3、洗礼
ダイブして初めに目にしたのは白い道。
壁や天井は境が分からない。白い。
影の1つも出来ればわかるのに。
出口まで幅10m、長さ50mくらいの道だろう。
おそらくここは歩くことに慣れるための場所だろう。
私はちびっこからのっぽまでゲーム内で動かしていたことがあるため動きには特に問題がない。
視界には上から順に緑、青、赤のバーと小さなスマホのようなマークがある。
前作までの流れだとHP、MP、SPに値するものだと思う。
スマホのマークをタップすると空中からスマホが落ちてきて目の前で止まった。
スマホをつかむと普通のスマホのようになったので操作した。
登録認証などを行うとステータスを確認した。
初期に振れるステータスポイントがあるはずだからだ。
ストーリーを進めればNPCの誘導ですることになる。
誘導される前に全て終わらせてしまうことでその場面をスキップすることが前作では出来た。
忍者物の時はA振りで全回避が出来た。
棒立ちでも攻撃が躱せるようになり、後は何も考えずに攻撃すれば敵が死ぬ仕様というもの。
先に行くほど必要Aが上がり装備補正など最高状態ではたいていの敵がそういう状態になる。
引退した時はA最高状態でも全回避状態にならないボスがいたとWIKIで見た。
ファンタジー物の時は火力振りが最高だった。
攻撃範囲が視覚的に分かるからその範囲から外れればいいので回避は簡単。
火力振りでよかったのだ。
今回はどうするか。
レベルでステータスにかかる基本倍率が上がるので、極振りしても動けないなどの問題がでない仕様だ。
装備による補正でステータスの調整を行い、敵の攻撃力を1撃だけ防げるHPや防御力に整えたり、敵の素早さから自身の素早さを調整したり、……とにかくいい補正の装備がなければお話にならない。
先へ進むほど補正から考えた装備の構成を必要とするようになるのだ。
今回も極振りで行こう。
火力は高い方が戦闘が短く終わるので忍者物の時でも外れ扱いされることはなかった。
敵の防御力などを考えると半端な振り方をしても意味がない。
攻撃を受けないために幻術使いでいくのだ、AよりI極だな。
支援特化だ。MPや詠唱速度、CTがよくないと困る。
MATKも上がるので私自身も火力となることができる。
M振りをするとⅠよりもMPは増えるが詠唱速度やCTに影響しないので今回は振る気がない。
M振りはMDEFが上がる。
A振りはAGIが上がる。回避率にも影響するかどうかは今回は不明。
SやⅤ、D、Lは私に関係が薄いので省略。
スマホをいじりながら、走らずのんびり出口までいくと、ストーリーが始まった。
木製の門、自然あふれる空間、土臭い田舎の空気、佇む西洋的な顔した金髪碧眼の女性。
「こんばんは、君は誰だい?」
NPCに尋ねられたのでスマホの中にあったチャットに文字入力して送信すると顔の横に文章が入った吹き出しがポップした。
爪が割と邪魔……。
相手を見ないでスマホを打つのは失礼なのでブラインドタッチで打ち込んだ。
「テン子ちゃんね。ここは冒険者学校だからわからないことはあそこの人たちに尋ねてみようか。
聞きたいことがなくなったらそこの練習場で武器の貸し出しと鍛錬が出来るからそこで自分を鍛えるといいよ。
条件を満たしてあっちにいる人に尋ねれば特別なスキルをもらえるから」
人がいると言われた方を見れば施設があった。
聞きたいことは特にない。
きっといつもと同じゲーム初心者向け講習くらいしかない。
ストーリーを進めるために練習場に向かった。
練習場は初日のためこの時間でも人で混んでいた。
チャンネルを変えて空いてるところに潜り込みカウンターに向かった。
木製のカウンターに禿頭の坊さん。
今回の世界には宗教があるのだろうか?
