52、ボスの贈り物
私が木の実を食べるとサモンモンスターの緊張がほぐれたような気がした。
対等になれた、仲間意識が持てるようになったということかもしれない。
なんとか選択肢の1つを間違えることはなく済ませられたようだ。
それにしてもこうして森の中で動物とひざを突き合わせていると童話の世界に迷い込んだような気分になる。
現実を思い出させる虫の類もいないことも拍車をかける。
ねずみんが軽く鳴き声をあげるととりちゃんが応えて鳴き返す。
この2人、川原でも思ったけれどカップルのように見える……。
私とカニちゃんはねずみんととりちゃん眺めながらほのぼのするのだった。
明日……いやもう今日だ。
今日は日曜日。休日そしてボスとの約束の日。
予定あまり立ててないけれどどうしよう?
とりあえず現状の最上メンバーで行こう。
いぬくん、ねずみん、とりちゃんかな。
ボスとパーティー組む時はねずみんかとりちゃんを外すだろう。
役割かぶっているから。
ねずみんの食事ブーストも最大倍率目指す。
このドングリ風の木の実を調理しておこう。
あ、時間や場所どうするのか決めてないや。
ボスにLINEしておこう。
チャットを送るとログインしていたようですぐに返事があった。
話し合いの結果、朝7時から開始で今は寝ようとのこと。
この時間帯はログインしている人が多くフィールドが混雑していることが多いからだ。
じゃ、寝ようか。
私はギルドに挨拶をするとログアウトした。
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ログアウトし体を伸ばすと少し眠たさを覚えた。
時間が午前3時だからだろうか。
早いところ眠りにつこう。
家で体を洗い掃除をし歯を磨くとささっと布団に入る。
掃除を軽くしたため体に若干の疲れが出て眠りやすくなったので1分もしないうちに私は寝息を立てることになった。
午前6時起床。
朝。口内に溜まった雑菌を減らすため起きたらうがい。
髭は伸びにくいので髭剃りをすることはない。
私は時間がある時太い毛や濃い毛は抜く。
手で自分を触った時引っ掛かる感触が嫌いなので。
だからめぐるんのあごは青くなることがない。
触ってみてもジョリジョリではない。
単なる柔らかい肌だ。
今日の朝食は果物。
丸かじり。
別に調理が嫌なのではなく、ただ丸かじりがしたいのだ!
リンゴとプラムは調理してパイにしたり、ジャムにしたりするのも好きだ。
だけど皮ごと丸かじりするのも大好きだ!
果物の皮や野菜の皮。
捨てることが多いけれど栄養価も高い。
果肉などとは違う栄養も多く含まれている。
私は丸かじりの際皮に歯が食い込む感触が好きだ。
皮がぷつっと破ける感触がいい。
張りがあって少し硬い皮。中に秘められた柔らかい果肉。そして溢れ出す果汁。
果汁を外に垂らさないように噛んだ際に吸い上げる。
なんだか吸血鬼みたいな気分に浸る。
甘い果汁でのどを潤しつつ、噛み千切った果肉を口内で咀嚼する。
リンゴだとシャリ、シャリという音で。プラムは柔らかい肉質で楽しむ。
咀嚼の際人によっては皮が邪魔になるかもしれない。
でも皮に近くなるほど肉質は変わって味も変わる。
私はこの変化が好きだ。
注意。
外国産は輸入の際保存用の薬品をかけることがあるので丸かじりはお勧めしません。
水で洗った程度ではどの程度薬品を落とせるかも定かではないです。
皮を食べるなら国産果実だけにしましょう。
リンゴを2個、プラムを3個、バナナを1本、みかんを3個食べると歯を磨き外出した。
食いすぎといわれても否定しません。
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ログインしギルドに挨拶した。現在時刻は6時50分。
予定まで10分程度。
今出来ることは何かあるかな。
8分経った時ボスが来た。
「早いね。待った?」
