終煌庵の主人 ~"映写機の少女"~
ある地方の町外れ、木々は生い茂り森林のような場所にポツリと、一軒のお店がありました。
お店の入り口横には、大きな一枚板に『終煌庵』と書かれています。
お店の周りには、首がとても長く口がとても広い真っ青な壺や、棚の上には鮮やかな寄木細工で作られた小箱等が飾られています
そこに一人のシルクハットと銀色の片眼鏡をつけた紳士がキャリーバックを引きずりながら扉に近付いてきました
『コンコン』と扉を叩き
「玄太郎はいるか」
と紳士が扉に向かって話しかけると
「空いていますよ」
との声が聞こえました
紳士は扉の取っ手をゆっくりと回し中に入ります
中はとても整頓されていて、又、そこには色々なモノが飾られています
赤錆にまみれた刀、なにか動物の頭の骨、この終煌庵にはよく曰く付きの代物が集まってくるようです
『いらっしゃいませ、朝桐さん』
そこには青い半纏を身にまとった青年が一人掛けの椅子に腰かけていました
終煌庵主人 文月玄太郎です
文月は訪ねてきた客 朝桐道尊 にお辞儀をし、ソファに座るように促します
朝桐は早速だがと休むまもなく持ってきたキャリーバックを机の上に置きました
「最近家の蔵を掃除したのだがな、妙なものが出てきてな」
朝桐はカイゼル髭を撫でながらそう言うとキャリーバックを開け、中からあるものを出します
「映写機、ですか?」
中からは一昔前の古い映写機が出てきました
「蔵を掃除したときに懐かしくなってな、出してみたんだよ」
そう言いながら朝桐はフィルムの回転リールに手をかけ回します
ですが、回転リールの軸が壊れているのか回せません
「出したときには壊れているとは思わなくてね、広間にまで持ってきて次の日にでも回してみようと思ったんだ」
文月は静かに耳を傾けています
「深夜に不意に蔵の鍵をかけたか心配になってね、広間のほうに歩いていったんだが」
朝桐は1拍間を開けて話始めました
「壁に映像が写っていたんだよ、電源も入っていなければ回転軸も壊れているのに」
文月は少し考え、一言言います
「映像はどのようなものだったんですか?」
文月は少し困ったような顔をしています
「どうにも記憶が曖昧なんだよ、はっきり覚えているのは女性が一人どんどん近いてきて、最後は目が写っていたということだけで」
文月はまた少し考えます
その顔は少し楽しんでいるような顔をしています
「なら…その中のフィルムを見てみましょうか、ここには現役の映写機もありますし」
そう言うと文月は朝桐を中の部屋に連れていきました
暗室のような部屋の真ん中に映写機が一台置いてあります
文月は朝桐の持ってきた映写機からフィルムを抜き取ると映写機にセットします
「鬼が出るか蛇が出るかはわかりませんが、写してみますね」
文月はそう言うと映写機のスイッチを切り替えます
カタカタという音を響かせながら回転リールが回り始めました
古ぼけた映像が写し出されました
大きなお寺と大量の仏像をバックに少女が一人毬を突いている映像が流れています
その顔は悲しそうな笑顔をしているように見えます
少女の口が動いているのがわかりますが、どのような言葉を発しているのかはわかりません
首には小袋を下げているのが見てとれます
文月が朝桐に目をやると、朝桐は少し震えています
「私が見たのはこれじゃない…」
文月は言います
「このフィルムは朝桐さんのフィルムリールからぬきとったものですよ?」
朝桐はそれはわかっているという顔をしながら言います
「だが、私が見たものは女性がこちらに向かってくる映像で少女が毬を突いている映像じゃない」
文月は少し困ったような顔をしています
カタカタといっていた映写機が止まりました
どうやら話しているうちに映像が終わったようです
するとなにか思い出したのか朝桐が話出します
「そう言えばあの羅漢像とお寺には見覚えがあるかもしれない」
文月は聞きます
「どこで見たのですか」
朝桐は少し昔を思い出しながら答えます
「たしかあれはまだ私が全国を回っていた時だ、一度羅漢像を見に行ったお寺があの場所だったと思う」
文月はいったいそこはどこなのかを聞きました