青い目の坊さんは線が細くストイックな印象を受けた。
「嬢ちゃんはどんな武器が好みなんだ?」
渋い声です。うらやましい。
私は自分の声が嫌いだ。
カラオケの練習のため録音して聞いたらどこの異星人が喋っているんだと思った。
録音したのがスマホだったからそこまで悪い音質ではないと思う。
電話口で親類に兄と間違えられるからそれまで安心してた。
けれど自分が録音した声がそこそこ高めの声で気持ち悪く感じてしまった。
兄のように声が低くない。
声がいい人はとてもうらやましい。
武器は支援魔法などに補正がありそうな杖を選択した。
杖をカウンターで受け取ると人がいない奥に向かった。
個室のような空間に入るとアラームが鳴った。
どうやらメールが届いたようだ。
メールを読むと訓練所のスライムと戦闘しろと書いてある。
ま、やるか。
メールの受諾をプッシュしてみると地面からスライムと思しきものが湧いてきた。だいたい直径70㎝くらいの大きさだ。
保冷剤の中身のゲルみたいに見える。
スマホを操作すると所持スキルの項目がある。
所持スキルの中にマナバレッドというスキルがあったのでアイコンをタップして使った。
杖の先からバレーボールサイズの白い球が出ました。詠唱時間はなし。CTは10秒程。
杖をスライムに向けて構えていなかったため、白い球は見当違いの方向に飛んでいってしまった。
白い球は壁にぶつかって消え、壁には何の跡も残さなかった。
私はマナバレッドを今度はスライムに向けて使った。
白い球はスライムにぶつかると破裂音と共に消えた。
スライムは身体の1部を吹き飛ばされ削れていた。
HPとかあるのだろうか?
過去作では出ていたバーがないから判別がつかない。
5撃するとようやく倒れたようで地面に吸い込まれるように消えた。
CT待ちで時間がかかった。
アラームが鳴った。またメールが届いたようだ。
ストーリークエスト完了
ドロップ
なし
アチーブメント
訓練所のスライム討伐
1分以内討伐
スキルのみ討伐
非接触
反撃させない
訓練所のスライムと再戦しますか?
スマホでアチーブメントの項目を開くと討伐の項目があり報酬として経験値をもらった。
スキルを使わずに再戦してみた。
杖で掬って壁に投げつける方法で5撃すると壁にしみこむような感じで消えていった。
ドロップ
なし
アチーブメント
30秒以内討伐
通常攻撃のみ討伐
攻撃ノーミス
地形利用
訓練所のスライムと再戦しますか?
一度もらったアチーブメントはもらえないようだ。
経験値はアチーブメント以外に戦闘ではもらえないようだ。
パーティーを組むことでただ経験値を享受する寄生を排除するためだろうか?
アチーブメントを達成すればPSも自ずと上がっていくだろうという判断だろうか?
経験値集めはモンスター巡りしないといけないのだろう。
ドロップは別枠で存在することからお金稼ぎのためにある種のモンスターを狩り続けることはあるだろう。
ただ倒すのはダメ。それだけでは出るアチーブメントも少ない。
モンスター討伐のアチーブメントだけは経験値が少なかった。
寄生するとモンスター討伐のアチーブメントだけがつくのかもしれない。
それだけではレベルがあまり上がらないように調節されてるのかもしれない。
さまざまなパターンを試していかないといけないのか。
寄生の人、大変だな(棒)
何戦か繰り返したところで入手できるアチーブメントがなくなった。
討伐速度、戦い方が評価されるようだ。
大体の感覚も分かったのでNPCの女性が言っていた施設に向かい入るとまた坊さん登場。
NPCの女性お前だけ違和感感じるぞ。
「資格所有者だな。ここで第1次転職を担当させてもらう、ニコルという。
あまり会うことはないと思うが宜しくお願いしよう」
坊さん……あんた、外国の人だったのか。
坊さんの前に向かうと職業について色々言われたが既に決めていたことだ。
サモナーに即決した。
頭を振りながらそれは険しい道だ、考え直せなどと言われたが顔文字でチャット流しして無理やり押し通した。
しょうがないと諦めたニコルさんは私に手をかざし何やら唱えると水が噴き出しずぶ濡れになった。
洗礼のようなものだろうか?
スマホを操作するとステータスの職業欄がノービスからサモナーになっていた。
水は私が濡れたと認識した瞬間から消えた。