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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者、大暴れする

作者: ひんべぇ

テンプレ的な、主人公最強、異世界転移物です。

ありふれた勇者物語ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

 ――ここは、異世界『ウエイト』……。剣と魔法のファンタジックな世界である。


 今、この『ウエイト』の、とある国――『ショウチ』にて、とある魔法儀式が行われようとしていた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――イェットよ……、本当に……やるのか?」


 ――『ショウチ』国王である、『ミツビ=ショウチ』は、この国の王女であり、とある理由から『聖女』と呼ばれる少女――『イェット=ショウチ』の顔を不安そうに見つめ、問い掛けた。


 ミツビ王に問い掛けられたイェット王女は、ドレスのスカートの裾を摘み上げ、クルクルと踊りながら、ミツビ王に微笑み、答える。


「ええ、お父様……、このままでは、我が国は魔族に滅ぼされずとも、周辺他国に食い物にされてしまいます……。――もう、後が無いのですよ?」


 ――『ショウチ』は、四方を大国に囲まれた小さな国である、この世界には大陸は一つしかなく、北を魔族、東をエルフ族、南をドワーフ族、西をコボルト族、そして、中央を人間族、と言う風に分割統治している。


 人間族は、過去、他の種族に対して非道を行った結果、反逆され、その動向を監視するが如く、中央に据えられている。


 ――しかし、元来、他者を支配する事、そして、プライドの高い人間族は囚人の様なその状態に我慢できず、長年に渡って周辺の国と小競り合いを続けて来た。


 その結果――。


「魔族は……、魔王は既に先日、我が国に対して宣戦布告を行っております……。――時間は、もう、有りません……」


「し、しかし……、例え、その儀式――『勇者召喚』が成功したとして、その者が儂らに従う保証はどこにあるっ! ――もし、魔王と結託でもしたら……」


 ミツビ王は顔を真っ青にして、ブルブルと震えている。――彼は、理解している。この戦は、自国の……、人間の長年の行いの結果であり……、因果応報……、悪因悪果なだけであると……。


「大丈夫ですわ……、召喚した者には、精一杯――それこそ、国を挙げておもてなしさせて頂きます。――その上で、相手を見極め、おだて、泣き落とし、どんな手段でも使いますわ?」


「し、しかし……、仮に魔王を倒したとしてもっ!」


 イェットはクスクスと妖艶な笑みを浮かべて、ミツビ王に囁く……。


「お父様……、魔王を倒したならば、その力を利用して、今度は他の三国も手に入れれば良いだけの事ですわ? ――全てが終わった後、毒殺でも、色・金・地位でも与えて上げれば、きっと、全て上手く行きますわ?」


 ――イェットの瞳は既に狂喜に彩られており、ミツビ王の言葉は最早届く事は無かった。


 そして、後日――。


「愛する民達よ……、わが父、ミツビ=ショウチは、先日、卑怯で汚らわしい魔王の手の者――魔族によって暗殺されてしまいました……」


 ――城の前に集まる国民たちに、ざわめきと動揺が生まれる。イェットはそれを悲しげに――内心、満足気に――見つめると、演説を続ける。


「――私は悲しい……、私達に従う事が喜びであると理解できない、魔族が……、魔王がっ! ――私は、彼等に、今こそ正義の鉄槌を下すべきだと考えました!」


 城の前の群れから、大歓声が巻き起こる。イェットはそれを見て、何度か頷くと、声を一際大きくして、叫ぶ――。


「今こそっ、この私――『聖女』イェット=ショウチが、伝説の儀式『勇者召喚』を行い、正義の執行者である、『勇者』様をお招き致しましょう!」


「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」」」


 ――この日、人間族の国は狂喜に包まれた……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――平成○○年某月某日 午前五時――


「釣れねぇなぁ……」


「釣れないわねぇ……」


「眠いよぉ……」


 ――とある海沿いの街で、三人の少年少女が桟橋から釣り糸を垂らしている。


「やっぱ、沖まで行くか?」


 三人の中、只一人の少年が二人の少女に向かって声を掛ける。


 ――彼の名前は『山内(やまうち) 大吾(だいご)』……、整った顔立ちに百八十に届こうかと言う身長、爽やかな雰囲気のファッキン・イケメンである。


「――ええ……、アタシ、船とかやだぁ……」


 金色に染め、先程から「眠い」だの、「船やだ」だのとほざく少女は、釣りには合わないミニスカートの裾を手で持ち上げ、ヒラヒラさせている。


 ――彼女の名前は『尾地(びち) 名音なお』……、少年の幼馴染であり、もう一人の少女と恋の鍔迫り合いを繰り広げている純情少女である。


「――今日はもう、諦めて帰りましょう? どうせ連休だし、また明日来ればいいじゃない?」


 最後の少女は、長い黒髪をポニーテールにしており、ノースリーブのシャツの上に、ライフジャケットを着込み、キュロットスカートのサイズが合わないのか、モジモジとしている。