朝桐は目を閉じて思い出しながら答えます
「たしかあれは…妙見寺だ、あそこはもう廃寺になったと風の噂で聞いたが…」
うーんと首を捻りながら朝桐は情報を思い出そうと考え込んでいる横で、文月はなにかを思い出したように目を開きました
「妙見寺…それは『妙見寺少女失踪事件』があった場所ですか?」
文月は朝桐に聞きました
朝桐は少し悩むと答えました
「私も長くあそこに逗留していた訳じゃないからわからんが、そんなことがあったのか」
文月は答えます
「ええ、たぶんあってると思います。リビングにその時の資料があったはずです」
リビングの鍵つき戸棚の前につくと、文月は一つのファイルと小箱を出しました
ファイルの題名には『妙見寺における少女失踪事件およびその事件に関する周辺で起こったオカルトに関する記録』と書かれています
文月は言います
「前に少し調べた時期がありまして」
文月は朝桐に資料を手渡すと、朝桐はその資料を読み始めました
妙見寺にて一人の少女、佐柄喜与が行方不明になったこと
現場には佐柄喜与の物と思われる毬が落ちていたこと
その後少女の母親、相良三枝が自殺したこと
少女失踪後から夜な夜な妙見寺から少女の声で手鞠歌が聞こえてくるようになったことが書かれていました
ファイルには写真が挟まっており、一枚は相良三枝の生前の写真が、もう一枚が行方不明前の佐柄喜与の写真でした
佐柄喜与の写真には首にかかった小袋を大事そうに持っている様が写し出されています
朝桐は文月に聞きます
「これが夜な夜な聞こえる手鞠歌か」
文月は静かに頷きます
手鞠歌の欄にはこう書かれていました
"敷石の上を歩いていたら
赤いお顔の天狗さま
私の手を引き連れていく
灯籠の間を通り抜け
かごめの蔵を通り抜け
奥の院へと詣りましょう
土に空いた穴の中
わたしを埋めて隠してしまう
上機嫌の天狗さま
翼を広げて跳んでった"
「随分と意味深な歌詞だな」
朝桐はカイゼル髭の端を撫でながら考えています
「よくわらべ歌や手鞠歌、童謡には裏の意味が隠されていたりもしますから」
そう文月は言うと鍵つき戸棚の横にあるサックに荷物を詰め始めました
「まぁ何事も現場に行かないと始まりませんし、さっそく行ってみましょうか」
文月は外へ続く戸へ手をかけます
「あんまり乗り気ではないが私が持ち込んだ案件だしな」
少し朝桐は嫌そうな顔をしていますが、あきらめたような顔をすると文月に着いていきます
「さて、では行きましょうかね」
戸が金音をたてながら開きました
※※※
※※※
※※※
満天の星空のもと文月と朝桐の前に大きな門扉が威圧するようにたっています
「朝桐さん、登るの、早すぎです…」
「玄太郎は体力がないなぁ」
文月はバテバテになりながら門扉の横の柱にもたれています
妙見寺は山の中腹にあるお寺でそこまでの道は石階段で舗装されています
朝桐は手持ちのバックから水筒を取り出すと文月に差し出しました
「さぁ、それを飲んだら中を調べてみよう」
文月は頷くと水筒の中身を気持ち良さそうに飲みました
「ありがとうございます」
文月は飲み終わると門扉に向き直りました
「とりあえず門扉が開くか確認してみましょう」
そう文月は言うと門扉に手をかけました
重々しい音をたてながら門扉がゆっくりと開きます
かなりの月日が経っているのかあまり立て付けがよくありませんでした
中も薄暗く、星の光によってぼんやりと見える程度の明るさです
「随分と薄暗いですね」
文月はファイルケースの入ったサックから懐中電灯を2本取り出しました
1つを朝桐に手渡します
朝桐は懐中電灯を受けとると周りを照しました
周囲には敷石が広がっており、右横には灯りの点いていない灯籠がお寺の裏に向かって続いています
次に前方を照らすとその奥には朽ちたお堂がありました
「中に入ってみるか」
朝桐は言いました
お堂は木造作りで誰も入っていないのか埃が床に薄く積もっています
前に光を当てると木で作られた多くの羅漢像がそびえ立っています
「やはりここの羅漢像だったか」
朝桐が一人納得している横で、文月はサックからなにかを取り出しています
朝桐は聞きました
「これは?」
