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106/110

106、ボストンボ戦終幕

 周囲の肉を抉り1部をつかむと私は辺りに石の幻影をばらまいた。

 普段の癖で思わずの行動だった。

 幻影に隠れながらクローで攻撃したりしていく以外あまり有効な攻撃手段がないというのが大きい。

 だがやってからこれが悪手だと気づいた。


 息を潜め、ズルッ……ズルッ……という音の鳴る方に私は注意を向ける。

 ここは体内。そもそも暗闇に近い。

 半透明の幻影でも先を見えなくするには十分であり、私は自分で自分の首を絞めてしまっていた。

 敵が視界に頼っているなら同じように視界が効かなくなることだろう。

 だがこの空間にいる存在が視界に頼っているとは思えない。

 視覚以外の手段を頼っているだろう相手に、視覚に頼りがちな私が自身の視覚を封じてしまった。


 敵は何か、それすら確認出来ていない。

 ここは気管だと予測している。

 だとしたら敵はゾンビどもだったりしないだろう。

 ボスグモやボスガニのように子供だということも考えにくい。

 いるとしたら……寄生虫か。

 このズルッ……ズルッ……という音はボストンボを相手に吸血している音なのだろうか。

 だとしたらノミやダニの類だろうか。

 いやでもお腹などを引きずる音の方が自然な気がしてならない。


 ……あれ、本当にそうかな?

 この地面は柔らかく湿り気というかぬめり気を帯びていて、引きずっても音が出るとは思えない。

 やはりこの音は吸血している音?


 うーん?いや、ざらざらしたお腹だったら擦ればそんな音が出るのかもしれない。


 ざらざらした……ということは、硬い外殻か。

 ズルッ……ズルッ……という間隔が開いた音の響きからして移動は反動をつけて行うものだと思う。

 もしくは間隔を開けなければ動けない、例えばミノムシのように体の周りにゴミなどで外殻を作って自分の足では動かないタイプ。

 糸を使い周りの物に吐きつけては糸を巻きつけその場所に引き寄せ、また別の場所に糸を吐きつけて進む。

 そういうタイプならこういう音を出すかもしれない。


 今考えていなかったようなタイプの敵だっていう可能性もかは考えられるんだ。

 どんな敵だろうと考えられる。

 どの敵なのか見当がまるでつかない。


 とりあえずこの状況を考えるとスペードさんに連絡した方がよさそうだ。

このまま戦闘すれば負けることは容易に想像出来る。

万一勝てたとして時間が大変だろう。


「すみません、すみません、こちらテン子、スペードさん拝聴よろしくお願いします。

 こちら接敵の可能性大、こちら潜入時に足を負傷。

 勝率は低。内臓の破壊の余裕はなくなり、もしかしたらデスルーラされる可能性もあります。

 外部から攻撃を要請します。

 外部から攻撃し対象の撃破を行ってください」


「こちら、スペード。了解しました。

 ボスの討伐を開始します」


「協力感謝いたします、スペードさん」

「揺れるだろうけどがんばって戦って勝ってくださいね」


 あ、ボストンボが戦闘したらここも揺れるのは当たり前か。


「なおさら早く決着をつけてくださいね。

 そういう動きには敵の方が慣れているだろうし、対応が難しくなりそうですから」

「OK、オーダー入りました。

 メニューは手早くで」


 あー、料理人っぽいかも。

 私は軍服みたいな制服を着ているけど、スペードさんは料理人風でしたね。

 夜目には分かりにくかったけど藍色の服でしたっけ……。

 あ、藍染めの服には抗菌作用があり、日本の料理人は好んで着ていました。

 それに倣ってスペードさんも藍色の服を着ているんでしょうか。

 侍の料理人みたいな感じだったかな?

 洋風の白い制服じゃないし、和食を中心に料理するのかな?


