「幸福は糾える縄の・・・」
ずずの流れの中ですが、ずず他でてきません。
ちょっと不思議な話を、お気楽に書いてみましたってとこで。
ファンタジーでもいいかな?
え?オレ?
オレが何の話をしろって?
一介の消防士だぞ。
そんなおもしろい話なんてある訳ないだろ。
まあ、確かにずずの話は暗すぎる。
火災だの、TPSDだの、トラウマだの、
馬だの鹿だのっちゅう話の方が、おもしろいに決まっているだが、
おれにそういう経験があるかって?
消防の話、してもまじめすぎてつまらんだろ。
まあ、奥さんの話でもするか。
結婚したのは3年ほど前で、
つきあったのはまあ、1年ぐらいかなあ。
最初はそんな、つきあうなんて思ってなかったんだよ。
いっちゃなんだが、オレ、もてる。
自他共に認める、イケメン。
学生時代から、まあ、女友達には不自由しなかった。
キャアキャア取り囲んでくれてさ、
何かとくれたりとかさ、メシなんかも食わせてくれるしさ、
このまんまでもいいか、と思ってたぐらい。
学生時代はアルバイトでホスト、やってたぐらいだからなあ。
周りの女は美人でグラマーで、金持ちで、車は外車でって、
もう、選り取りみどりって感じ。
仕事を始めても、毎日、遊んでいたなあ。
でも、そんなある日、彼女が横に座ってたんだよ。
どっかの飲み屋だったと思うけど。
ちょっと度の強い眼鏡でさ、今でもだけど。
ひっつめ髪っていうのか、無造作に後ろで縛ってあるだけで、
化粧もちょっとしましたって、感じで、
ようはぱっとしない娘だったんだけど、
覚えているのは、消防士ですって自己紹介したら、
レンズの向こうで、眼輝かせて、
「わあ、かっこいいんですね」
子供だと思ったよ。
子供の反応なんだよ、それって。
「消防士さん、カッコイイ!」ってやつ。
それを、女子大生っていう娘がやってるっていうのが、
なんかおかしかったし、
オレ自身、消防士ってカッコイイって思ってた子供だったから、
妙にストンとはまっちゃったというか、
気が付いたら、携帯のアドレス、交換してた。
酔ってたからかもしれないけどなあ。
で、それっきりだと思って期待も何にもなかったんだけど、
って、特にアドレス、消したりしたわけでもないけど、
しばらくして、市内の短大で小火があって、
出動したものの、まあ、大した事なく終わったんだけど、
その後、彼女からメールが来て、
「学校に来てくれてありがとう。見ててかっこよかったです」
その時、やっと彼女の学校だったのかって知ったぐらいだったんだけど、
つい、返信メールしちまった。
「よかったら、またあいませんか」
あの髪型、あの眼鏡、やぼったい服。ぺったんこの靴。
でも、笑顔は可愛いなって、思っちゃったよ。
それと、地のままなのもいいなって。
ファッション同様、着飾ってないんだよ。彼女。
言うこと、やること、みんな地のまま。
だから、こっちも気楽でいいっていうか。
彼女と会ってるとホッと出来るっていうか。
メシも食わせてもらったけど、手料理だったし、
それも家庭料理っていうか、派手じゃないけど、
でも、おいしかったし。
それとな、彼女を見てると、
仕事、頑張らないとな、って気持ちにさせてくれるんだよ。
遊んでちゃ、ダメだ。ホスト気分じゃダメだ。
やりたかった消防の仕事、一生懸命にならなきゃダメだ。
彼女にそう言われているような気がしたんだ。
まあ、いつのまにやら、すっかり参ってたというか、
それで一緒になろうということで。
え、すっかりノロけ話だってか?
だから、おもしろい話なんかないって、最初に言ったろ?
まあ、おもしろいかどうかは別にして、最後にな。
実は新婚旅行、外国に行く予定だったんだけど、
旅行に行く直前、空港にまで行ってだぞ、
パスポートがないって言い出したんだ。
青ざめた顔でカバン、ひっくり返すんだけど、出てこない。
いや、結構、ドジで、天然だって事は、
もう、その頃わかってたから、
あ、またやったなって感じだったんだけど、
出発時間は迫ってくるし、
とうとう旅行は断念することになっちゃったんだ。
彼女はヒックヒック泣きながら帰るし、
家に帰ることなんか恥ずかしくてできなくて、
急いでホテル取って、泊まったんだけど、
チェックインの時に、ポトッて落ちたのが、パスポート。
大事な物だからって、カバンのいつもは使わないところに入れたんだそうだ。
それをすっかり忘れてたんだとさ。
まあ、またそこで大泣きでさあ。
もう、こっちは呆れるばかりで、怒る気にもならなくて、
こりゃ、先が思いやられるぞって、
新婚早々、思ったのも事実なんだけど。
いや、今度はノロけ話じゃないって。
その夜、彼女とホテルのTV見てたんだけど、
海外ニュースで、テロ爆発をやってたんだよ。
コワイね、って言ってたら、
どこかで聞いたことある名前だっていうだろ。
急いで新婚旅行の行程を見てみたら、
なんと、その夜、泊まる予定のホテルだったんだよ、そこ。
もし、予定どおりに行ってたら、
もし、彼女がパスポートを忘れてなかったら、
どうなってたんだろ。
そう思うとゾッとしたね。
彼女も青い顔、してたよ。
もしかすると、この娘、幸運の女神か?
そう思ったら、なんか、惚れ直したというか、
その夜は、二人抱き合って寝たよ。
まあ、それは予定どおりだったんだけどね。
そうそう、もう一つ。
次の朝、彼女が言うには、
夢を見たんだとさ。
夢の中で女の子が、ペコンって頭さげるんだって。
「よろしくお願いします」って言うと、
彼女のお腹の中に消えていったんだとさ。
だから、生まれる子は、女の子だって言ってた。
そしたら、やっぱり女の子だったんだよ。
だから、名前も女の子しか考えてなかった。
柚芽ってね。
うーん、おもしろい話ってこんなとこしかないぞ。
あ、決定的なのが一つ。
奥さんの手料理の話、さっきしたろ。
実はアレ、全部おかあさんの手料理だったんだ。
彼女は決定的に料理、ダメなタイプだったんだよ。
だから、砂糖と塩、醤油とソース、間違えるぐらいは可愛いぐらいで、
包丁は持ち方から言わなきゃならなかったし、
天ぷらやフライは、火災報知器がならないか、心配で、付いてなきゃならないし、
関東煮に味噌ぶちこむものだから、おでんやらみそ汁やらわけわかんないし、
食える物がでてくるようになるまで、だいぶ時間がかかったなあ。
それが一番おもしろい話かもしれないな。
嫁さんには注意しろよ。
まあ、何しゃべってもノロけになるぐらいが、一番いいんだけどね。
こうやって、どんどんスピンオフしていくのでせうか。
本編も進まないのに。
とにかく、下手な鉄砲です。よろしくです。