31、小枝拾い
思考が様々な方向に流れていく。
そのうち私は落ち着いた。
もうなんだって構わないじゃないか。
私は私でしかない。
ゲームのことでも考えよう。
仕事の流れでも考えよう。
自身の在り方なんて精神環境にしか関係ない。
外部環境こそが生活であり現実なのだ。
軽く考えろ。物事は単純なものの積み重ねに過ぎない。
感情なんて判断の一部でしかない。
言葉を使い他者と情報を共有するから人間なのだ。
共有する物はせいぜい自分の従事する仕事の情報、自身の体験に基づく経験談。
この場合の仕事は本人が得意とし一人前と思えるものであり学業や仕事だけではなく趣味まで含める。
ゲームだってありね。
精神状態を共有しようなんて物語でもなければすることはない。
でもそれは雑談や会話に何の関係もないじゃないか。
自分が人間でなかろうが他人にとってはどうでもいいこと。
ただ理解できない動物に過ぎないのだ。
相手に理解できる話を私が豊富に持っていれば自然会話が増えていくはず。
いろいろなものを得意分野と呼べるまで鍛え上げよう。
人が話を聞きたいと思えるようになればいい。
行動を増やそう。
知らないことを探そう。
それを見た他人が話を聞きたいと思えるようになればその時には人間に成れているはず。
……あ、それ、事務的会話。私が望んでる雑談じゃないよ……。
雑談への道は厳しい……。
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ログインした。今日は休日。
日曜の休日は仕事の同僚が何かと催し物するので参加するため中々行けない。
週休2日目は溜めてた本を読んでしまうことが多い。
業界雑誌の類は読まないと仕事に影響出かねないから必要な時間だ。
雑学的な情報や料理に使う情報、DIY関係の情報なども拾い集めている。
現実でも楽しめるかもしれないのでね。
ゲームだったら料理を作ればサモンモンスターに食べさせたり、プレイヤーに売りつけたり、最悪NPCに売り払えるけれど現実ではそんな量は作ったら処理に困る。
DIYも現実でしたら置き場所に困る。ゲームならNPCに売り払える。
そういう意味での発散も出来るからゲームはいい。
そういえば休日にログインしたのはギルド入団の時以来だ。
休日は休日で用が入る日が多いんだよね。
気づけばゲーム初めて既に1ヵ月。
未だベースカンストならず。
関係なかったから気にしてなかったけれどメンテが既に3回終わってる。
3回目でストーリー追加とかベースカンストを5レベル引上げとか在った。
ストーリーはベースが35レベルになると進むらしい。
戦闘ベース、生産ベースにストーリーが分岐しNPCの徒弟になるものもあるらしい。
有用なスキルツリーをもらえるかもしれないということで徒弟方面に進むプレイヤーが多い。
現在18レベルの私はいつになることやら……。
最後に落ちた林からスタートした。
まずはギルドチャットで挨拶は忘れず。
挨拶無くして人付き合いは始まらない。
返答を見ながら周囲を散策。
小枝探しはほとんど散歩のノリになってきた。
低木が多く視界に死角があるので多少モンスターに注意を払ってはいる。
視界は広いほうが危険は少ないのでピュアちゃんに乗って移動することはない。
足元で低木から出てくるモンスターを警戒するねずみんを踏まないように獣道を進みながら歩く。
いぬくんは私の左後ろで付き従っている。
なんだか尻尾の付け根の辺りを見られている気がする。
犬にとって独特の匂いを感じるらしい肛門腺でも嗅ぎたいのかな?
スカンクやキツネ、イタチなどに見られる最後っ屁という強烈な匂いを出すあの穴。
糞尿の類は出さないのできれいといえばきれい?
私にはないよね?そんなの?
とりちゃんは肩に停まって毛づくろいをしている。
働いているのはねずみんだけだね!
ヘビが出ることが多いなぁ……。
簡単に始末できるけれど他に何かでないのだろうか?
もしかしてねずみんが斥候しているからヘビが寄ってくるのかな?
