32、川には危険がいっぱい
林から帰る道、木の葉と木の枝の乾燥の方法を考える。
川原で軽石などのカルシウム化合物が見つからない場合自然乾燥をすることになりそうだ。
スキルで生み出す包丁なら欠けても直るだろうし、切り刻んだりして細かくし乾燥させるでいいだろう。
灰ってアルカリ性だ。
木酢液と反応させれば中和されるかしれない。
酢酸化合物ができてどちらにしろ臭いかもしれない。
酸になられたら臭いではなく皮が痛むかもしれないからあって損はないかもしれない。
酢酸臭も初めはついているかもしれないがいつかはおちるだろう。
でも初めは基本に忠実に。
アレンジなんて上手くできてからで十分。
満足に作れないのにアレンジなんてするのは間抜けが過ぎる。
とりあえずは乾燥だよね。気が遠くなりそうだ。
屋上で天日干し出来るかな?
インベントリの枠が辛いよ。
ギルドのために私がしたのって宣伝材料になることくらいじゃないかな……。
個人で皮干すスペースなんてとっちゃって申し訳がなさすぎる。
早く強くならないとギルドの行事に参加できない。
急がなきゃ。
お金稼いで装備を入手は数か月かかりそう。
討伐方法が同じじゃアチーブメントも稼げない。
経験値なしだよ。強くもならない。
お金を集める速度も1時間でいくら稼げることやら。
100Y稼げるのかな?
安定して稼げそうなのはスライム討伐くらいしかなさそうだよ。
カニ足売りって今どうなってるんだろ?
川原に到着した。
カニ売りがいました。
カニ祭りに変わっている気がする。
人多すぎて石探せないよ。
なんでそんなにカニ売りがいるの!
調理のアチーブメント稼ぎ。
カニ以外にも色々食品が売ってありました。
カニに合いそうなものを売る店からそれに合いそうなものを売る店。
町の市場で売ればいいのに……。
「テン子ちゃん、こんなところでどうしたんだい?」
「あ、ツナさん」
「やぁ」
「実はこの辺りを調べていいもの拾えないかなと思っていたんです。
来てみたらお祭り会場になっていて諦めを覚えちゃいました」
「いいもの?」
「川原の石の中に火山から降ってきた石がないかなぁと。
乾燥材と発熱材として使いたくて」
「……モンスターのドロップですらないんだ」
「討伐速度は遅いしドロップを拾えないことが多くて。
解体にしてたら素材の処理のために色々必要になりました」
「……頑張って?」
「サモナーって辛いです……。モフモフが私を放してくれません」
「どんまい」
ツナさんに手を振り別れると川の水面を眺めながらどうしようかな、なんて悩む。
雑踏に紛れ込めば川原で石を拾うなんて真似は出来ない。たぶん手を踏まれる。
……!川なら買い物客はいません!
川で石を拾えばいいんですね!
初期装備の靴をしまい川に入り込むと足が冷えていく。
そういえばもう10月だったっけ。
足元にある石は丸いものが多い。
水の中で動かし軽いものを探す。
たまに苔で滑り転ぶ。鈍臭さに泣けてくる。
お尻が痛い。額が痛い。カニに指挟まれた。魚に足つつかれてくすぐったい。
いぬくんが水辺で楽しそう。
あ、沖のほうに行って泳いでる。
ねずみんととりちゃんがいぬくんの頭に乗って遊覧中。
ねずみんがとりちゃんの頬を突いたり、とりちゃんがねずみんの背中を毛づくろいしたりカップルみたいになってる。
サモンモンスターが私から離れている。
私のこける率が高すぎて近くにいると巻き込まれるせい。
でもね、パーティーの面々がいちゃこらしてる中で一人作業してるのって寂しいんだ。
ねずみんととりちゃんカムバック!
