと親しく関わりたいの」
「結構親しく関わっていると思いますよ?」
現実含めてもボスより近い関係あまりいない。
「こう趣味だとか聞かないよね」
「ゲームが趣味ですし」
「確かにそうだけど!」
ボスは頭をかきながら悩ましい声をあげた。
「はい!じゃあ、このゲームで好きなのはどこですか!」
「自由度の高さと作りこみです」
「具体的には?」
「スキルで瞬時に終わらせることも出来るけれど、手をかけて丁寧に行うことができるところです」
「ではそれを生かして何をしますか?」
「鞣し作業や調理などです」
「質問。……って就職面接かい!
もっとこう私に話しかけてよ!」
ボスは空に向かって吠えた。
あ、なんか狼っぽい。