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101/110

101、ボストンボ戦開始

「なんだよ、これ……」


 愕然とした顔でスペードさんがそう呟きました。

 早々に過去の自分に手紙を書き上げ、諦めの境地に達している私はピピピと打ち込んで告げます。


「いつものことです」


「いつも!?」

「いつもの如くイレギュラー個体です」

「……いつも出るんならイレギュラーじゃないんだよ?」

「では私にとっては通常個体です」


 横で驚いてくれる人がいるとすごく落ち着けます。


 霧のせいで全貌が把握出来ないとはいえ、旅客機サイズのトンボっていうのは確かだと思う。

 大き過ぎます。

 白い個体で霧の効果もあり非常に視認しにくくなっています。

 やばいです。

 霧という気象も危険です。幻術スキルが使いにくいです。

 もし霧という環境に適応したあのトンボが視覚に頼らない方法で知覚していた場合、幻術スキルは無用の長物とかします。

 私の存在意義が大分危ういです。


 大きいということは強い。

 蟻の百歩よりも象の一歩。

 大きくなればそれだけ速度も上がります。

 あのトンボはどれほどの速度を出すことでしょうか。


「どうしたものかね」

「頭と胸部の破壊しか選択肢ないですよ」

「それにしたってな」

「あまり声を出すと見つかる可能性が高いです」

「……テン子さんはいつもこういう敵と戦うのかい?」

「さっきも川原でボスカニが大軍になってましたよ」

「……ドンマイ、いや、デスペナがかかってない?まさか……」

「勝ちました」

「すごいな」

「2時間がかりとノロマです」

「……ドンマイ」

「後であの量を解体するのが大変ですよ……」

「まさか全部手作業で?」

「貧乏性でドロなしがあるのは気にくわないのです」


 倒すのは時間がかかるし、それでドロなしは骨折り損のくたびれもうけですもの。

 子ガニを倒す時カニの足を傷つけてはいないので、カニ足だけは確保しないともったいない。

 ……後でカニ足パーティだ!イェイ!(じと目)


 真面目な話、カニの甲羅とかをすり潰して、粉状のキチン質でも集めようかな?

 ボスガニの子ガニだけの有効成分が!なんてあったらいいなぁ。

 キチン質って体の自然治癒力の上昇、免疫力の上昇、血圧の下降などに効果があるみたいです。

 漸次型回復薬とか作れないかな?

 カニ殻って出汁を採るのに使うことも出来るし、ムダにはしたくないですね。


 それにしてもまた謎の思考猶予タイム。


 身動きをせずにジッとしているせいか、何らかの躊躇があるのか、ボストンボは未だ動きがない。


 複眼は多数の写真を並べて違いを探すことで動体を見つけるという仕組みだ。

 つまり動かない場合、写真は全て同じ画像となり、動体が見つけられない。

 トンボの目の前で指を回すと捕まえやすいというのは、指を回すことで前後の写真が比較しにくくなり混乱が起き、遠近感が把握しにくくなるからである。


 大きいということは、複眼の1つ1つが大きくなっているか、その数が増えているかが争点になりそうだ。

 たぶん数は増えないだろうと思う。

 キリンの頚椎、つまり首の骨、その数は他の哺乳類ネズミや人間と同じ7つしかないのと同じように、長さや大きさは変わりやすくても数は変わりにくいから。


 目が大きいと仮定して考えると、複眼1つ1つの焦点距離が広がり、有効的な視覚の範囲は広くなることだろう。

 ちなみに小さいまま数が増えた場合、焦点距離は近い、つまり見ることが出来る限界距離が短く、数が増えたことで画素数が増え、見えている物は細かくなる。


 あの大きさのトンボの餌として見る生物の大きさを考えるとあまり細かい物は見えないと思われる。

 呼吸で身体が多少上下していても気づけないんじゃないだろうか?

 歩いたり、手を動かしたりといった大きな動きをしなければたぶんまだ見つかることはないだろう。

 きっと目の1つ1つが大きいことだろう。

 だといいな……。


 私やサモンモンスター達、そしてたぶんスペードさんも、みんな近接しか有効的な攻撃手段がなさそうだから。


 なら私は幻影をそこかしこに投げておけば……?