「全然、今来たとこ」
「どこ行こっか?」
「草原辺りかなぁ。先週までそこを主な狩場にしてました。
サモンモンスターが進化したこともあって慣らしから入りたいと思います」
「いいよ。じゃあ、行こう」
「はい」
「テン子ちゃんはまだ初期装備なんだね」
「購入資金がなくて……」
「はい、コレどうぞ」
「わ、クローですね。
手甲にモンスターの爪が着けられているみたいですね」
「以前頼まれてた装備ね。
サモンモンスターの動きを阻害しないようにするのけっこうくろーしたよー」
「手の部分でひもをつかって結わえているみたいですね」
「うんうん。戦闘中に外れたら困るし、結び目が擦れてしまうのにも困る。
その結い方にもくろーしたよ!」
「いい装備です。サイズ的に装備できるのはいぬくんとねこちゃんだけかな……。
今日はいぬくんに装備させますね」
「う、うん。そっか」
「?」
ボスは何かに戸惑っている。
「じゃあ、狩りを始めようか」
「とりあえず見ててくださいね。
戦闘時間少し長く感じると思いますよ?」
「いいのよ。私が付いてきたいって思っていたんだから」
「では」
視界にモンスターの影はない。
斥候にはとりちゃんを出そう。
草原は不意を突かれるのが恐い。
特に野良ネコ。
ねずみんでは野良ネコに囲まれたら逃走させるのは難しい。
前回は運よく幻術で混乱させ倒すことができた。
毎回運がいいことを期待するのは間違いだろう。
ちゃんと倒せるように回さなければ。
とりちゃんは草原の上空3m程度を飛びながら偵察する。
このゲームにおいて3mは割と低い。
初期のプレイヤーだって跳べる高さだ。
私は跳べない気がするのはなぜだろう……。
ボール投げても飛ばせないし……。
体の使い方がなってないのだろう。
本格的に全力疾走とかやらないといけないかも。
筋力の限界を試すようなことをしないし。
少し意識を外に飛ばしていたらとりちゃんにモンスターがひっかかった。
獲物は野良ネコ。
とりちゃんはネコを声で挑発し、届きそうで届かない位置をキープしたりと遊んでいる。
大分いい感じに注意を惹いて不意をうちやすくなっている。
私はいぬくんにクローを装備させると風下からひっそり近づかせた。
いぬくんは音をたてないように進みネコから1m圏内に入った。
いぬくんは後ろ足だけで前方に跳躍。
クローを首筋に突き込み跳躍の勢いのまま引き裂いた。……と思う。
跳躍の瞬間は見えたけど次の瞬間にはネコの首から激しい勢いで血が流れ出していた。
気づけばネコから離れた場所にいぬくんが踏みとどまる姿を見せていた。
武器でATKがかなり上がっているから1撃出来たのだろう。
きれいな皮が入手できるのだろうか。
ネコの皮は三味線に使われるらしい。
ちなみにイヌの皮は練習用らしい。
「おぉー。やっぱいぬくん強いね」
「強い武器があるからでしょう。
なければ首筋を噛んでマウントをとれるかの争いになったと思います。
マウントをとったところで決め手に欠けます。
四足獣の首元は皮が余っているので噛んだところで大した傷を負わせることもできません。
今回はとりちゃんの方が活躍は大きいです。
とりちゃんがいなければいぬくんは不意をうてず膠着状態に陥るか、私たちが不意を突かれて危険な状態になるかしてます」
「お、おぅ」
「とりちゃんこそ最大の功労者です」
「そ、そっか」
解体待機の状態にして野良ネコの死体をインベントリにしまう。
「そういえばこの辺りで見るプレイヤーは野良ネコの奇襲をどうやって対応しているんですか?」
「……野良ネコの攻撃でダメージを食らっても大した損害でないから特に対応してないね」
ボスは苦笑いしながら言いました。
「クリティカルさえ気を付ければネコは恐くない。
血管が浅い部分にある手首とかをリストバンドなどで覆えばクリティカルはなくなるから襲われてから対処でも十分間に合うんだ」
「……うらやましい」