自らを殺した少年の話。
注意。
第一話の少年と今回の少年は違う人物です。
基本的にこのシリーズで出てくる霊なる人物はどこかの話で出てきた人物と被る事はありません。
被るのは、天国や地獄に送る事を仕事としているサラリーマン位です。
とある中学校にその少年は通っていた。
それは普通の学校。
どこでもやるような授業を行い、
色々な子供がわいわいとしていて、
部活もあり、
恋もあり、
虐めもある。
ごく普通の学校。
そんな所に通う彼は、虐められっ子だった。
気が弱く、体も弱い、いつもオロオロして、そしてバカにされる。
小学校では誰とでも仲良くできたのに、中学になってから急にそんな状況に陥った彼。
彼は変わってない。
なのに周りの態度が変わった。
何かがおかしい。
何故、小学校と変わらない態度の彼は急に虐められ始めたのか?
彼にその答えは分からなかった。
答えの分からない彼が出せた解答は一つだけだった。
変わってしまった皆はおかしい。
何故今までみたいにみんな仲良くできないのか?
急に格好をつけだしたり、大人ぶったり、威張りだしたりして。
理解できない。
彼はそう思った。
だが、そう思ったところで何も変わらなかった。
時間が解決するわけでもなく、彼への虐めはエスカレートする一方だった。
何を言っても虐めてきて、言葉も聞かず暴力を振るう。
そしてそれを見て皆も笑う。
抗えば何か変わると思った。
だが、キレてみたところで彼の立ち場が変わる事はなかった。
此処には居場所はなく、味方はいない。
彼はそう実感した。
全てが面倒くさくなり、彼は不登校になった。
何も知らない親から学校に行けとうるさく言われ、何もかもが悪循環。
彼はどうしようもなくなった。
生きるのも面倒になってきた彼は、死んでみる事にした。
死んで虐めた奴らに後悔させてやる。
彼はそう考え、自らを殺した。
彼は死んだ。
そして、次に彼が目が覚めると、彼は自分の上に、自分の死体の上に存在していた。
半透明なその体は、自分の肉体から上半身だけ出ている。
「あぁ、やっと死ねたのか。」
彼は静かに悟った。
そんな彼の元に黒いスーツを着た女がやってきた。
女は死体ではなく、半透明な彼を見て言う。
「アンタは死んだ。だから私が、アンタの行くべき場所に連れてってあげるよ。」
タバコを咥え、とてもガラが悪そうな女だった。
少年は下を向き言う。
「そうですか・・、わかりました。」
「わかりましたって、アンタ何処に連れてかれるのかわかってるのかい?」
あまりにあっさりとした返答に驚く女。
「多分、復讐を理由に死んだので地獄に行くんですよね。覚悟はできています、どうぞ連れていってください。」
彼は正直に女にそう言った。
彼は全てを認め・・・もとい、開き直っていた。
これはしょうがない。自殺したんだし、この罪を受け入れよう。
だが、これがきっかけで僕を虐めていた奴らに何か罪悪感を残す事ができたなら、それで満足だ。
彼はそう思った。
しかし女はその言葉を聞くと、フー・・とタバコの煙を吐き、機嫌を悪くした様に言う。
「・・・因みに知ってるかい、自己中な少年?死とは何も救わないんだよ。」
「え?」
「確かに、アンタの死が彼等の心に何かしらの傷をつけた。死んだ君からすれば目標達成であり、復讐達成だろうな。だが、アンタは知らなければならない。アンタの死の結末を。そういう訳であんたには自分の罪の重さをそこで七日間、じっくり考えてもらうとするよ。」
女はそう言うと、歩き去って行った。
「あ、あの。」
言葉は空しく、少年は一人取り残された。
自らの肉体に縛られたまま、その姿を彼女以外誰にも認知されないまま。
涙を流す事もできず、物に触れることもできず、喋る言葉は誰にも気づかれない。
そんな彼は
自分の葬儀に立会い、多くの人の嘆きを、父と母の、嘆きを毎晩聞いた。
肉体が焼かれた時も、骨を拾われた時も、涙を抑えきれない母の声が少年に響く。
死後何日も過ぎたと言うのに未だ自分の骨に語りかける父と母の姿を見たくなどなかった。
目を背けたいのに見える映像、聞こえてくる嘆き。
自らの体から、肉体であった物から離れられない少年は、ただひたすらに現実を直視する事となった。
少年は耐えられなかった。
早く消えてしまいたい、早く連れて言って欲しいと何度も願った。
しかし、女はとうとう約束の七日目まで姿を現さなかった。
「アンタの死の結末、堪能できたかい?」
約束の7日目の夜、少年の前に現れた女は言った。
前と同じくタバコを咥え、黒いスーツを身に纏った姿で。
だが、少年にはその返事を出す気力すら残されていなかった。
無言の少年に対して女は1人語る。
「アンタにはまだ生き抜く未来があった。けど、アンタはその未来を捨てた。アンタの知らない誰かが、アンタの両親が、アンタが生き抜く未来を切り開いていたにも関わらずにだ。だから、使われくなった未来は切り開いた者に戻っていく。アンタを生かそうとした、アンタに期待した、アンタを愛した罰として。それは心の影、心の重りとなってそいつらに与えられる。それを罪と言わずに何と言うんだい?アンタは自分の事しか考えていなかったから、その報いを受けて地獄に行くんだよ。」
言葉を返せない少年。
目頭が熱くなる。
その目からまだ涙が出るというのなら彼の目からは大粒の涙が今一度溢れ出ていただろう。
だが、少年の目からは涙が出る事は無く、ただ悲しみが込上げるだけだった。
「少年、死とは罪なんだ。死とは何も救わない、生と同価値のものなんて存在しないのだから。だからアンタがどれだけ善人であっても、自分を殺しただけで十分地獄に行けるんだよ。」
女はそう言って、少年に近づく。
そして懐からお札を取り出し、少年に付けようとした。
しかしそこで少年は、最後の質問をした。
ずっと疑問だったその答えを知りたくて、少年は振り絞る様に女に疑問を問いかけた。
「いつの間にか皆は変わって、僕は虐められた。僕はあの時どうすればよかったのでしょうか?」
「・・・バカだね。難しい事は考えず、アンタも皆と同じ様に変われば良かったんだよ。」
女はそう答え、少年にお札を貼り付ける。
そうして悲しみに暮れる少年は、静かに地獄へと送られた。
一人、部屋に残った女。
咥えていたタバコを吸い、一気に煙を吐き出す。
「(少年が全てを悟るにはまだ早すぎたんだよ。生きてりゃ幸も不幸もやってくる。不幸ばかりに目を奪われていたら目の前の幸すら見逃してしまうというのにさ。)」
簡易吸殻入れにタバコを押し込み、大きな溜息をついた後、女はスッと姿を消した。
少年が悟りを開いて死を望んだという事実は、少年も他の人と同様に大人振っていたと、とる事も出来る。
もしかしたら少年に足りなかった物は、自分が大人振っていることに気が付き、それを貫き大人な心を、前向き《ポジティブ》で、寛容な心を持つ事だったのかも知れない。