「降霊板です、わかりやすく言うとこっくりさんってやつですね、少々アレンジを加えた亜流ですけど」
そう文月は言うと着々とこっくりさんの準備が出来上がっていきます
「こっくりさんは故人を喚ぶには程度がいいものですからね」
文月は4本の蝋燭に火を灯し、お猪口に清酒を注ぎます
木の板にはあいうえおの文字が掘られ、上辺の真ん中には赤い色の鳥居のマークが描かれています
お堂の中を懐中電灯で照し周りを見ていた朝桐は言いました
「随分と仰々しいが効果はあるのか?」
「まぁ、仰々しいことに意味があったりしますけど、やってみなくちゃわからないですね」
そう文月は言うと蝋燭を板の四隅に、お猪口を鳥居のマークの上に置きます
そしてサックから小箱を取り出ました
「それはファイルと一緒に出てきた箱か」
朝桐は小箱を懐中電灯で照しながら聞きました
「これはこれは母親の相良三枝さんが着けていたものだそうです」
そう文月は言うと小箱の蓋を開けます
中には石が外れた指輪が入っていました
「昔調べていたときに依頼人が資料と依頼料として渡してくれたものなんです」
そう言うと文月は鳥居のマークの右横に箱を開けたまま置きました
「最後にこれで完成ですね」
鳥居のマークの下に丸い小さな石を置きました
「私はなにをすればいい?」
朝桐はそう聞くと文月は答えます
「懐中電灯の光を消してそのままでいてください」
朝桐はわかったと答え光を消して壁に寄り掛かり、目を瞑りました
「では、始めますね」
文月はそう言うと、丸石の上に人差し指を乗せ仰々しく
呼び出し始めました
『狐狗狸様、狐狗狸様お出でくださいませ
狐狗狸様、狐狗狸様お出でくださいませ
此所に居まする迷い路の魂に、一時の依り代をお与えください』
文月がそう言葉を紡いでいた時でした
目の前の暗闇が少し波を打っています
文月は同じ言葉を繰り返します
繰り返していくごとに波は速く打つようになりました
そろそろかと文月は呟くと指輪の入った箱を持ち、波の歪みの中に投げ入れます
朝桐は文月が紡いでいた言葉が無くなったことに気付き、目を開けました
点けていた懐中電灯の光が消え、暗闇が周りを包んでいます
「玄太郎、どこにいる?」
朝桐は少し震えながら言いました
「ここにいますよ、いちよう成功したみたいです」
朝桐は声が聞こえたのに安堵すると、文月の声の方向に寄ろうとします
わ゛
声が聞こえました
その声は喉を絞めた時に漏れる吐息のような、声の篭った音でした
「この音は…?」
朝桐は文月にかすれ声で聞きました
「行方不明の少女の母親、相良三枝さんを実現化させました」
そう言うと文月は靴音を響かせて音の方向に近寄ります
「あなたが今のここに留まっている理由はなんですか?」
文月は三枝に聞くと
わ゛たしのこども゛はどこ゛ですか
そう聞こえました
誰も喋らない中、カタリと音がしました
文月は懐中電灯をつけます
カチッと音がするとともに一筋の光が朝桐を包みました
「さっきの声はなんなんだ?」
朝桐は文月に問うと文月は答えます
「先程の指輪を依り代に少女の母親、相良三枝さんを実現化させました」
「実現化というのは?」
文月はなんと言えばいいかと考え答えます
「人間側からは通常、干渉することはできないですけど、特殊な神様に正式にお願いして対象を依り代に入れてもらうことよって 一時的に 見える ようになったり 聞こえる ようになったりするんですよ」
「なるほど、と言うことはさっきの唸り声のようなのは」
文月は一呼吸間を置くと
「佐柄三枝さんの声だと思います」
文月はそう言うとカタリと音がした方向を見ました
床には銀色に輝く指輪とその指輪の入っていた箱が落ちています
文月は指輪を箱に戻すと
「今は一時的にこの指輪の中に入っていますけどね」
と言ってサックの中に使った物を戻し始めました
「中に入っている?」
「ええ、今佐柄三枝さんは指輪に入ってもらっている状態です」
「いわば休眠状態というわけか」
「休眠と言うよりは憑く場所を一時的に変えてもらったって感じですかね」
文月はそう言うとサックを背負って外に出ようとしています
朝桐は少し焦りながら尋ねます
