第七話
まずは相手のことが分からなければ、協力のしようがない。
ゲームのクリアの基本は、村人から話を聞くことだ。
そこでタケルはジュリアスの人となりについて、エヴァンスから聞くことにした。
三年前の冬、ダイヤモンド王国は死亡率の高い流行病に襲われた。
一日に何十人という単位で人が死に、追悼の鐘が鳴り止まなかったという。
宮殿内でも相次いで臣下が倒れ、遂にリリアーヌも病床に臥した。
国内はおろか国外からも高名な医者を呼びよせ、ありとあらゆる投薬を試みた。
それでも病は一向によくなる兆しをみせず、幼い身体は痩せ細るばかりだった。
お覚悟をと医者に告げられ王妃の号泣が静寂に響く中、旅人姿のジュリアスが荷車一杯の薬草を携えて現れた。
王国の北の国境の先に広がる北限の杜に住む魔女の下で修行をしていたという黒髪の少女は、リリアーヌの症状を見るなり調合した薬草を煎じ始めた。
毒見を買って出た侍女を制し自ら煎薬を飲んでみせると、残りの半分をリリアーヌへ含ませた。
たちどころに熱は下がり、半時もすると混濁した意識は明瞭となった。
娘の命が救われたことを喜んだ王は、褒美をと申し出た。
浮き立つ王に黒曜石の眼差しをまっすぐに向け、城下の人々を救うのが先決とジュリアスはきっぱり答えた。
それは、十五歳の少女とは思えない、威風堂々とした姿だったという。
その後の国王の対応は早かった。
国中から必要な薬草を集め、ジュリアスの指導の下、大量の煎薬を作った。
途端、鐘の音は鳴り止み、無償で煎薬を配った王を讃える歓喜の声が国中に響いた。
再び褒美をと尋ねる王に対し、ジュリアスは小さな家と薬草を育てるための畑を申し出た。
謙虚なジュリアスの姿に感銘を受けた王は、城下のすぐ近くに望む通りの家と畑を用意した。
だが王は薬師として城に仕えることを強く望んだ。
王自らの願いとあっては断るわけにもいかず、ジュリアスはそのまま城に留まることとなった。
「それが二月前、突然出て行ってしまったのだ」
「しつこく求婚したからだろう」
まるで自分には非がないかのような物言いに、タケルは呆れ顔で呟いた。
途端、金色の双眸に睨み付けられた。
「しつこくなどしていない!」
「だって、出て行っちゃったんだろう」
「それには、きっと理由が……」
「どんな?」
重ねて問いかけると、エヴァンスはカッと目を見開いた。
「それを調べるのが、そなたの役目だろう!」
「調べるまでもないと思うけどね」
即答にエヴァンスの白い頬が、火が点いたように赤くなった。
悔しそうに唇を噛み締める。
美貌も身分もあり、性格もさして悪いとは思えない。
だが人を好きになる基準は、それぞれだ。
いくら結婚したい人第一位に選ばれたところで、好きな人に好意を寄せてもらえなければ意味がない。
「……それでも私は……ジュリアスと結婚したいのだ」
勝気なエヴァンスの今にも泣き出しそうな揺れる金の眼差しに、どれほどジュリアスを愛しているかが容易に見てとれた。
タケルには、本気で人を好きになった経験がない。
だから、色恋の問題は正直分からない。
それでも自分ではどうにもならない相手に恋焦がれる気持ちは、理解出来るような気がした。
タケルも焦がれていた。
幼い頃からずっと、健康な身体に。
それは、決して手にすることの出来ないものだった。
だからといって、簡単に諦められるものではない。
きっとエヴァンスも同じ気持ちなのだろう。
好きではないからと言われて、簡単に諦められるはずがない。
そこで、タケルはあることに気付いた。
「ジュリアスは、結婚出来ないって言ったんだよね」
「そうだ」
「そのジュリアスが、何で結婚を認めなければなんて魔法かけたんだろう」
エヴァンスの形の良い細い眉尻が、ピクリと震えた。
「さっ、さあ。どうしてだろうな」
若干高くなった声音と共に、狼狽を表すかのように視線がさまよった。
「まさか、あの手紙――」
「あらあら、楽しそうですこと」
清らかな水の流れのように響く声に、視線を向けた。
戸口に侍女を二人従え、悠然と微笑むリリアーヌの姿があった。
「大賢者様。国王が謁見の間にてお待ちです」
「国王がお待ち!?」
予想もしなかった展開に、手紙に対する疑念は一瞬にして吹き飛んだ。