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104/110

104、ボストンボ戦4

 ボストンボは空中で身体を丸めた。

 そして頭を足の方に向けて自身の脚を確認し、足に向かってそのアゴを開いた。

 ボストンボのアゴはカマの如く鋭くそして太い。

 そんなボストンボのアゴが眼前に迫り、そして目の前で閉じられていく。

 私は今出来る回避策もないし、ぶつかるだろう瞬間、思わず目をぎゅっと閉じてしまったが、アゴが閉じられるガツンという重い音が聞こえた後も私は生きていた。

 目を開けてみればボストンボのアゴは私の身体から1m程離れたところで閉じられていたのだった。

 もしも前足の鉤爪に引っかかっていたら、今のでアゴが私へと届き終わっていただろう。


 セーフ。……ギリギリセーフ……。


 私は両手を上へと伸ばし、より深くより深く、足の甲殻を抉っていった。

 角度が浅く、甲殻の表面を削るばかりで、なかなか殻の中には届かない。

 ボストンボは身体を丸めアゴを何度もガチガチさせていたが、私には一向にそのアゴは届かなかった。

 私はその音を無視するために、より一層作業を急いで進めた。


 両手のクローを振るい抉り続けていると、急に身体にかかる力が反転した。

 首元にかかっていた力がなくなり、瞬間、無重力を味わうと再び首元へと自身の体重が襲いかかる。


 身体が小さくてよかった……。

 大きかったり重かったら今のでけっこう痛い目にあってしまう。

 次がないとも限らないので、むしろあっておかしくないので、身体の近くでクローを振るいその根元まで甲殻へと埋めた。


 私がクローを埋めると、ボストンボの身動きが急に激しくなり、上下左右いろいろな方向へ身体が流された。

 身体をぎゅっと縮めて足にしがみつくけれど、何度も身体が離されかけた。


 ボス牛のロデオの時は上下だけだったけれど、今回は左右どころか上下反転まで含めたシェイク。

 トンボの鉤爪が装備から外れ、私の身体を支える手段はクローだけになってしまった。


 本当に備えていてよかったです……。

 クローを深く差し込むのが少し遅かったら、地面に叩きつけられ死んでました……。


 少し安堵していると急に下半身に衝撃が走り、視界のHPバーがオレンジ色に変わる。

 下半身が損傷、回復まで使用不可。

 そんな文字がログに流れた気がしたもののしっかり確認する前に、スペードさんの安否を尋ねるコメントが押し寄せ流された。


 何事?


 一瞬そう考えたものの、周囲を見渡し気づいた。


 さっきよりも地面の流れる速度が速い。

 それとまだまだ速くなっていく。


 ……宙返りなどで振り落とせなかったからか、ボストンボが速度を上げているんだ。

 そして音速によって空気は固体のようになり、私にぶつかり損傷を負わせたのか。

 固体と化した空気はぶつかると砕けて横に流れ、そしてその前にある空気が固体と化してまたぶつかると……。

 ぶつかる度にダメージを受けるみたいですね……。

 そしてあまりのダメージに痛覚が作動する前に遮断されたみたいですね……。


 ヤバい。


 トンボの足からはみ出ていた私の足は打撲傷により損傷し使えなくなったみたいです。

 もう腕の力に頼るしかありません。

 今も腹部がはみ出しているためか、徐々にHPが減っていて、このままだと死にます。

 痛覚の設定はきれているのか、物がぶつかる感覚が一定間隔であるだけです。

 でもこのままだと死にます。

 またおばあちゃんに出会ってしまいます。


 私は右手のクローに全力でしがみつき、左手で殻を抉り切った。

 先程までは背中にあったので抉りにくかったけれど、今回は身体の前方にあるから深く抉ることが容易に出来た。

 ボストンボの体液が噴出し生臭い臭いに内心悶えたものの、その透明な液体を掻き分け抉って、穴を私が入れる程度に大きくした。


 ボストンボの体液を身体に浴び、生臭さに涙目になりつつ、クローを甲殻の内側から突き立てながら這い進む。

 皮膚に付着してもぴりぴりしたり表面が溶けたりしていません。

 体液に毒性はなさそうです。

 体液に毒性があったらジ エンドでした。

 ただ……。


 べとべとです。なまぐさです。ぬるぬるです。

 気持ち悪いです。

 たぶん酸化が激しくなるとより臭いがきつくなるんですね……。

 これがまだヌルいレベルのなまぐさです……。

 まだ買ったばかりのお肉程度の臭いです。

 買ったばかりのお肉を包丁で切って、その包丁に鼻を近づけた時くらいの臭いです。

 腐敗臭ではないけど臭いんです……。

 生臭いんです……。


 後で制服を洗濯しないとだ……。

 この臭いって落ちるのかなぁ……。

 タンパク質の汚れはキウィの汁がよく分解出来るけど、ダイコンとかパイナップルとかも使えるよね。

 ダイコンおろしをつけて、ラップして、日向とか温かい場所に半日置いておくのが個人的に一番楽……。

 いや、これは現実だとの話ですね……。

 さっさと終わらせて水洗いしてタンパク質をそもそもくっつけないようにしないと!


