45、進化は……
ログインするとメールが大量に届いた。
いぬくんの獲得アチーブメントに関する物だった。
200件を超えている気がする。どれだけ戦闘していたんだ……。
最後の方に毛色が違うメールがあった。
スモールドッグ【いぬくん】は進化できます。
進化可能種族
通常種族
ハウンドドッグ
体重40キロ。体高0.7m。
走る能力が強化された大型犬。持久力や噛む力が強く群れを形成し集団で行動する。
特殊種族
アサシンドッグ
体重20キロ。体高0.4m。
跳ねる能力が強化された中型犬。敏捷力や道具を扱う才能が高くなった。
リーダーの命令に忠実に動くが集団行動は少々苦手。
サイズが大きくなる通常進化。集団行動が得意なのかな?草原の犬を想像すればいいのかな?
サイズが変わらない特殊進化。道具を扱えるのは大きいね。でも集団行動が少し苦手か……。
特殊進化は条件もわからないしまた作れないよね……。
リセットはいぬくんを消すことになるから心情としても出来ない。
理性は通常進化を選べと叫んでいる。
私が求めているパーティーメンバーにぴったりなのだ。
大型化して持久力に長け集団行動が得意なんて欲しくてたまらないメンバーだ。
でもここで通常進化を選んではつまらないと考える自分がいる。
2度はない。同じ種族を見ることができるとも思えない。
とりあえずいぬくんのアチーブメントをまとめておこう。
アチーブメントを記録しておけば居るかもわからない後続のためになる。
アチーブメント以外に条件があるのか分からないが何かのためになるだろう。
メール群をPCに送る。
今カウント作業だとかしてたらゲーム時間がなくなるから後回しだ。
……進化させるのは特殊進化だ!
理性に欲望が勝ってしまいました……。
私はスマホでクリック。
「いぬくんが急に黒くなった!どうしよう!」
「あ、こんばんは」
ギルドに挨拶するのが遅れていました。
「あ、テン子ちゃん、ログインしたんだ!ねぇ、いぬくんが黒くなったんだけどどうしよう!」
「進化させたので種族が変わっただけですよ」
「なるほど……。色が変わっただけ?」
「まだいろいろ確認していないのでなんとも……。
説明文には跳躍力や敏捷力、道具を扱う才能が高いらしいですよ」
「うーん?それ、あまり元と変わってない気がする」
「え……」
「推奨レベル30くらいの森で戦っていたけど跳躍が凄まじかったよ?
その場所で戦うにはATKが足りないから武器貸してみたけど使ってたね」
「あらら……」
「あ、その長所が強化されてるかもしれないよ!」
「そっか……」
「でも、いぬくん、かなりいいね!
私、パーティーメンバーに欲しいくらいだよ!
レアザコの発見率も高いしかわいいもの!」
「あ、そうですか」
なんだろう、この選択ミスってフォローしてもらっている感。
声をかけてもらうほど心が冷えていくよ……。
レア種族なんて喜んで飛びつくんじゃなかったか……。
あぁ、とりあえず、日課をしようか。
軽く皮を見回り鞣し液を塗り付ける。
インベントリから鍋を取り出し調理スキルで加熱。
保温器を考えてみたけれど電気を使わずに70℃というそこそこの温度を保つ方法がわからなかった。
おがくずなどと一緒に木箱に入れた保温器などではその温度は保てそうにはない……。
魔法瓶の要領で真空状態を周囲に作り出し断熱する。
これが出来ればいいのだけど難しい。
どうやって真空状態を作るかが問題なのだ。
少量の水を加熱し水蒸気に変え中の空気を追い出して密閉。水が冷えて液体になれば真空空間が出来る。
そんな方法をするのならいいのだけどその材料に悩む。
断熱材でかまどのような物をつくりそこにしまう。
その断熱材の材料はどうするかが問題。
断熱材は比熱が高いものであるのがベスト。
材料は何を選べばいいのだろう?
