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サクヤの弓

第4話です

サクヤの特技の話です

「小平太、今から弓の稽古?」


ギクッ!という音が聞こえそうな小平太の背中は、ギクシャクと顔だけをコチラに向けた。


「お、おう。明日は皆で狩りに行くから、少し慣らしておこうと思ってな。」

「じゃあ、私も久し振りにお稽古しようかな。」


 今度はガクッ!という音がしそうなほど、小平太は俯いた。


(サクヤと稽古すると自信を無くすんだよ…。)



 サクヤと小平太が弓場へ行くと、そこには小平太と仲のいい里の男子3人が待っていたが、サクヤの姿を見るや、小平太の首根っこに腕を回し、サクヤから離れて行く。


「何でサクヤを連れて来たんだ!」


庄吉は囁くような声で怒鳴る。


「俺だって連れてきたかった訳じゃない。でも、来るなとは言えないじゃないか。」


 サクヤと同年代の男子達は、器量の良いサクヤと一緒に遊ぶのは本来喜ばしいことだったが、こと弓の稽古だけは事情が異なった。

 サクヤは不思議なほど弓が上手く、的を外すことなどまずなかった。

 サクヤは他の里の娘に比して背が高く、小平太と変わらない。(母親であるコノハも背が高く、里の男と同じくらいで、父親である彦次郎はもっと高かった。)

 幼い頃から小平太達と野山を駆け回っていたので、身体能力も高い。持って生まれた筋肉の靭やかさと強さがあったが、一見すると細いうえに美人顔なので、儚そうに見える。

 単純に腕力比べをすれば、男子に敵わなかったが、弓を引く力は彼らより強く、飛距離も精度も男子達より上で、下手をすれば宮守の弓の名手に比肩するのではと男子達は思っていた。

 そのくせ、人に教えるのは恐ろしく下手で、誰もサクヤの言っていることを理解できなかった。


「だからぁ、背筋をピーンと張って、全身の力で弦を引いてぇ、風を肌で感じながら的だけを見据えて、当たれ!って思いながら静かに離せば的に当たるわ。」


((((当たらねぇよ…。))))


 サクヤのアドバイスは技術的な話が一切なく、感覚のみを伝えるので、聞く方はチンプンカンプンである。


「ほら、もっと大きく静かに息を吸って!庄吉は足の指でしっかり地面を掴まななきゃ。」


 4人の矢と自信は、彷徨うように飛んでいく。


「矢の方向を疑っちゃだめよ。当たると信じて射らなきゃ。」


 サクヤは4人にアドバイスにならないアドバイスをしながら、自らも矢を放つ。

 そして、狂いなく的の縦中央に並べて当てると、5本目の矢で的の板(厚さ3センチ)を真っ二つにした。


(コイツは妖なんじゃないだろうか…。)


小平太は半ば本気で思った。



「なぁ、明日の狩り、どうする?」


 庄吉はすっかり意気消沈して、他の男子3人に話しかけた。


「いや、気持ちは分かるけど、俺は肉が食べたい。」

「俺もだよ。おっかあにも明日はウサギ汁だって宣言してきちまった。」


 しかし、4人共すっかり自信を無くしてしまっている。


「サクヤを連れてけば、獲物の確保は間違いないんじゃないか?」

「でも、サクヤは狩りにはついて来ないんだよ。ウサギや穴熊とかの小動物を射るのは可哀想になるんだと。」


 そう言った直後、小平太はふと閃き、サクヤに話を振る。


「なぁ、サクヤ。明日はサクヤも狩りに来ないか?」

「えぇ〜、動物を射るの可哀想で無理だよ。」


(食べるのは好きなクセに…。)


 内心を顔に出さず小平太は続ける。


「でも、穴熊や鹿なんかは、薬の材料にもなるらしいぞ。」

「えっ!?薬の材料?」


(薬の材料かぁ。食べる分なら里の人に分けてもらえるけど、薬の材料となると自分で採集するのが基本よね。そうかぁ、狩りに行けば自分で採集できるのか。)


 サクヤは思案顔から突然やる気に満ちた笑顔になり、


「私も明日一緒に行く!」


小平太は拳をグッと握り密かに笑った。

 



「小平太達が一緒だから大丈夫だと思うけど、気を付けるのよ。」


 コノハに見送られてサクヤは家を出る。


 髪はポニーテールにして狩り装束に身を包む。いつもの着物より山谷を移動するのに向いた程度の格好ではあったが、宮守である竹蔵の父親から譲り受けた、大人向けの小弓を担ぎ、颯爽と弓場へ歩いた。

 途中小平太とも合流し、弓場で残りの3人と待ち合わせ、山へと入る。


「小平太、ウサギも薬の材料になるの?」

「肉はならないが、肝や心の臓はなるって聞いた気がする。」


 気がするだけで確信はないが、獲物を獲るにはサクヤの弓が頼りなので、適当なことを言った。


「小平太ってサクヤの扱いが上手いよな。俺は話すだけで緊張するってのに。」 


 庄吉は他の男子に呟く。


「サクヤはおっかさんも美人だし、黙ってれば天女かと思うような器量だけど、喋るとまるで頓珍漢だから、俺は流石に緊張はしなくなったな。」


 竹蔵は百年の恋も冷めたような口振りで、サクヤを評した。


(竹蔵はわかってないな。あんな不安な言動で危なっかしいからこそ、守ってやりたいって思うんじゃないか。)


 小平太は心の中で呟いた。



 動物を愛玩の対象から薬の材料へと意識を変えたサクヤは、山に入ってから目にしたウサギやキジを、一匹も漏らすことなく狩ってゆく。

 射程距離の違う男子4人に出番はなかった。


「サクヤ、俺達も狩りたいから、(頼むから)少し休んでろ。」

「わかったわ。じゃあ私は薬草でも集めてるね。」 


 

 男子4人はキジの鳴いた場所を囲うように散開していく。

 サクヤは4人の様子を伺いながら薬草を摘むが、突然イメージが頭に浮かぶ。


(何か来る!熊?いや、大きな猪だ。あの大きさだと小平太達の弓の力じゃ足止めもできないわ。)


 サクヤはまだ見えないはずの猪が来る方向に向け走り出す。


(小平太が危ない!)



 小平太は音を立てないようにキジを囲むべく移動していたが、あらぬ方向からの物音に顔を向けた。


(何だ?何か来る!)


 慌てて音のする方向へ弓を構えると、藪から大きな猪が飛び出し、小平太に向け突進してきた。

 小平太は矢を放ち、猪に命中させたが刺さりもしなかった。


(ヤバい!)


 死をも覚悟した刹那、後ろからの声に反応した。


「小平太!伏せて!」


 小平太が目をキツく閉じ、身を伏せた直後、頭の上を風切り音が通過した。


 小平太はゆっくり目を開けると、すぐ目の前に眉間を矢で射抜かれた大きな猪が立っていたが、魂を抜かれたかのようにその場に崩れ落ちた。


 声のした方をゆっくり振り返ると、鬼神の如く立ち、二の矢を番え、弓を構えるサクヤの姿があった。


(やっぱり妖…、いや、サクヤは神様の使いかもしれねぇ。)


 猪が動かなくなったことを確認したサクヤは、構えていた弓を下ろし、安堵の笑みを見せる。


(いやいや、あの顔はやっぱり天女様だ。)


 そう心から思った小平太だったが、サクヤの一言に全力でその思いを振り切ることになる。


「ねぇ、小平太。猪も薬の材料になる?」

今日中に何話か上げる予定です。

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