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第十五話

 行きは走らせた馬も、帰りは牛のような歩みとなった。


 エヴァンスには、今日見たことを話さなければならないだろう。


 そのために、ジュリアスはタケルを呼んだのだ。


 そのことが分からないほど、タケルは子供ではない。




「未来は変えられないの?」




 長い長い沈黙の後、やっと出た言葉は潤んだように静寂に響いた。




「私がエヴァンス様との婚姻を、一度も望まなかったと思いますか」




 それが、全ての答え。


 望んでも未来は変わらなかったのだ。


 だから、エヴァンスを遠ざけた。


 それは、ジュリアスの強さであり弱さでもあった。


 愛する者が別の者と結ばれるのを、傍で見ていられるはずがない。


 いくら偉大なジュリアスでも。

 

 タケルもそうだった。


 入院すると必ず幼馴染みの親友、日暮(ひぐらし)大和(やまと)が訪ねてきてくれた。


 人と距離をとりたがるタケルが、心を開いている唯一人の友人だ。


 大和のお見舞いは素直に嬉しかった。


 同時に健康な友人を妬む気持ちも、心の奥底にほの暗く存在してた。


 日に焼けた友人を見るのが辛くて、体調が悪いと嘘を吐いて会わなかったことは一度や二度ではない。


 だからジュリアスの気持ちは、刻む鼓動が同じになるくらい分かった。




「でも、どうして二人は結婚出来ないんだろう」




 エヴァンスは婚姻を強く望んでいる。


 おそらく、ジュリアスも。


 王も反対している様子はなかった。


 リリアーヌもタケルがジュリアスの下に婚姻を求め通うことに対し、馬を貸すなど協力的だ。


 それがなぜ、ガーネット王国の姫君と結婚することになるのだろう。




「一体……何が間違ってる?」




 いくら考えても解けない疑問に、足取りはより一層重くなった。












 名前を名乗りながら、タケルはエヴァンスの部屋の扉を大きく叩いた。


 タケルがジュリアスとの婚姻のために、奔走していることを知ったのだろう。


 頑なにタケルを拒否していた扉が、ゆっくりと開いた。


 目の前に現れたエヴァンスは精彩に欠き、憔悴しているようにすら感じた。

 

 魔女からの婚姻を迫る手紙という嘘を吐いたり、願いの叶う実を求めたりと、必死にジュリアスとの婚姻のために動いたエヴァンス。


 そのエヴァンスに、今日の出来事を話すことは非常にためらわれた。


 けれども、ようやくジュリアスは結婚を拒む本当の理由を話したのだ。


 その思いに応えなければならない。

 

 ジュリアスの手により見た未来を、タケルは出来るだけ鮮明にエヴァンスに話した。


 エヴァンスの気質からして、途中で怒りに話を中断するかと思った。


 けれどもエヴァンスは何も言わず、ただ黙ってタケルの話を聞いていた。


 無表情な顔からは、エヴァンスの心情を読み取ることは出来なかった。

 

 話を終えた後も、無言のままのエヴァンスは何かを思案しているようだった。


 長い逡巡の末、おもむろに机の端に置かれた呼び鈴を鳴らした。


 隣室に控えていた側近が、返事と共に姿を現した。




「ジュリアスをここへ」




「エヴァンス、これ以上は、もう……」




 ジュリアスの心情を思い言葉をかけたタケルを、金色の瞳がゆっくりと捉える。




「確かめたいことがある」




 見つめる金色の瞳は酷く穏やかだった。


 とても望まぬ未来を告げられた瞳とは思えない。


 覚悟を決めたような潔い眼差しに、タケルはそれ以上は何も言わず、エヴァンスと共にジュリアスを待つことにした。





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