 いや、まだ視覚が原因で動かないって決まったわけじゃない。


「ねぇ、テン子ちゃん?どうしようか?」

「すみません、私のメンバーで有効的な攻撃をしようにも色々と難しいです。

 一応この武器ならダメージは通ると思いますが刃渡りが足りないため、致命傷になるような損傷を与えることは非常に難しいです。

 あのボストンボは大きさから想定すると、殻の厚さは50㎝程度はあるんじゃないでしょうか?

 胸部の殻を背中側から抉り、背筋を破壊し飛べなくすることが肝要だと思いますが、それまでに至る道筋をまだ建てられていません」

「お、おぅ……」

「やはり私達だけではこのボストンボの攻略は難しそうです。

 もしよければお知恵をお借りしてもよろしいですか?」

「いやいや、お知恵って程じゃないんだけどね。って知恵!?」

「スペードさんなら1人でやれてしまいそうですし、私達の手があったらむしろ邪魔でしかないと思います。

 それくらいなら出来るだけ私達自身の手で終わらせた方が後々気分がいいかと愚考しまして」

「いやいやいやいや、そんな気は使わないで」

 スペードさんはそう慌てたような調子で小さく声を出した。

「さすがの私もあれを1人でやれる自信はないよ?

 基本、トンボは1対1なら近接で勝てる敵じゃないし」

「目が増えた方のパターンですか……」

 また嫌な方向にのびてますね。

 あのサイズを維持する為に小さなエサをたくさん必要としたっていう考えでいいんでしょうか?

 自身と同じサイズの敵が少なくなったからというね。


「え?」

 スペードさんは小声で戸惑いの声をあげた。

 私は少し急いで打ち込んだ。

「接近戦は困難っていうことですね」

「いや、近接じゃないと倒せないよ。

 遠距離から狙っても躱されちゃうからね。

 範囲攻撃も当てるのは難しいかな」

「なんと……」

「囲い込んで羽を削っていって魔法で本体を叩く。

 それが適正レベルでのここの戦闘かな?

 カンストプレイヤーなら近接でも本体削れる手段を持っているからそこまで気にすることがないね。

 まぁ、とりあえず囲い込んでいかないと攻撃が当てられないのが問題だと思うよ」

「囲い込む……」


 からすみとぬこにゃん。共にサイズは1mもない。

 私。サイズは120㎝弱。

 ちなみにスペードさん。サイズは目測185くらい?190はなさそう。


 ボストンボ、頭の横幅だけでも5m近い。

 全長を正確に見ていくことは霧のため困難だが、比率から考えて100mを切ることはないだろう。200mあってもおかしくない。


 サイズから考えていくと、単純には計算出来るわけじゃないしそもそも比例するようなものでもないとは思うけれど、体長5㎝くらいの大きさのトンボが1秒で10m程進むと考えて体長150mのトンボは1秒でどれほど飛ぶだろうか?


 ありえないことだが比例したとして、10mの3000倍、1秒で30㎞だとしたら凄まじい。

 流石にそこまでは速くないとは思う。

 けれど普通のトンボの40倍だとしても音速を超える。

 しかし体躯の2倍しか1秒で飛べないなんて思えない。

 このボストンボ、飛んだら確実に音速は超える。


 プレイヤーの最速を仮にボスだとして、音速を出す瞬間を私は目撃していない。今なら出せるかもしれない。けれど出せないかもしれない。

 何が言いたいか。


 このボストンボはプレイヤーよりも速く行動する。


 囲い込むことがこのメンバーで出来ますか?


「すみません、囲い込むことがそもそもムリだと思うのですが」

「だよね!カウンターで叩いてもまず落とせる気がしないよ。

 絶対突破されちゃうね」

「そういう場合はどうするんですか?」

「さぁ?今まで戦ったことのあるのは大きくても10mサイズの黒だから、叩き落とせないっていうことがなかったんだよね」


 どんだけ桁間違えてるんですか?運営さん。


 私は思わず大きなため息を出した。

 そしてボストンボは空気を動かさずにふわりと舞い上がり霧の中に消えた。


 やばい。ボストンボがどこにいるか、それが分からない。


 見えない敵ってどうやって倒すの……。

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