47、レンタルペットです。
緊急事態発生。予期していない来客?が来ました。
何をすればいいでしょう?
「ちゃす!俺はディーノっていうんだ!よろしくな、テン子ちゃん!」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「こっちのグリズリーはビーンであっちの白熊がゴードだ!」
「ビーンだ、よろしくな、嬢ちゃん」
「ゴード。白熊よりポーラーベアーの方がいい」
「よろしくお願いしますね。ディーノさん、ビーンさん、ゴードさん。
私はテン子と言います。あと中身おっさんなので扱いは適当で」
パンダの獣人のディーノが口を大きくあけていた。
顎が外れたのだろうか?
前はログイン時間などから言わずとも分かるだろうなんて思っておっさんアピールしていなかったが、アバター名を検索にかけたら女だと思われていることを知ったためやった。
こじれるとスマホゲームの時でも面倒なのだ。
信じてもらえないことが多いのだが……。
声聞かせろ、とか言われても電話番号とかばれそうでこわいのでしないのが原因かもしれない。
マイクとか使わないし基本スマホでLINEでチャットする、ツイッターで呟く、メッセージ機能を使う以外しない。この頃メールしないなぁ。
自撮りして顔出せよ、とか身ばれがこわいし絶対にしない。
基本丁寧語か馴れ馴れしすぎる言葉しか使えないので飲み会でさえ「めぐるさんって女ですか?」などと言われてしまう……男ですよ?割といい年になってきたおっさんですよ……。
確か今年で35歳。仕事を始めた時に年齢を書いたけれどそれ以来気にする機会がなかった。
誰も誕生日を知っている人なんていませんしね。お盆休みまっただ中。気づけば過ぎてる誕生日。
医療関係者として汚い格好や不健康な姿なんてしてはいけない。
健康に気を使うせいか年齢よりも若く見られるのはよくある。
身長があと少しで170㎝……若者は皆背が高いよ……。
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
「テン子ちゃんっておっさんなのかー」
「……」
2mサイズのクマさんが3頭互いに押し合いする姿を120㎝サイズから見上げると割とおっかないです。
全員フルメットならぬリアルな熊顔なのでまだましですが人の顔していたら恐怖しか感じられなかったでしょう。
……あ、私、人間がこわいのかもしれない。特に男。
他人は自分の鏡。
相手を見るときそこに自分の影が映る。
共通点から自分を見つめるか、共通点のなさから自分を見つけるか。
その自分が自分にとって好ましいものか嫌なものか。
私はその自分がこわいのだろう。
自分の能力などを持つ自分よりも強い体を持つ人とケンカしたら確実に死ぬ。
病院送りじゃなくて息の根を止められる。
遺体などもきれいさっぱりこの世から消される。
存在自体ないものにされる自信がある。
そういう人に出会わないためには人とケンカしない。
ケンカしないために気に障る行動をとれない。
何が気に障るかわからないから人に、特に男がこわい。
そんな行動をする人なんて作り物にすら滅多にいないのに自身の中に作り上げてしまった虚像を壊せない。
だから人がこわくてしょうがない。
結局のところ自分がいけない。
踏み壊さないといけないな。
人への経験が増えれば少しは虚像も薄れるだろう。
「ねぇ、私はサモナーで調理をやっているのだけれど3人は何をしているの?」
「お、おう。俺達は全員、グラップラーで鍛冶やってるぜ」
「レア職になれたと思えば同じ職がギルド内に2人いてびっくりしたぜ」
「戦い方が似てたんだろう」
「前職はファイターだったのかな?」
「あってるぜ」
白熊さんの目が周囲を窺っている。
何を探しているのだろう?
「ゴードさん、匂いが気になりますか?」
「いや……」
白熊さんの目が諦めたような雰囲気を漂わせている。
「そういえばギルマスが犬と戯れていたのだけどサモンモンスターのレンタルが出来るって言ってたな」
「出来ますよ。レンタルすれば私がログアウトしてる間も実体化してますね」
「おぉ!」
パンダさんがレンタルの言葉を出すと白熊さんの目が輝く。
白熊さんは何かモフモフしたいのかな?
「私がレンタルできるのは今10種類ですね」
「え、もしかしてレンタルしてもいいの!」
「平日は皮を鞣す作業にあてようと思っているのでサモンモンスターは暇しているんですよ……」
「そうなんだ!おい、ゴード、頼みたいことあるんじゃないか?」
「お、おう!……あ、そのな……」
「こいつは小鳥が好きでな」
「ビーン!……ありがとな。そう、小鳥が好きでかわいがりたいんだ」
「こいつ、外で一緒に鳥と一緒に遊びたいからって籠から鳥を出したら逃げられたことがあるんだよ」
「その話言うんじゃねぇよ!ビーン!それは子供の時だ!
……ビーンと俺は幼馴染で昔からの付き合いなんだ」
「おぅ!」
「外で鳥と戯れるのって少し夢ですよね……」
「分かってくれるのか!」
「はい、私、小さな頃ジュウシマツ飼ってたんですよ」
「よくわからないが小鳥かな?」
「色は茶色で地味ですがハクセキレイと同じくらいのサイズの鳥ですね」
「ハクセキレイって道路でよく小走りに走っているあの白黒の鳥か!」
「ですです!」
「あの鳥可愛いよな!」
「なぁ、お前も暇だよな……。
ご主人があいつにかまってしまって」
「これ、食うか?」
「ちゅ!」
「「かわええな」」
鳥談に盛り上がっているとねずみんがクマ2人に餌付けされていた。
木の実とかよく持っているのかなぁ……。
「ではとりちゃんをレンタルしますね」
「ホント、ありがとう!大切にするよ!」
「なぁ、俺たちにもレンタルさせてくれないか?」
「このネズミがもうかわいくてな……」
「いいですよ」
この人たちは本当に小動物が好きなのだろう。
安心してレンタルできる。
あ、そうだ。
「そういえば先ほど木の実あげてましたけれどどの辺りのフィールドで入手できますか?」
「これか?これならそこの森で拾えると思うぞ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
これでねずみんのご褒美にも困らなくなるかもしれない。
木の実が豊富にあるのならいろいろな利用方法を調べておくといいかもしれない。
成分が種類によって違うから知識にない物もあるだろう。
油が主成分の物。タンパク質が主成分の物。果肉がおいしい物。いろいろ考えることはある。
見せてもらった木の実はドングリ風だった。
主成分がタンパク質だったと思う。
粉にすれば灰汁抜きなど手間があるだろうけれど小麦粉と近い物に出来るかもしれない。
パン作るとしたら酵母欲しいなぁ……。
ベーキングパウダーって重曹つまり炭酸水素ナトリウムが主成分だよね。
あの辺りも探さないといけないなぁ。
いろいろ探さないと出来ないものが多いよ!
現代の買えば揃う状態はとても便利なんだね……。
ここで過ごすほどそれを強く思うよ。
ねずみんレンタルしちゃった。
帰ってきたらかまってあげないと。
話していたら結構な時間が経ってしまった。
もうログアウトしないと明日がきついね。
ギルドに挨拶して鍋をインベントリにしまい今日は落ちた。
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「とりちゃん、あっちに向かおう!」
「ねずみん、コレ。食うか?」
「ねずみって頬袋あるんだな」
「「あぁ。もう、かわいいな。こいつ!」」
その日白熊が野原で駆け回る光景やパンダとグリズリーがねずみに餌付けする光景が確認されるのだった。