第1話
「…………?」
目を覚まして、最初に飛び込んできた光景は“闇”。
次に脳裏に流れたのは、疑問。
「――なん、だ……? 我は、死んだ筈……?」
北郷正輝は、混乱していた。
目の前に広がる光景以前に、死んだはずの自分の現状に
かつての面影は微塵もない、痩せ細っていた筈の身体。
かつて肩から白夜に切断され、無理やり治療された筈の右腕。
それらが自身が正義の契約者として、美徳最強の名をほしいままにしていた、鍛えあげられた岩石の様な肉体に戻っていた事。
更に言えば自身の手には、自身のブレイカーであり最強の14のブレイカーの1つ。
既に白夜に奪われた筈の、正義のブレイカーまでもがあった。
「――それに、ここは一体?」
疑問の解けないまま、周囲を見渡し――さらなる疑問がわきたった。
星一つない、漆黒が広がる空。
地面は地平線まで見渡す限りの砂漠と、吹き荒ぶ風。
「誰かいないか!!?」
正輝は声をあげる--が、反応はなかった。
「――我しか、居ないのか?」
ふと、正輝は思い返す。
これは夢――とは思えない。
白夜に貫かれた感触も痛みも、鮮明に記憶に残っている。
「――そうか。ここは、地獄……なのか」
死の感触。
それを思い返しただけで、正輝はここを地獄だと結論付けた。
「――随分と不親切だな。せめて連行する鬼位居ても……いや、それは贅沢か」
正輝はそれでも揺るがない。
寧ろそれを当たり前の様にとらえ、周囲をゆっくりと見回す。
漆黒の空に、見渡す限りの砂漠。
おまけに風が吹き荒んでいる為、恐らく足跡も残らないだろう。
針の山や、血の池といった連想させる物は、一切ない。
更に鬼の一匹どころか、自分以外に何もいない。
「……そう言う事か」
恐らく、これが自身の罰だろうと辺りを着けた。
罰する者や明確な罰どころか、これから何をすればいいのかの明確な何かが、ここには何もない。
無限の退屈、あるいは無限の彷徨、あるいは無限の無意味。
永遠に無意味に彷徨い続ける事――それが恐らくは、自身のいる地獄に課せられた罰。
正輝は自身のやってきた事を、間違いだとは思ってはいない。
しかしその過程で奪ってきた、あるいは奪わせてきた命の対しての懺悔の意思は、一度として怠る事も忘れる事もなかった。
--延々と続く、差別と暴力。
かつての仲間達や母といえる人と共に築きあげた、契約者社会の弊害。
そして延々と悪意が善意を壊し、悪意を増長させる悪循環。
それを止める為とはいえ、幾多もの命を奪い奪わせ続けた事は、罪である事の自覚はある。
故にいつかは自分も裁かれねばならない事は、覚悟はしていた。
欲を言えば、せめて自身の手でなかろうと、平和で穏やかな世界を
――自分の夢見た世界を実現した事を、見届けたかった事だけが心残りだった。
「……行くか」
正輝は立ち上がり、ゆっくりと周囲を見回した後に適当に当たりを着け、一歩進む。
数歩歩いてふと振り向くと、既に自分の足跡は風により消されているのを確認した後は、振り向かず前に進み続ける。
ドォォォオオンッ!!
「! 何だ!?」
突如、音も光もない空間に、爆発音が響き渡った。
正輝は両拳を構え、警戒しつつ周囲を見回し--
遠く離れた地点で、派手に砂煙が巻き起こるのを見つけた。
「――あそこか!」
罰の内容の辺りを着けたばかりで、突如のそれを壊す要素の発生
一体ここが何なのか--その確認できる要素がある事を願い、正輝は駆けだした。
「はっ……はっ……」
『ギッ、ギギギッ……!』
『ガガッ、ガッ』
駆け付けた正輝がみた物。
それは--
「――!!?」
まるで絵に描いた様な、人の体形を持ちつつも奇怪な様相の--
人で言う、鬼の様な何かが群れを成している光景。
しかし正輝には、それ以上に目を引いた物があった。
「――間違いない、あれは……」
その鬼の群れと戦っているのは、かつての同胞で袂を分かち幾度となく対立し――既に死んだ男。
『ギィッ』
その背後から、一匹の鬼が巨大な鋸を振り上げ、その男めがけて振り下ろそうとし--
グシャアッ!!!
阻まれた。
「――! 誰だ!?」
「――久しぶりだな、一条宇宙……でいいか?」
「! 北郷!? なんでお前が……?」
「やはり我の知る一条か……それより、コイツ等は一体?」
「見ての通りだ――すまんが今は」
「わかっている。まずはこいつらを追い払うとしよう」