御力量りの儀
第7話です
楽しんでいただければ幸いです
「これより御力量りの儀を始める。」
社の宮守、藤十郎が重々しく宣言する。
藤十郎の前に並ぶ同年代の男女15人は、揃って緊張の面持ちである。
「それでは『量りの泉』へ参ろう。ついて来なさい。」
子供達は藤十郎に付いて、社殿の脇から山道を登り始めた。20分ほど歩いた山の中腹に開けた平地があり、平地と山との段差から湧き出た水を湛える6畳程度の大きさの泉があった。
1列に並んだ子供達を前に、藤十郎は説明を始めた。
「これが量りの泉だ。足元に転がる石をどれでもいいから選び、一つを手に取れ。」
言われた子供達は懐疑的な顔をしながらも各々思い思いに石を手に取る。
サクヤは深く考えず、適当に足元にあった石を手に取る。巫女になりたいわけでもなかったので、特別想い入れもないから深く考えなかった。
「では順番に泉に石を浮かべよ。御力のある者がしっかり念じれば、石の色形に関わらず水に浮く。御力無き者は、普通に沈む。順番は決めぬので、しっかり念じれたと思う者から私に申し出てやってみよ。」
言われた子供達は戸惑いと懐疑的な顔に彩られたが、その内の1人が真っ先前に出た。
「俺からやる。」
調子者で有名な男子であった。
慎重に水面に供えるように石を置いたが、石はそのまま底に沈んでいった。
「御力はなかったようだな。社までは共に帰るので、後ろで待っておけ。」
少し項垂れて男子は下がっていく。
「じゃあ次は俺が行く。」
小平太は覚悟を決めた顔で藤十郎に告げた。
緊張の面持ちで、水面に石を置く。手から離れた石は、一瞬沈んだかに見えたが、ゆっくりと浮かんできた。
「うむ、其方は御力があるようだな。その石を再び手に取り、そこの祠に供えよ。」
小平太は石を手に取ると、サクヤの方を振り返り得意げに笑顔を見せた。
そのまま子供達は順番に『量りの儀』を行っていき、最後になったサクヤまでに6人が成功していた。
(私の番か…。正直どっちでもいいんだけど、母様の話だとまず間違いなく浮かぶんだろうなぁ。)
昨夜、コノハはサクヤに治癒の御力があるであろうことを告げた。
夢の中?で神様にも言われたことだが、治癒の御力があることを里の者に知られるのは良くないらしい。詳しい事情までは教えて貰えなかったが、怖い笑顔で説明するコノハに、黙ってコクコクと頷くしかなかった。
御力があるのは間違いないから、弓の腕を御力だとしておくよう言われ、多少の不安はあったが納得したはずだった。
(いっそ沈んじゃえばいいのに。)
面倒になったサクヤは、禄に念じることもなく石を泉に放り投げた。
しかし、石は水面に着くとピョンと跳ね上がり、サクヤの手元に戻って来た。
(((えっ?!)))
サクヤを始め、そこにいた全員が呆気にとられる。
「其方、今何をした!?」
「いや、石を泉に…。
きっと何かの間違いです。もう一度置いてみますね。」
あたふたと言い訳をしながら、今度は慎重に石を水面に置く。
今度は静かに水面に浮いた。
(やっぱり浮くんだ。あぁ、余計な事しなきゃよかった。)
藤十郎は何とか気を取り直し、サクヤが石を祠に供えるのを確認すると、全員に社殿に帰る旨を告げる。
山道を下りながら、藤十郎はサクヤに話しかけた。
「サクヤといったか。量りの儀は厳粛な儀式である。石を投げ入れるのは流石にやめてほしい。」
「はい…、ごめんなさい。」
サクヤは、やってしまったと思いながら、投げやりになって至らぬことをしてしまった自分を悔いた。
「石が沈んだ者は帰って良い。ただ、石が沈んだからといって御力がないわけではない。御力が増える時期が遅い者もいる。どうしても宮守や巫女になりたかった者は、善い行いを続け、好き嫌いなく山の物を食べれば御力が増えることもある。来年もう一度量りを受けることもできるので、気を落とさぬように。」
藤十郎の言葉に希望を抱いた顔をした者もいたが、多くは再挑戦する気は無さそうな顔で帰路についた。
「では、残った7人は、これから1年かけてお役目の適性を確認していく。また、基本的な知識を身に着けねばならぬので、そちらも私が教えていく。今日は緊張もしただろうし、親にも早く知らせたほうが良いだろうから、明日から着てくる装束を受け取ったら帰ってよい。」
そう告げられ、装束を受け取ると帰路に着いた。
「やっぱり浮いたのね。」
「コノハさん、正確には違う。跳ね返ってきたんだ。」
サクヤは小平太と共にコノハに報告した。
何故付いてくるのだろうと、サクヤは訝しんでいたが、あの出来事をコノハに報告するためだとわかり、小平太に文句をいう。口論を始めた2人を他所に、コノハは1人溜息をついた。
(まぁ、巫女になるとこまでは予想通りなんだけど、何をやってるのかねぇ、うちの娘は。)
「はいはい、もうわかったわ。小平太も早く家に帰って報告しなさい。」
「わかったよ、じゃあな妖!」
「また言ったわね!早く帰れ、腰抜け!」
「で、なんで石を投げ入れたの?」
「だって…。元々巫女になりたかった訳じゃないし、御力を隠せとか、誤魔化せとか言われて面倒臭くなっちゃって、いっそ浮かなきゃいいのにと思って…。」
「宮守に叱られなかった?」
「チョットだけ…。」
(だろうねぇ…。)
コノハは少し宮守に同情した。石を放り投げたうえに、跳ね返って来たのだ。宮守が受けた衝撃は、想像に難くない。
「わかったわ。巫女に選ばれた以上はお役目を果たしなさい。明日から御社通いが始まるんだから、今日は早く寝なさい。」
お読み頂きありがとうございます。
サクヤが巫女になりました。
これからのサクヤの活躍にご期待ください。




