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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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サクサク読める短編集

それでも真実の愛に殉じますか?

作者: 2626
掲載日:2026/05/14

 ソロ公爵家の一人息子、貴公子ノヴァ。

彼は今日という今日こそ、大嫌いな婚約者のミレナ相手に婚約破棄を叩きつけるつもりでいた。

何故なら彼には真実に愛する(ひと)ニコレがいたからである。

清楚で明るくて無邪気で優しいニコレ。

対してミレナは第五王女と言えど、生意気で鼻持ちならない高飛車な女。


 ああ!

貴族と平民の身分を超えた唯一の真実の愛に生きたいのに、その真実の愛を引き裂く忌々しい女ミレナ!

ノヴァは疑うことなくそう思っていた。


 ノヴァは見目麗しい貴公子だったが、今は完全に真実の愛に酔いしれていた。

王女であるミレナを公爵家に呼びつけた上に、隣に座らせたニコレの肩を抱いていざ婚約破棄を――!


 と思ったが、ミレナは侍女にしてもみすぼらしい格好の若い女――幼さすら残る少女を連れていた。

その少女はおどおどと挙動不審に周りを見ていたが、ミレナが扇を開くと、一度小さく体を震わせた。

しかし、怖ず怖ずと言った様子で口を開いたのだった。


 「……ソロ公爵令息様に、挨拶します」

悪女ミレナめ、こんな女を連れてきて何を企んでいる?

ノヴァは訝しがった。

「誰だね、貴様は?」

少女はまた小さく震えたが、それでも言葉を続ける。

「え、ええと。 私は、ロルト・カローノの娘です。 ロルト・カローノ、覚えていますか?」


 誰だ?

咄嗟に記憶を探ったノヴァだったが、すぐに思い出した。

そうだ。

十四、五年ほど前に王家主催の夜会で、『真実の愛』だと叫んで派手に婚約破棄騒動を起こしたことでカローノの一族からも絶縁され、貴族の地位を奪われた男――。

「っ!」

急に冷や水を浴びせられたような気分になって、ノヴァは声が出せなくなった。


 「婚約破棄をしたロルトは……いえ、父は。 私の母と結婚しました。 でも、貴族から堕ちた父は。 働くことも、家事をすることも、母を手伝うことさえもありませんでした。 毎日お酒を飲んで、母を殴って、それで奪った金を使って賭事に興じて。 母がたまりかねて私達を連れて逃げようとしても、カローノの一族はそれを許しませんでした。 私達が何処に逃げても父は現れるんです。 母は体を病んで、心を病んで、去年、死体で見つかりました……」


 ――ガタガタとニコレが震え出した。

確かにノヴァとニコレは愛し合っている。

手を取り合って将来を誓った仲だ。

だが、その将来をどうやって生きるかということは二人とも何も考えていなかったのだ。


 今は貴族だから貴族として生きていられる。

では貴族では無くなった後は?


 思わずニコレは己の肩を抱きしめるノヴァの白くて綺麗な手を見つめた。

綺麗な手――全く以て、自力で生活できる平民の手では無かった!


 それに気付いてか気付かずか、少女は話し続ける。

「母の葬儀もせずに、父は私を娼館に売りました。 賭博の借金の形に、です。 まだ娼婦として働ける年じゃ無かったので、今は下働きですけれど。 でも、父はその後すぐに死にました。 誰かに殺されたようですが、犯人はまだ捕まっていません……」


 誰が犯人なのかは、言わずとも分かった。


 「それでも」

真っ青になって震える二人に少女は泣きそうな顔をして告げた。

「真実の愛に殉じますか?」




**********


 ソロ公爵家から王宮へ帰る馬車の中。

王女ミレナはご機嫌で少女に話し掛けた。

「貴女、よくやったわ。 これで結果がどうなろうと、約束通りに王宮の見習い侍女として雇いましょう。 それと貴女の病身の弟にもきちんとした治療を施しましょう。 そうね、貴女の働きぶりによっては、私がカローノ家に取りなしても良いわ」

わっと少女は泣き出した。

「ありがとうございます、ありがとうございます、王女様! 私、精一杯働きます!」

しばし少女が泣き止むのを待って、王女は独りごちるように言った。

「……あんな男と結婚しなければならないなんて。 全く、私も窮屈な人生ね……」

少女は目を輝かせた。

「お任せ下さい、王女様。 私、そういうの凄く得意(・・・・・・・・・)なんです! 今までは生きるために仕方なくでしたけれど、王女様のためでしたら――!」




 数ヶ月後、王国を悲劇が襲う。

王女ミレナとの挙式当日にソロ公爵家へ何者かが押し入って、一人息子ノヴァを殺害したのだ。

後の調査で犯人は元愛人のニコレだと判明した。

彼女がノヴァから贈られ、身につけて自慢していた髪飾りが殺害現場から見つかったのだ。


 さては、振られた腹いせに逆上したか。


 ニコレは最期まで『私じゃない!!!!』と容疑を否認していたが、揺るがぬ証拠を突きつけられると青ざめて泣き出した。




 王女ミレナはその後、自由に生きた。

彼女は常に一人の侍女を伴っていたそうだ。

誰が母を殺したのか。

誰が父を殺したのか。

誰がノヴァを殺したのか。


真実を語る者はもういません。

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― 新着の感想 ―
そういうのが得意にならざるを得なかった少女の前半生を思うと悲しくなりますが、王女にずっと仕えて幸せに暮らせてたらいいなあ。
「そういうの」得意なんだ~ やっぱ、手に職はつけとくべきだね☆
果たして体面を傷付けられた貴族が報復ををしないなんて有るだろうか、いや無い(反語)
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