 いや、今はそんなこと考えている時間じゃない。


 私は視界の片隅にある時計を見つめた。

 ゲームからログアウトして準備して会計をして……それから仕事に向かうからえっともう戦闘している余裕は20分とない。

 このまま待ちの姿勢で戦っていたら時間切れでゲームオーバーなんです。

 もう本当に時間に余裕がないんです。


 進め、戦え、そこに何がいようとこのクローで切り裂けない敵ではないはずだ。

 攻撃を受けたら残りのHPからして死んでしまうだろう。

 待っていたら時間切れ、攻撃を受けたらHP切れ、速攻で敵を仕留めないと私に活路はない。

 敵が見えない?何かわからない?それで恐れていたら先に進めません。

 人生も同じじゃないですか。


 不意に出てくる事故や人物は想像しきれない。

 それを怖がって歩みを止めてしまえばタイミングを逃して今を失うことすらある。

 歩みを止めることを恐れよ。

 歩みを止めれば違う道を探さなければいけない。

 今の道を進みたいなら歩みを止めるな。

 先へ進むことが重要なのだ。


 クローを壁に突き立てる。

 クローの切れる方向は決まっている。

 クローが切れない側面で壁を押せばその分身体が前へと進む。

 私のこのアバターの力は強い。

 装備の力も大きい。

 腕の力だけでも両腕をしっかりと動かせば走るかのようにスピードを出せるはずだ。

 壁を伝っていけば跳ねるように動けるはず。


 腕を振る。

 引っ掛けた肉を押し、先へと身体を飛ばす。

 動かない足が宙に舞う。

 身体が舞う。

 初めにクローを引っ掛けた方とは反対の腕を壁に向かって振るう。

 そして肉を引っ掛ける。

 先へと身体を飛ばす。


 もはや無我夢中で身体を動かす。

 不意に視界に幻影とは色の違う大きな塊が見えた。

 あれが音の発生源に違いない。

 私はそれに向かって跳ねた。

 そしてその勢いのままその塊にクローを突き刺した。

 跳ねた勢いで身体はクローを中心に回転した。

 クローはそれをわずかにえぐるだけしかできなかった。


 私はそれを近くで見た際に確認した。

 それはダニやノミのような生き物だった。

 切り裂いた部分は吸血した体液が溜まる場所。

 袋のような形状で臓器がない場所だ。

 生命維持には関係のない場所だ。

 あれらの虫は頭部以外に潰して効果がある場所は少ない。


 私は再度突っ込む。

 しかしその姿が掻き消える。

 私はその虫がいた場所を通過すると背後にズンッっという音が聞こえた。

 跳ねたのだろう。


 私はさらに跳ねる。

 ボストンボの身体も戦闘しているのか時折鳴動する。

 けれどそれは途中で止まった。

 これはボストンボが死んだことを示しているんじゃないだろうか。


 虫を追いかけ壁を切り裂き跳ねる。

 ボストンボの透明な血が舞う。肉が舞う。

 虫は跳ねて避ける。奥へ行く。

 私は追い殺そうとする。


 虫も最初の攻撃で受けた傷から血を垂れ流していた。

 徐々に動きが鈍る虫に、とどめをさす。

 時間はぎりぎり。


 不意にアラームが鳴る。

 メールが届いていた。

 内容は川原のボスの討伐成功だった。

 あの虫を殺さないと川原のボスは討伐したという扱いにならなかったのかもしれない。

 ……もしそうだとしたらひどいですね……。


 けれどこれで本当にボストンボに勝てたのだ。




 私がボストンボの身体から出てくるとスペードさんが駆け寄ってきた。


「お疲れさま。どんな敵だったの?」

「虫です。ノミかダニみたいな虫でした。

 おまけによく逃げるので大変でした。

 それとすみません。時間が大変なのです。

 挨拶もお礼もあまり出来ていませんが先にログアウトしてもよろしいですか?」

「あ、はい、いいよ、お疲れさまでした」

「お疲れさまでした」


 私とスペードさんは急いでボストンボなどを分配し通常フィールドに戻ってきた。


「すみません、急がせてしまいまして。

 もしまた会うときあればまた遊んでください」

「いえいえ、こちらこそ面白い経験をさせてもらいました、ではお疲れ様です」

「お疲れ様です」


 私はログアウトすると急ぎ支度をし職場へ向かった。


 次は新しい街で魔法の入手だとかイベント盛りだくさんです。





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