 ――彼女の名前は『山手(やまで) 麗羅(れいら)』……、趣味は少年の部屋散策と言う、探検好き少女である。


 一見、多くの善良な市民から爆発を望まれている様な三人が何故、早朝から釣りなどを行っているかと言うと、時は連休前――二日前の放課後まで遡る……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――なあなあ、大吾っ! 知ってっか?」


「あん? 何だよ?」


 帰り支度をしていた少年は、面倒臭そうに級友の呼びかけに答える。


「なんかさ、あそこの埠頭……、出るらしいぜ?」


「出る? 幽霊か?」


「ちっげぇよっ! ――ネッシーだよ……、ネッシー!」


 ――ネッシーとは、『ネス湖』に現れると言われていた、空想上の生物である……。


「――お前……、馬鹿だろう?」


 少年は呆れた顔で級友に告げる。


「な、ば、馬鹿にすんなよ? ――皆、見たって言ってんだぜ?」


「皆って……誰だよ……」


 少年に馬鹿にされたのが悔しかったのか、級友は更に頓珍漢な事を言い始める。


「あ、分かったっ! ――お前、実は怖いんだろ? ビビリだべ?」


「あん? 何でそうなんだよ……」


「――大体、お前、いつもいつも誰かしら女連れてやがって! オレなんか、オレなんかな……」


 ――既に会話が成立していない級友を無視して、少年は教室を去ろうとする。級友はそんな少年を睨み付け、最後の強がりを口にする。


「良いよっ! ――オレが捕まえてやっからよ! 後で吠え面かくなよ? 懸賞金だって、オレがゲットして、マジパねえ人生もゲットしてやんよっ!」


 ――『懸賞金』……、その言葉は遊ぶ金が不足しがちな少年にとっては、級友の戯言でも、調べてみる価値はある様に感じられた……。


 帰宅後、少年――大吾はベッドで寛ぐ二人の少女をスルーして、パソコンを起ち上げる。そして、そのままウェブブラウザで級友の言っていた噂を検索する。


「――マジっぽいな……」


 ――『懸賞金』の額は三千万……。大吾は「おいしい棒」何本だ……? と考えつつ、更に情報を検索する。すると――。


「何々? 何か新しいプレイでも試すのぉ?」


 金髪の少女――名音が、大吾の背中から抱き着き、パソコンの画面を見る。そして――。


「え、さ、三千って……、マジ?」


「ん、どうしたの?」


 名音が大声を出したせいか、それまでぐっすりと眠っていた黒髪の少女――麗羅が起き上がり、今度は大吾の足元から、大吾の座る椅子に座りこみ、パソコンの画面を見る。


「――へえ……、面白そうじゃない?」


 ――こうして、三人は朝の埠頭に出かける事にした……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「じゃ、帰るか」


