30、自身を把握しよう
どうすればいいのだろう……。
たぶん相手は何も求めていない。
だから分からない。
分からないから怖い。
何か行動しないといけない。
でも行動する指針が立たない。
雑談と同じだ。
「なぁ、本当に泣き止んでくれないか?」
相手が何も求めていない。
強いて言えば楽しい時間を求めている。
楽しい時間の指針は何?
「ダメだ、変顔しても笑ってくれない!」
周囲が笑顔している時私も笑っておく。
何が楽しいかが全く分からない。
内容もない話。
声のトーンの高さが重要だろうか?
動作を大きくしたりするのがいいのだろうか?
「さぁ、僕のところに来たまえ!」
分からない。
話をつなげられない。
やはり私はこういう機能が育っていない。
1人で居すぎた。
人付き合いの能力が欠けてる。
「スルーされた」
「野太い声で女が呼びかけてきたら俺でもスルーする」
頭の回路は使うことにより育つ。
使おうと思うものほど育つ。
義務感でやっているものでも真面目にやれば育つ。
作業でやっているものは回路が育たない。
勉強の物覚えが顕著に表れるものだろう。
体の操作だってそうだ。
使わなければいけないと思うものは回路ができる。
1度回路が出来てしまえば繰り返し同じことができるようになる。
上手く使うことを意識すればより使い勝手がよくなる。
「真面目にどうする?」
「泣き止まないよな……」
「無表情で泣き止まないね……」
「これってもう放心状態じゃないのか?」
「だろうね……」
「俺たちが原因だよな?」
「そうだと思うよ」
「何かしたわけでもないしここにいても状況は変わらない。
俺たちがいなければ治る可能性が高いと思う」
私は回路が出来てすらいない。
使う機会も少なく無くても困らなかったからだ。
社会に出てから鍛えだしてもそこまで伸びはよくない。
子供の時のほうが回路を新設するのは容易だからだ。
学生時代にもっと人と話せばよかった。
私は何をすれば正解?
「……?今現実で何時だっけ?」
「午前2時」
「彼女って子供じゃないの?
なんでゲームできるの?」
「家にあるんじゃない?」
「あれ高くなかった?」
「100万以上する気が……」
「それを買える程の財力か……」
「箱入りお嬢様なのかな?」
「さすがにネタ装備つけた人に囲まれたくらいであんな風に泣く大人はいないでしょ?」
「だね」
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気が付けば変態さん達はいなくなっていた。
そして自己嫌悪。
ゲームとはいえ女の子に泣かれたら非常に困ります。
それを私がしてしまったのだから。
アバターが少女とはいえ中身はおっさんだ。
考えるだに気持ち悪い。
次はこんなことにならないようにもっと人とコミュニケーションをとれるようにしなければ。
こんな自分は嫌いだ。今の私は人間じゃない。人間に成れていない。
人間に成らなければいけない。
きちんと人と付き合いをもてるように。
私には柔軟性が足りない。
即応できない。
頭の中で考えてから話そうとするのでシナリオを作れない会話が出来ない。
もっと柔軟に人と話せるようにならなければ。
人と話す経験が足りていない。
読書ばかりで人と話をしていない。
人間力に欠けている。
ソロはするべきじゃなかっただろうか……。
人に雑ざってプレイヤーとパーティー組んでいくべきだっただろうか……。
前作ではウィザートで戦っていたけれどパーティー内で上手く会話が出来なかった。
私の話すことが全てゲーム内のことだけだったからだろうか。
行動にネタが少ないから、あいつはゲームに本気過ぎて何か怖い。なんて掲示板に書き込まれた。
掲示板に書き込むほどだったのか。と思いゲームから足が遠ざかった。
今回も掲示板ネタになるのだろうか……。
いぬくんに顔を舐められた。
ねずみんが手に頭をこすりつけている。
とりちゃんが肩でひよひよ鳴いている。
いつの間にか体が動くようになっていた。
彼らの行動に緊張がほどけたからだろうか。
出続けていた涙も止まり疲れがどっと来た。
いぬくんに絡みつき抱きしめる。
幼女の姿だから見られても恥ずかしくない。
ねずみんが新入りに裏切られた!とでも言うかのように顎を落とすのが見えた。
駆け寄ってくると腕の隙間に頭をぐいぐい突っ込んできてくすぐったい。
とりちゃんは相変わらず肩の上で鳴いている。
どこか子守唄のようなリズムだ。
しばらくすると林の中なのに寝落ちてしまった。
カフェの制限時間10分前コールで起こされるまでそこに居続けてしまった。
せっかくのゲーム時間が睡眠に使われてしまうなんてもったいない。
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私は職場の人ともっと話せるように努力をしよう。
挨拶と連絡事項以外滅多にしゃべらないなんて同僚としておかしいだろう。
お酒を飲んでも酔えないのは普段から隠していることがないせいだ。
相手に対して何も思っていないから普段言えないことがない。
お酒は肝臓で処理できない分は血中に回り脳の表層から浸かっていく。
脳の表層は大脳辺縁部。
言語や会話、複雑な感情などを司る場所だ。
深層に行くに従い体の維持機能に影響が出る。
お酒の飲みすぎで暴れるのは辺縁部に一時的障害が起こり原始的な感情、喜怒哀楽が表層に出てくるから。
足がもつれるのは小脳もつかり一時的障害が起こりバランス感覚を失うから。
お酒を飲んでいる時の記憶に影響が出るのは海馬などにも一時的障害が起きて短期記憶が正常に作動しないから。
脳幹にまで浸かりきれば呼吸などにも影響が出るので下手すれば死ぬ。急性アルコール中毒。
酔えないんじゃなくて普段から喜怒哀楽を表に出しているから今更なのだろう。
私は普段から酔っぱらっているのと同じなのだ。
私は大脳辺縁部を使う訓練をしなければいけない。
そうしなければいつまでも幼いままだろう。
大脳辺縁部を使う訓練……。
他者との共同作業。
出来るだろうか……。
これってパーティープレイという意味だよね。
まず組む相手がいない。
あ、話が終わってしまう。
自分から絡んでいけ、っていう声が聞こえる気がする。
絡んでいって迷惑がられるのが目に見える……。
気にしすぎ、っていう声が聞こえる気がする。
しかし気にしなかったらしなかったで問題だ。
とりあえず当たって砕けろ、っていう声が聞こえる気がする。
砕けるも何も当たり方が分からない。
時折学生時代の知り合いの恋愛話を聞く。
女子の方は、誰それと付き合ったのだけれどこんなところが悪くて萎えた。
男子の方は、彼女ほしい。誰それとかよくない?とか彼女にするならこういうのはないよな。とか聞く。
そんな話、私にふられてもまるで返せないのだが……。
聞く人がいることが望みなのだろうと思いながら相槌を打ち1言添えて返すようにしている。
1言はオウム返しになりがち。
私がいる意味あるのか気になる。
まぁ、相手がすっきりした顔になるので対処法はあっているはず。
私はペットか何かか。
一応記憶に聞いたことは残ってしまっている。
まぁ私が聞いたことをを誰かに話すことはない。
そういう意味では秘密の共有者として適当なのだろう。
ただこういう話を聞いた後でその話の人に出会うと引いた態度になってしまう。
ボッチ度が上昇してしまう!
……隠している情報がお在りじゃないですか。
隠している気になっていなかったんですね。
知り合いにしても言葉を喋らないペットみたいな扱いが出来て愚痴を聞いてくれる人がいるのは楽だったんだろう。
私はどこに立っているんでしょうかね?
立っている位置の次元がずれている気がします。