 クローを突き立てることで甲殻に穴が開き、そこから空気が入るので、その穴から息継ぎをしながら私は這い進んでいく。

 息を止めたらたぶん死にますよね……。

 視界に残り時間はどのくらいっていうカウントダウンがチラチラ見えてます……。

 このカウントダウンが尽きた時死亡扱いなのでしょうか。

 深く息を吸い込めば上限が伸びるので呼吸に関する情報なのでしょうけど。

 このカウントダウン、単位がミリグラムなのが気になります。

 肺の中の酸素の量を示しているのかな?

 移動速度を上げるとカウントダウンが早まるし、無呼吸時の活動限界を示しているとは思う。

 ……これってけっこう重要なポイントかもしれない……。


 それにしても足が動かないというよりも感覚がないので恐いです。

 打撲傷のため、流血がないので、継続ダメージはないですが、部位損傷は恐いです。


 回復手段が欲しいです。

 何らかの方法で治せるはずなので特に。

 戦闘が終わればHPはともかく部位損傷が治ることはボス牛戦の時に知ってはいますけど、戦闘中に治せないとつらいです。

 魔法を使えば治せるのでしょうか?

 部位損傷はHPの回復より上位の魔法が必要そうですね……。


 途中から甲殻の内側表面や甲殻の内部中央部に、ぐにぐにした感触の物が行く手に現れたので切り裂き這い進む。

 たぶん筋肉です。問答無用で切り裂きます。

 関節部分付近には硬めの筋肉が多いです。

 でもこういう場所を寸断しておけば地上で戦っているスペードさんやからすみ、ぬこにゃんが少し楽できるようになるんです。


 ぐにぐにした触感は伊達ではなく弾力性に富んでいて、突き刺すのも一苦労ですが切るとなると更に大変です。

 たわんだヒモをカッターで切るのは本当に大変ですが、ヒモがたわんでいようがハサミであればそこまで気にせず切れますよね。


 手首で腕を交差させ、手の甲を内側にクローを互い違いに組み合わせると、クローの刃と刃の間に筋肉を挟みます。

 そして両腕を身体に引きつければハサミの如くクローは動き、筋肉は寸断されるのでした。

 クローが鉤爪であるため筋肉が刃から逃げ出そうとしても逃げれません。


 甲殻のトンネルは徐々に広くなり、筋肉の量が増えてきました。

 壁沿いに行っていると時折筋肉に押しつぶされ身動きが取れなくなります……。


 辛うじて生き残り胴体へと到着した時、急に身体がふわっとしてきました。


 足の付け根の近くにある筋肉ってなんですか?

 足と羽を動かす筋肉です。

 それって?

 今の行動でぶちぶち切りました。

 そうすると?

 足や羽が動かなくなり。

 動かなくなり?

 飛行不能に陥り。

 お、陥り……。

 墜落します。

 墜落したら私は?

 トンボと一緒に落ちます。

 ……落ちたら?

 残りHPからして死にますね!

 ちなみにボストンボは?

 墜落した高さによっては死ぬかもしれませんが。

 が?

 たぶん生き残るでしょう!

 おぅ……。


 脳内でエチュードが繰り広げられた。

 危ない時ほどハイテンションのナビさん、あなたのお名前なんですか?


 落下の衝撃に耐えるにはどこに行けばいいか?

 柔らかい物が身体の周りにあればクッションになってくれる可能性が高い。

 つまり胴体の中央部。


 私は甲殻に開けた穴から鼻を出し深呼吸をした。

 そして息を止めて胴体の中央部へとクローを使い肉を切り裂き、掻き分け、引っ掛けて、泳ぐように進む。

 肉の弾力が身体を中々前へと進ませてくれない。

 さっきまでは甲殻という硬い物があり、クローを突き刺し腕を曲げればその距離だけ前に進めた。

 けれどこの肉の海では身体を支える硬い物はない。

 筋へとクローを引っ掛けても、ぐにぐにしたすじ肉はクローを弾き、すり抜け、徒労を行わせる。

 苦労して進んでも、肉が身体にまとわりつき、進んだ分だけ後ろに押してくるため、その場所にいるだけでも力を入れていないといけない。

 水と違い腕を回すことも非常に難しい。


 墜落までの残り時間はどのくらいだろうか?

 この場所はどの辺りだろうか?




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