「どこに行くんだ?」
「佐柄三枝さんは今の状態では成仏できないでしょうから、歌の線から周辺を探してみようと思いまして」
文月はサックからファイルを取り出しました
「もしも"歌には裏の意味がある"ということを念頭に置くとしたら、この歌にも裏がある可能性が出てきますよね」
そう言うと文月はお堂を出ました
朝桐もそれに続いて外に出ました
「それに妙見寺でその歌が聞こえるならここに関する想いが強い気がするんです」
「なるほど、だとしたら歌の中にある"灯籠の間"というのがこの石灯籠のことだと」
朝桐は寺の裏に続く灯籠を懐中電灯で照します
「まぁ合ってるかはわかりませんけど」
そう言うと二人は足元を照しながら石灯籠の間を進んでいきました
石灯籠の間の道は鬱蒼とした森になっていて、星の光さえも少ししか届きません
足元は石畳によって舗装はされているようですが長くは続かず途中で土が顔を覗かせ、お地蔵様がまるで道標のように所々に点在しています
「随分暗い森だな、それに薄気味悪い」
朝桐は顔を強ばらせながら言っています
「打ち捨てられてからかなりの時間がたってるみたいですからね」
そんな会話をしながら土の道を歩いて暫くすると、小さな建物が見えてきました
建物はとても古く、扉の南京錠は錆でまみれています
「とても古い建物みたいですね」
文月は建物の周辺を懐中電灯で照しています
「寺の物置にでも使っていたのかもしれないな」
「朝桐さん、こっちに来てみてください」
文月は建物の一点を照らして朝桐を呼んでいます
「何かあったのか?」
「これってもしかすると…」
文月が照らしている先を見てみると格子状に編み込まれた細い竹が窓にはめ込まれています
中には葛籠や古い木の柱が懐中電灯の光に照らされて見えます
「鍵が掛かっていただけあって中は整頓されているみたいだな」
「中の方じゃなく窓のほうです」
「この窓がどうかしたのか?」
朝桐は窓を見ました
「この格子状に嵌め込まれた竹の形、たしか籠目って言われてました」
「籠目?」
「ええ、外国では六芒星とも言われているもので、よく魔術や占いで使われる六つの角がある星形の図形です」
そう言うと文月はファイルの手鞠歌の欄を指差しました
「ふむ、この"かごめの蔵"の部分がこの建物のことだと」
「もしかするとこの歌はこの場所の印象的な部分を歌ったものかもしれませんね」
「だとするとここを通り抜けた先が奥の院か」
そう言うと朝桐は今いる場所の対面の草木が生い茂る暗闇の中に懐中電灯の光を向けました
「行ってみましょう」
二人は覚悟を決め、暗闇の中を進み始めました
奥の院への道は木の葉や折れた枝が地面に無造作に広がっています
しばらく足元に気を付けながら進み、橋を一本渡った先にそれは建てられていました
ボロボロになったお地蔵様が一体、中に入っているくたびれた祠がそこにはありました
その祠の周りにはぽっかりと穴が開いたように木々が生えておらず、月の斜光が降り注いでおり、他の場所よりも明るく感じられます
「ここが奥の院ですかね」
「ここだけ穴が空いたみたいに空が見えるな」
朝桐は地面を懐中電灯で照しました
「手鞠歌にはたしか"土に空いた穴の中"と書いてあったな」
文月はファイルを取りだし、朝桐はファイルを懐中電灯で照します
「だとしたらここに"わたし"が埋っているということでしょうか」
朝桐は腕捲りをすると落ちていた少し太めの木の枝を手に取り、祠の前を掘り始めました
朝桐は枝で土を柔らかく掘り返しながら、文月は手のひらで土を掘り出していきます
休み休み掘りながら暫し、文月の指先に変色した白い物体があたりました
「これは…、朝桐さんゆっくり掘り進めましょう、きっと何か出てきます」
文月の指先は、微かに震えています
朝桐も合点がいったのか、わかったと言うと枝を置きゆっくりと着実に掘り進めていきました
重苦しい雰囲気が流れるなか土の中から小さな人間の頭蓋骨が見えてきました
首の回りには土で汚れた小袋が力なく掛かっています
「この白骨死体はもしかすると佐柄喜与ちゃんかもしれません」
文月は掘る手を止めると、白骨死体の首にかかった小袋を外しました