 大吾は誰の物か分から無い釣り竿を海に投げ捨てると、二人の少女に向かってそう言った。


「あぁ、潮風でべたつくぅ……、大吾、後で洗いっこしよぉ?」


 名音は相も変らず、スカートをヒラつかせて言った。――その様子を見て、麗羅は深く息を吐くと、その頭をコツンと叩く。


「――もうっ……、今日は誰の家も人が居るんだから、我慢なさい?」


 名音は口を尖らせ、ブーブーと文句を言っていたが、渋々と了承し、引き下がる。


「ははっ、また今度な?」


 そうして、三人が埠頭を後にしようとした時、異変は起こった――。


「ねぇ……、何か、可笑しくない?」


 最初に気付いたのは、麗羅だった。


「え、何がよ?」


 名音が麗羅の指差す方向を見ると、そこでは海が激しく荒れていた。


「――あん? 何だよ、ただ波が高いだけじゃん?」


 大吾はそう言うと、再び歩きはじめようとする――が、その腕を麗羅に掴まれ、振り返る。


「違うの……大吾、今、風も吹いてないし……、少し遠くの方は凪いでるのよ?」


 麗羅は何処かから取り出した双眼鏡を差し出し、大吾にそう告げる。


 ――ゴクリ……と、誰かが喉を鳴らす。


「も、もしかして、三千万?」


 大吾の問い掛けに、麗羅も、名音も頷き返す。


「ひゃ……ひゃっはぁっ!」


 そうして、大吾が飛び上がった瞬間だった……。


「え、だ、大吾……何、それ……」


「――あん?」


 名音が大吾に向かって呟く様な小さな声で問い掛ける。思わず大吾が、名音が差す場所――足元を見ると……。


「え、何よそれっ!」


「あ、お、俺も知らねえよ!」


「だ、大吾、何か回ってるし、光ってるよ?」


 ――大吾の足元には、丸い円の中に複雑な模様が刻まれた。――そう、魔方陣が描かれていた。


 大吾達が知る筈の無い事だが、この時、異世界『ウエイト』では、『聖女』として、イェット王女が『勇者召喚』の儀式を執り行っている最中であった。


「な、何だこれ……、動けねぇ!」


「ア、アタシも動けない……、ねぇ、大吾、麗羅、これ、何?」


「私に聞かないでよ! 私だって動けないし、知らないわよ!」


 そして、海が一際大きく揺れたと同時に、魔方陣の輝きも強くなる。


「何だこれ、何だよっ!」


 大吾が叫んだその時だった――。


 海面が大きく盛り上がり、波が大吾達に押し寄せる。――しかし、不思議な事に、大吾達はその波にのまれる事無く、その場に立ち尽くしていた……。


「――え、何で?」


 その事を不思議に思い、麗羅が呟いた、その時だった――。


「キュルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 ――海面が割れ、そこから巨大な、ナニカが現れた。


「ヒィッ! な、何だこれ、何だこれぇ!」


 大吾は必死に自分の足を動かそうと、引っ張ったり、叩いたりしてみるが、一向に動く気配がない。


 そうしている内に――。


「や、やだやだやだや――」


 ――ゴシャっと、何かが折れ、潰れる音と共に、巨大な、ナニカの物であろう足が……、先程まで麗羅がいた場所にあった。


「ひ、ひ、ひひひひいひいひひひ……」


 震えながら大吾がその足の持ち主を見上げると、そこには、まさしく怪獣――と呼ぶしかない、生物が居た。


「キュルゥオオッ!」


 その怪獣は、地面に置いた足が動かなくなっているらしく、必死で身体を捻っている様だった。やがて――。


「キュルゥオオッ!」


 バランスを崩し、その巨体が大吾に迫って来る。


「ひや……ひい、やだああああああああああああああああああっ!」


 ――ゴシャっと、先程と同様の音が聞こえた瞬間、光は辺り一面を包み込んだ……。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ――異世界『ウエイト』――


「――っ! 成功ですわっ!」


 イェットの声に、周囲の魔導士達から大歓声が上がる。


「イェット様……、成功した場合、『勇者』様とはどれ程の力を持つのですか?」


 魔導士の一人が、好奇心からそう尋ねると、イェットは妖艶にクスクスと笑いながら、答える。


「そうですわね……、まずは身体強化、そして、全属性の魔法使用は、デフォルトらしいですわ? ――それに加えて、固有のスキルなどが付く場合もあるとの事です。どちらにせよ、身体能力に関しては、元の世界の百倍から千倍程になると言う事ですから……」


 ――魔導士達から「おおっ」と言う歓声が上がる。一般的な上級魔族が人間の凡そ五十倍程の能力であるため、これから現れる勇者に対する期待は、まさにうなぎ上りである。


「――っ! 来ますわ……」


 魔方陣の光が一際強くなり、その中から徐々に影が現れつつあった――。


「まずは、私が色で落としますから……、後の事は手筈通りに……」


「「「「はっ!」」」」


 そして、イェットは魔方陣の前に立つと、優美に、妖艶に、頭を下げる。


「――勇者様……、よくぞ、おイェヴァ――!」


 ――イェットは歓迎の言葉を最後まで述べる事無く、現れた『勇者』の……、その巨体に飲み込まれてしまった……。


「ひ、ひぃぃぃ、何だこれは……、これが……、これが勇――しゃべっ!」


 ――魔導士長は、現れた『勇者』が一歩前に進む時に、その足に蹴られ、吹き飛んで行った……。


「――に、逃げろっ! 退避だ退避ぃ!」


 唯一、離れた所から様子を伺っていた騎士団長だけが、冷静に魔導士達を、国民を、王都から逃がす事に成功した――。


 そして、『ショウチ』の国民は目撃する……。


「キュルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 ――『勇者』様の姿を……。


「キュキュキュキュルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 ――その口から放たれる、国を一瞬で焼き尽くす程の『勇者』様のお力を……。


「キュルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 ――その日……、異世界『ウエイト』は、全長百メートルを超える、最大の『勇者』を迎える事になった……。

勇者の名前、思い浮かびませんでした……。

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