珪酸ソーダ?珪酸ナトリウムなんだよね。
シリカゲルに近い物か。
で、どうやって作ればいいかな……。
工業に使える程の大出力の電力がないと作れそうにないよ……。
融解させてからの電気分解とかしないと原材料を得にくいよ……。
不意に背後から肩を叩かれたので振り向くと頬に人差し指が刺さった。
「もう。ログアウトしちゃったのかと思っちゃった」
「あ」
LINEにたくさん心配しているような言葉が届いていた。
「ごめんなさい」
「いいわよ。私も言葉を聞きたくない気分になるかななんて思ってたから」
ボスは何のためにここまでしてくれているのか。
たぶんギルドの運営のためだろう。
割れ窓理論。
窓が割れている車が1台あると車上ドロが増えたなんて話がある。
前例を知っていると似た行動をする踏ん切りがつきやすくなるという事象だ。
どこかに不具合がある空間では悪質な事象が増えやすい。
集団心理を考えれば私は病原菌に侵された細胞のような物だ。
薬役にボスはなっていてくれているのだろう。
集団の自浄作用が作用しにくい私のようなボッチの世話をしなければいけないなんてお疲れ様です。
ねぎらうよりもさっさとボッチじゃなくなれよなんて話なんですが。
「しばらくすれば気分はニュートラルになるので大丈夫です」
「あ、そうだ。私と一緒に戦闘してみない?」
「足手まといになると思いますよ。私に合わせたらかなり低レベルフィールドに行くことになると思います」
「大丈夫!つい先日クラスチェンジしたばかりで慣らし運転中でね!」
「日曜に狩り全般をすることにしているのでその時でよければ。
今日はやること詰めてしまっているので空き時間がなくて……」
「そうなんだ……。うん、わかった。じゃあ、日曜ね!約束だよ!」
「誘ってもらったのに予定を変更させてすみません」
私は軽く頭を下げた。
こんな対応しかできない私が憎い。
「テン子ちゃんにも予定があるよね」
「サモナーはレベルが非常に上がりにくいですから……。
生活を回すことを考えるとログイン時間も限られてくるんですよね」
「あ。初めておじさんらしさ感じた。
こう、仕事や生活に疲れた感じの」
「こんな場所でおじさんらしさ発揮できただと……!」
「今度はわざとらしい」
さじ加減が難しい。
「今日が水曜だから4日後ね」
「ですね。楽しみにしてます」
「私こそ楽しみしてるよ!
君の戦い方ってとてもユニークな気がするもの!」
「火力不足の泥沼ですから……」
「あー」
それにしても膠の匂いを気にしなくなってきたのが怖い。
けっこう臭いんだよ?
昨日は異臭でひどい気分になったのに。
腐敗臭に近い物に慣れるの早すぎじゃないかな……。
現実だとファ〇リーズを着ている衣服にかけてマスクを完全に装備しないと耐えられない気がするのに。
ゲームってそういう感覚を狂わせるのかな?
対処出来ない事態だから気にしないだけ?
そういえば私は対処できない不快感は無視出来た気がする。
学生時代、親の干渉がひどくて鍛えられた。
経済的基盤握られたら何も出来なくなるよ……。
割と不服従貫きました。
小遣いなし携帯なし、1日0~1食、睡眠時間3時間って学生生活してれば多少の不快感なんて今更どうでもよくなる。
小遣いがないのが1番痛かった。人に誘われても何もできないもの。
お菓子の類も縁がなかった。
たまに携帯持ったと思えばメールチェックされたりした挙句切られたり、メールが見られるくらいならゲームでと思えばゲーム禁止だとか言われきられたり……
お年玉でゲーム買ったら何かと文句つけられ隠されたり……
1人で勉強すればブレーカー落とされ停電したり……
受験シーズンでもかまわず癇癪起こして家から追い出され勉強どころじゃなくなったり……
あれを思えば多少の不快感なんてどうだっていいレベルだ。
対処できるものは対処するのはどうでもいい不快感でも無意識下でなんらかの悪影響を受けている気がするから。
汚れた部屋で過ごすとはっきりとネガティブ思考になるから私には確実に悪影響だ。
「大丈夫?なんか黒い顔してるけど?」
「大丈夫です!」
ネガティブ思考いけない!