小動物はヘビに食べられるのを恐れて逃げてしまうから出会えないと。
ありえそう。
まぁ、いいか。ヘビなら何匹いても処理に困らない。
丸のみ攻撃が小動物に厳しいだけで基本害はないもんね。
普通のプレイヤーの場合このヘビ戦いに来るのかな……?
来そうにないよね。死にに行くだけになるもの。
それにしても見当たる木はほとんどブナ科かマメ科……
バラ科と思しき木が全然見当たらない。
ある程度の光が差し込む茂みに多いかなと思っているのだけれどなかなか見当たらない……。
こんな平日の朝には誰も居ないものです。
ヘビに絡まれすぎてもう小枝拾いじゃなくてヘビ狩りに来たのかと思う。
気分を変えようとその場で深呼吸して胸いっぱいに空気を吸い込む。
ついでに体を後ろに反らし手を後ろへ伸ばし全身を伸ばした。
本来私が嗅ぐことができる林の匂いよりもはるかに強い匂いに不意を打たれた。
草木に混ざって糞尿の類の匂いが鼻について痛かった。
現実でとても汚いトイレに遭遇した時と似たような感覚……。
思わずバランス崩して尻餅ついた。鈍くさい。
せめてよろつくくらいで済ませて欲しかった。
この嗅覚上手く使うことができるだろうか?
出来たらこの林で探し物が容易にできるようになるかもしれない。
現実では使えない能力だけれど面白そう。
手がかりなしで歩き回るのはもう飽きたのだ。
それにしてもこのゲームの現実再現率の高さは異常だなぁ。
前のゲームはそこそこだったけれど嗅覚や味覚、涙の実装はなかった。
涙はともかく嗅覚や味覚は情報量が多く処理はしてられないと思ったのだが。
あればかなりやり込むメリットになるのは確かだ。
ゲームのシステムとして扱う以上その感度にあまり差はつかないだろう。
味覚異常の人でもゲームの中でなら人と同じものをおいしく感じることができるはず。
嗅覚異常でも同様。
人と同じ感覚を楽しむことは共有出来ることを増やすことができる。
ゲームで関わった人と楽しめることや話を楽しめることはそれだけでも居つく人が増やせる。
話ばかりしていてゲーム全くしてなかったなんてことだってよく聞く話。
まぁ、そんなのはどうでもいいのだ。
嗅覚や味覚があるのだから料理はかなり楽しめる。
それで話はおしまいだ。
糞尿はさておき草木の匂いを分類していく。
近くの草木に鼻を近づけ匂いを嗅ぎ匂いを覚える。
低木にはマーキングが多く嗅ぐとかなり強い匂いにやられた。
素の価値観の影響か匂いや味に強いこだわりはない。
あまりに強い匂い、辛味、苦み、強い塩気には涙が出たり吐きそうになったり拒否反応が出る。
けれどそうでなければどんな変な味でも食べたり近寄ることはできる。
ただしタバコは無理だ。嗅ぐと頭が痛くなる。お酒を飲むときに嗅ぐと足元がふらつく。
なのでこの程度の匂いではまだ大丈夫。
嫌うあまり好きになるなんてこともない。
嫌いだけど近づく機会が多いから好きにならなければやっていけない。
なんてことは私にはない。嫌い自体が少ないからね。好きもないけど。
ここに来てからまだ判明していない匂いを追い続けるとようやくバラ科らしき木を見つけた。
日が差しそうで差さない微妙な暗がりに生えていた。
他の科の植物と照らし合わせ検証し一致しないことを確認。
バラ科特有の個性だ。共通する性状がないという。
それは割と太い木で果実が期待できそうな種類だ。
小学校の頃木に生っているスモモを食べるために木に登ってた。
枝が太く数が多かったのでそこで小1から小6までよく昼寝していた。
懐かしい。
……そのころからボッチだったな。
木に登り葉を集める。
調べたときに紅茶の葉などで燻製する方法など見ていたので出来るかどうか気になるのだ。
地面に落ちたのでやる気はない。
乾いたり状態としていいのは地面に落ちているのだろうけど。
木の枝も集め林の用は一先ず終了。
次は川原だ。