「まさか白骨死体が出てくるとは…」
朝桐はその場で立ち尽くしています
文月はサックから指輪の入った小箱を開け、その横に寄り合わせるように小袋を置きました
するとあたりに白い霧が薄っすら立ち込めてきます
朝桐がそれに気付き文月に聞きます
「文月、この霧は一体…」
「大丈夫です、もうすぐ出てくるはずです」
そう言うと文月は懐中電灯の灯りを消しました
朝桐も文月にならい灯りを消します
わ゛たしのこども゛はどこ゛ですか
声が聞こえてきました、先程の相良三枝の声です
おかあさん、ここだよ
その声はとても儚げな小さな声でした
おかあさん、もう大丈夫だよ
そう儚げな声は言うと母親に抱きついたシルエットが浮かび上がりました
わ゛たしの、わたしの三枝 やっとみつけられた…
相良三枝の声はいつの間にか女性の美しい声に変わっていました
突然いなくなってごめんなさい
そう少女 佐柄喜与言うと相良三枝は母性の溢れた声で
もういいの…こうして喜与を見つけること
ができたのだから…
そう言うと佐柄親子は手を繋ぎ、朝桐と文月に深々とお辞儀をすると、暖かな光に包まれ消えてしまいました
※※※
※※※
※※※
「はい、わかりました、失礼します」
朝桐は受話器を置くと一息つき椅子に腰かけている文月に向き直りました
二人は終煌庵に帰ってきたようです
若干疲れている顔をしていますがお茶をすすり落ち着いているようでした
「どうでしたか?」
「まだ何度か詳しい話を聞くことになるだろうが、心配はない、とのことだった」
朝桐は身支度を整えながら話します
「それと二人ともホントに随分と引きが強いんだなと笑いながら話していたよ」
文月は若干呆れ顔をしながらも少しホッとしたような顔をしています
二人は死体を発見したことを共通の知り合いである警察官 秋畠青音 に伝え、事情聴取を受けて帰ってきたところでした
「それにしても、この犯人自体が証言を全てする前に亡くなってなっていたとは思わなかったよ」
「きっと手鞠歌の"天狗"の部分が犯人のことを歌っていたんでしょうね」
朝桐はキャリーバッグを引きずり出口に向かいます
文月も椅子から立ち上がり出口に向かいました
「すまなかったな、随分といろいろ付き合わせてしまって」
そう朝桐は言うと文月の方に向かい深くお辞儀をしました
「いえ、元々お寺の向かおうと言ったのは私の方ですし、気にしないでください」
文月は頭をくしゃりと掻きました
「ありがとう、今日は疲れただろうしゆっくり休んでくれ」
そう朝桐は言うとガラガラとキャリーバッグを引きずりながら自宅に帰っていきました
文月は朝桐が小さくなるまで見送ると中に入り、静かに扉を閉めました
冷めた飲み物を飲み干すと片付けを済ませ寝室に行こうと電気を消します
すると一つ思い出したことがありました
朝桐さん、たしかフィルムを映写機に入れっぱなしで行ってしまったかもしれない
そう思うと文月は確認のため映写室に向かいます
映写室に入り電源プラグが抜けていることを確認し、映写機に向かいます
フイルムを確認するために抜こうとしたときでした
映写機の乗っているテーブルの上に、一つの小箱が開けて置いてあります
「これは…」
それは親子を呼ぶために使った相良三枝の指輪でした
ただ一つ違うのは、これには青色の石がはめ込まれていることでした
「たしかこの指輪は二人を呼んだあと無くなっていたのに…」
文月が驚いていると目の前がぼんやりと光が見えました
カタカタと音をたてながらプラグを抜いたはずの映写機の回転リールがゆっくりと回り始めました
そこには楽しそうに鞠つきをしている相良親子の姿が写し出されています
回りの空間からは楽しそうな、嬉しそうな声が聞こえてくる感じがします
文月が呆気に取られていると後ろからはっきりと声が聞こえました
お兄ちゃん、ありがとう
文月が振り向くと、誰もいません
カタカタという音がだんだんとゆっくりになっていき、止まりました
「そうか…二人は向こうで仲良く一緒に行けたのか」
文月はフイルムと指輪の入った小箱を抱え
「このこと、朝桐さんに明日報告しよう」
そう言って映写室の扉を閉めました。。。
End…