川原に近いほうの川底には重い石しかなかった。
川が湾曲してたら内側に重い石が溜まっていくからね。
だから石の川原が出来上がる。
もし川原に火山性の石があるとしたらカニ祭りしてるような川原の内側も内側なんだけど手を踏まれる可能性が大。
川の川原と反対側の岸に行こうかな。
あそこに行けばもしかしたら拾えるかもしれない。
川を歩いて進む。
川原の傍から奥へ進んでいくと徐々に水深が深くなり川の中央で足がつかなくなった。
初期装備の上と下は替えがないと脱げない。
着衣水泳をすることになった。
現実のプールの時と同じように水面に浮かぶ。
顔を上に向けていれば息継ぎに工夫はいらないので。
だがしかしここはゲーム内だった。
バタ足させていた足を何かにつかまれた。
反射で私は体を強張らせてしまう。
そして一気に水面下に引き込まれた。
モンスターエンカウント!
川原と反対側の岸付近。
それは川の中でもっとも流れの早いところ。
水深は最も深い。
そんな場所にいるモンスターが川原近くのカニと同程度?なわけがない。
サモンモンスターと離れていた。
一通り泳げるけれど生来の気質で楽を追及してしまう私は速く泳ぐことが得意じゃない。
なんだろう。引きずり込まれたのに驚けない。
つかまれたのには緊張したのに引きずり込まれるのには驚けない。
目的がつかめるからか。
今回の敵は何だろうか。
私は腹筋を使い体を曲げて足元を見る。
足首に巨大ヤゴの顎です。目の前にはヤゴの口の中が見えます。
ゴ〇ラVSメガ〇ウラの時出たあのトンボの幼虫サイズのヤゴです。
あ、死んだな。
私はお腹がつぶれる感触とともに視界がブラックアウトするのだった。
視界に光を感じたので目を開くとそこにはお婆さんの顔がドアップ。
驚きとともに体が硬直してしまう。
不意を突かれると硬直してしまう癖はどうにかならないだろうか。
びっくりする度に硬直でピクンピクンして恥ずかしい。
「起きたかぇ」
お婆さんが呟くのでこくんと頷く。
近い、近い。
「サモナーかい。大変な職を選んだね。
強くなるのは難しいが頑張りんしゃい」
そんなことを言われたのでとりあえず頷く。
「出口はあちら。気を付けて行ってらっしゃい」
そういい傍で編み物を始めるお婆さん。
お婆さんが指差したほうには白い光で充ちた入口が在り出るのは簡単なようだ。
この場所を見ると外国の田舎のお婆さんの家のようでオレンジ色をした光が部屋全体を照らし、レンガの暖炉が在ったり、絨毯がふかふかだったりする。
お婆さんのお尻には黒い尻尾が生えていた。
このアバターの家族設定のNPCだろうか?
周囲の観察を1通り済ませると自身の状態を調べる。
スマホで確認するステータスが4割程に落ちていた。
スライムにも負けそうだ。
完全回復には1時間必要らしい。
とりあえず寝よう。
「あらまぁ。お疲れのようね」
スマホでサモンを発動させ、うさぎんとへびちゃんといぬくんを呼び出す。
いぬくんを抱え込み、へびちゃんを首に巻き、うさぎんをいぬくんのお腹の前に置きもふる。
なんか幸せ。
お婆さんNPCは編み物を黙々と続けている。
サモンモンスターの呼び出しはOKだったようだ。
戦闘で怪我したわけではないのでねずみんたちはバッドステータスになっていなかった。
セーフ?
ギルドチャットでなんとなく報告。
「川原で向こう側の岸目指したらヤゴに食われた」
「どんまい」
「あぁ、あれかー」
「食べられちゃったんだー」
「〇みられたんだー」
「お腹ぷっつんでしたー」
「水中見てれば割と躱せるよー」
「DEFがあれば食べられても死なないね」
「ムリです。弱小サモナーの耐久力を舐めないでください」
「そりゃそっか」
「実はテン子ちゃんがぷっつんした瞬間の動画があります!」
「!」「!」「!」「!」「!」
「ボス?」
「いやー、なんか見ていて面白そうだったんだもん!
癒し動画からの衝撃映像。これは1万PV行く!」
「あ、ギャラください」