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第十一話

 タケルが十人並んで寝ても、まだ余る程の広いベッドに横になりながら考えた。


 エヴァンスはジュリアスとの婚姻を望んでいる。


 これは、疑う余地もない。


 アヴェリュスもジュリアスとの婚姻を認めている。


 肯首したわけではないが、十中八九間違いないだろう。




「問題は、ジュリアスか……」




 話した感じから、エヴァンスに対し否定的な思いを抱いているとは考えにくい。


 むしろ、好意をもっているように感じられた。




「やっぱり身分の違いかな」




 王子と魔女では、天と地ほどの隔たりがあるのかもしれない。


 けれども王が賛成しているのだ。


 周囲の人々も、取り立てて反対しているようにも思えない。


 むしろエヴァンスとジュリアスの婚姻に関して、好意的に動いているように感じられた。


 ジュリアスをためらわせるもの。


 身分の違いや住む世界の違いなどという、単純なものではないような気がした。




「一体、なんなんだろう……」




 人の心は分からない。


 分からないからといって何もしなければ、ますます分からなくなる。


 ほんの少し前のタケルだったら、他人の心に踏み込むというようなことはしなかった。


 自分のことでさえままならない身体では、人に対し何かをしてやりたくてもどうすることも出来なかった。


 それどころか、自分は相手の重荷になる。


 健康体ではないということが、タケルを酷く臆病にさせた。

 

 だから、人と接する時は距離をとった。


 それは、酷く寂しいことだった。


 だが負担にならないためには、それ以外に方法がなかった。

 

 けれども、今は違う。


 一日中起きていても、走っても笑っても胸が苦しくなることはない。


 それだけで、強くなれたような気がした。

 

 自分は大賢者ではない。


 知恵も勇気もない。


 でもきっと何か出来ることがあるはず。

 

 不意に自分を宥めてくれた、エヴァンスの掌の温もりを思いだした。


 優しい温もりに心からジュリアスとの婚姻を願い、絶対叶えてやりたいと強く思った。










 紅茶を淹れるジュリアスの姿を、タケルはジッと見つめた。


 一つに緩く編まれた黒髪が窓から差し込む日の光に、煌く星のように艶やかに輝いていた。


 嘘や誤魔化しを許さない漆黒の瞳は、陽光を集めたように美しい。


 縁取る睫毛は筆で描いたように濃く長い。


 ほんのりと桜色に染まる頬は、実に健康的で魅力的だ。


 本当に美しい人だと思う。


 リリアーヌの髪は、金色に輝く夏の日差しのように鮮やかで美しい。


 だが黒髪、黒い瞳の日本民族としては、やはり同じ髪と瞳の色を持つジュリアスに強く惹かれてしまう。




「どうぞ」

 



 目の前に差し出された紅茶に我に返る。




「朝早くから連絡もなしに押しかけて申し訳ありません」




 謝罪に頭を下げるタケルに、ジュリアスは緩やかな笑みを浮かべた。




「よいのです。薬草の手入れをする以外、これといった用事はないのですから」




 ジュリアスの言葉に、窓の外に視線を向けた。


 裏庭に広がる畑には、大きな葉を風に揺らす植物や細かな葉を密集させる植物等、見たこともない色とりどりの草花が整列したようにきちんと並んでいた。


 開け放たれた窓から入り込む柔らかな風に、ジュリアスに視線を戻す。




「実は今日は、お願いがあって来ました」




「エヴァンス様のことでしたら……」




 言いよどむジュリアスの不安を取り除くように、ニッコリと微笑みかける。




「違います。王様に頼まれて来たんです」




「王に……」




「はい。作っていただきたい薬があるんです」




「どなたかご病気にでも?」




「病気というわけではないのですが、とにかく手強い相手です」




「手強い相手?」




 意味を把握しかねるというように、軽く眉根がひそめられた。




「お願い出来ますか」




「王のご命令であれば」




「よかった。その薬というのは……」




 薬の効能についてタケルは説明した。


 すると、美しい眉はより深く濃くひそめられた。




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