第2話
「――遅くなったが、久しぶりだな。まさかこんな所で会うとは思わなかった」
「……我もだ。まさかお前と同じ場所に逝けるとは、思っていなかったからな」
鬼たちの撃退後。
砂の地べたに、正輝と宇宙の2人は腰を落ち着け、再会の言葉を交わす
かつては、第三次世界大戦を止めた盟友として。
そして、美徳と言う7人の2枚看板として、世の秩序を担う相棒として。
美徳の盟主の座を掛けて、そして異なる未来を願う者として、対立する敵として。
矢継ぎ早に変わる間柄ではあった2人が、死を経て。
「――死んでからも縁があるなんてな」
「ああ……さて、色々と聞きたい事があるが――」
「俺も、俺が死んでから世はどうなったかが聞きたいけど――」
「「まずは……すまなかった」」
申し合わせたように声が重なり――ほぼ同時に頭を下げた。
「――一条? どういうつもりだ?」
「……俺は結局は理想を言い訳に、お前に汚名も責任も苦痛も全部、押し付けて逃げた結果になっちまったからな」
「よせ……我は謝罪される様な事など何もしていない。寧ろ謝罪せねばならん事なd、山ほどある」
「……俺が死んでから、世はどうなったんだ?」
正輝はゆっくりと説明を始める。
勇気の契約者、一条宇宙は憤怒の契約者、朝霧裕樹に殺されたと知らされた事。
その後、世の情勢は勇気を失った事で均衡が崩れ、あちこちで犯罪が多発。
勇気のナワバリはあちこちの犯罪契約者、ナワバリ狙いの組織に狙われ荒し尽くされ、所属した者の大半がフォールダウンあるいは他の美徳の傘下に入り……。
そして、その死から1年後――
「そうか。宇佐美、勇気のブレイカーを受け継ぐ事が出来たのか……歩美ちゃんにさやかちゃん、みやちゃんもびっくりしたろうな」
「ああ。その後は……」
「ユウが身柄を確保して、育ててくれてるんだろ? ――アイツに全部任せたからな」
「……そうだ。先ほどの3人――一条宇佐美の“ラッキークローバー”のメンバーと共に」
「それで、その先は?」
「それは……」
その後、勇気のブレイカーを巡り各地で小競り合いが勃発。
その最中で色欲が憤怒に同盟を持ちかけ、その後憤怒は慈愛に接触――した途端に、暴食に侵略を受け、組織は崩壊。
世はそのあおりを受け荒れ始め――その後に、憤怒が暴食から慈愛のナワバリを奪還。
しかし――
「慈愛はやっぱ、傘下が暴走傾向ありか」
「――我がうけた報告では、先の混乱で両親を失い水鏡に拾われたらしい」
「……」
「その後に全面戦争が勃発し、その結果水鏡は憤怒に身柄を委ねる結果になったがな」
「……そうか」
「ただ、その戦争を経て一条宇佐美は2代目勇気としての覚悟を決めたらしい――その後に開かれたコンサートでは、その戦争で死んだ者達とお前に届ける歌を歌ったそうだ」
「宇佐美……」
「――ここからは、途中だろうと我を殴ってくれて構わん」
「?」
その後。
東城太助が、極秘に盗んだ宇宙の死体を保管し、その遺伝子情報を使い生体兵器を作り上げた。
一条宇宙のクローンを最新鋭の理論を使用したサイボーグとし、限りなく上級系譜に近い身体能力と精度を持たせた“ブレイブトレース”
一条宇宙のクローンに薬物投与や強制学習装置で、人為的に上級系譜クラスの能力を持たせた“ブレイブクローン”
これらを開発し、量産体制を整えていた事で――正輝は、一斉攻撃を開始した事。
そして、その一斉攻撃の最中で嫉妬との戦争となり、それを引き金に世は乱世を迎える事となった。
「……先走り過ぎだろ」
「わかっているさ――憤怒が慈愛と勇気を取り込んだ事もあり、我は焦っていたのかもしれんな」
「――それで、どうなったんだ?」
「そこからは――」
その後、突如現れた白夜と交戦。
白夜はこれまで自身の力を隠していたらしく、正輝を圧倒するほどの力を行使し――右腕を切断された事で正輝は敗れ、白夜に正義のブレイカーを奪われた。
「――あの野郎、以前戦ったときになにか違和感あると思ったら、そう言う事か」
「――ああ……それから我は奴の異世界でだが、あの男は世界を壊した」
「世界……! まさか!?」
「……やはり覚えがあるのだな?」
宇宙の死には、真理が関わっている。
――実しやかに、そう囁かれていた事を知ってはいたが、宇宙の反応を見て確信した。
「しかし、どうやって? ――あの力は」
「――お前が死んでから少しして、犯罪契約者や下級契約者の小組織の間で、妙な物が出回り始めていたのだ」
「妙な物?」
「ああ。1人の人間が、2つのブレイカーと契約できるようにする、仲介装置みたいなものだ。ただ、我が受けた報告では使用した者は大抵が発狂し、身体が跡形もなく爆さんしたらしい」
「――それをあいつが手に入れたか、もしくは開発に関与していたか、か?」
「――かもしれんな。あいつは裏表どころか面体が幾つあっても足りんほど、何考えているのかが良くわからん」
「それで、その時にお前は殺されたのか?」
「――いや」
その後、白夜は正輝を殺そうともせず、部下になれと催促し始めた。
正輝は断るも、正義の組織は崩壊した事。
そして世は、崩壊した世界を救済すべく、正負同盟がなされ大罪と美徳は手をとる事ヲ選び――世には、大地の賛美者や犯罪契約者に加え、正負同盟反対派閥も攻撃姿勢を取り始めていた事。
そして……
「――東城先生が、か?」
「ああ――聞いた話ではテロ組織に拉致され、合成獣開発を強要されたらしくてな」
「……何考えてんだよそいつら。確か東城先生は、大地の賛美者の前身にあたる奴等に」
「ああ……家族を殺され、あいつ自身も拷問を受け傷だらけだ。恐らくそこでの事や、暴走が相次いだことで人にも現世にも絶望したのだろう」
「……サイボーグ義肢や人工培養皮膚と、人を救うための技術で貢献した程の人が魔王と化す、か」
宇宙は手足を投げだす様に、背を倒し寝っ転がる。
「――俺達がやってきた事って、一体何だったんだろうな?」
「……すまんが、それに答える資格は我にはない」
「――やめろよそう言うの。そう言ったら、俺だって同じだ」
無言の時間だけが過ぎ、正輝も手足を投げ出す様に寝っ転がる。
「――さて、話は終わろうか」
「――それで、ここは一体どこだ?」
「こんな殺風景で何もない場所が天国に見えるか? ――地獄だよ」
「――だろうな。しかし、地獄にしてももっと分かり易い物があっても良いだろうに」
「多分だけど、俺もお前も自分の罪自覚してるからじゃないか? ――平然とした奴が居る地獄絵図なんて、みた事も聞いた事もない」
「――違いない」